ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「北のカナリアたち」試写会

 急遽行けることになりまして、TOKYO FMホールの試写会に行ってきました。一足お先に初カナリアしてきました。…うん、あの、すっごく、ずっしり、なんだけど、未來さん出演作だから、というのを抜いても、観て良かったと思える作品でしたよ…。気持ち的にかなり、つらかったですが。会場内も鼻すする音が響いていました…わたし個人は、あっわりと、そうでもないかな? 大丈夫っぽいかな?…と思いきや後半40分くらいでえらいことになりましたよ…。でも、どん底な気分になる終わり方では決して、ないので…でも…ううう。苦しい。利尻の大自然は、雄大なんて言葉が陳腐に感じるくらいのものでした。もっとたっぷり観たかった…!
 開映直後から、下手側のスピーカーの音がぷちぴちしてて、あれ?と思ったら途中からモノラル音声に切り替わったっぽくて、セリフが聞きとれない箇所がたまにあったのが残念でした。きっと映画館のドルビーサラウンドで聞いたら、全然違うんだろうな! それは公開後の楽しみにとっておきます。
 ネタバレというか、筋には触れていませんが、でもちょっとでも前知識入れたくない! どういう雰囲気かも知らないで観たい!という方はこの先お避け下さいな。あ、のぶちゃんは…愛しかったですよすっごく…。クニエとか云っててごめんなさい。むしろのぶちゃんはクニエのままでいて下さい。未來さんは、未來さんじゃなくてのぶちゃんでした。一緒に観た母をして「みらいが主役じゃない」と云わしめるのぶちゃんでしたよ。

 湊かなえ作品ということで、「告白」やら「贖罪」やら、何ともうひいいいとなってしまう*1恐ろしい作品を身構えかけましたが、そうじゃないものを意図されたということをどこかで目にして、そうか。大丈夫か。と警戒を解いたのですが、恐ろしかったりグロかったりはないけど、ないんだけど…もっと奥深いところがすごく痛む作品でしたよ。あらすじ程度しか知らずに観たので、過去と現在が交錯する構成に慣れるまでちょっと手間取ったけど*2 *3、そこが掴めたらあとはただただ、どうなってしまうのかとじっと凝視する感じ。ハラハラドキドキとか、息をもつかせぬジェットコースター展開とか、スリリングなサスペンスとかアクションとか、そういう派手さとはかけ離れた、登場人物の対話が降り積もる雪のように重ねられていく、ちょっと愛想ないくらいの実直さで描かれた、子供たちと大人たちと、かつての子供たち、の心の物語でした。登場人物それぞれが、それぞれの中に、言葉に出せずに隠し続けてきた痛みを抱え、大人も子供もそれぞれ傷つき、自分を責め、それが20年という時間をかけて、冷たい北の原野の中で、ゆっくりとほどけていく。白く、冷たく、恐ろしいほどの力を持つ自然の中で、本当に小さく無力な存在である人間が、それでもひとりひとり、精一杯傷つき、思い、悩み、打ち明け、溶けて重なる。厳しくて、きつくて辛くて悲しいのだけど、決して絶望ではない。抱えた痛みがほどけた先に見える光、救いには未だ至らないけれど、その兆しに指先はほんの少し、でも確かに触れている、と思える、思いたいラストでした。…でも、この先を考えると…いろいろやっぱり…つらいです…。大丈夫と信じてる、けど…つらい…。
 子供たちの歌声が、本当に澄みきっていて、まっすぐで美しくて、涙が出そうになるくらいなのだけど、歌声が澄みわたっているからと云って心まで汚れなく純真無垢かというとそうではない、そうさせてはくれない、のも湊かなえ作品だなぁ…と、さすが「贖罪」を書かれた人だと思いましたよ。そこは誤魔化さないというか、子供だからといって綺麗なだけでは済まさない容赦なさというか。それでも歌声はどこまでも美しいから、よけいに悲しい。つい勝手に、キラッキラでただただ美しい思い出の子供時代と、変わってしまった大人時代の対比、みたいなものを想像していたので、そこはけっこう…そうか。と、ずしっと来ました。でも、そうだよね子供だっていろいろ、そりゃあもういろいろ、あるもんね…。
 我らがのぶちゃんは、そんな中で唯一、子供時代も大人になっても純真無垢を保った奇跡のような存在でした。もうね、愛しくて…悲しくて…子供でも大人でも、彼が一生懸命喋ろうとするたびに苦しくて仕方なかった。今、日本で、のぶちゃんのような子が大人になっていくまで、どれだけの理不尽な痛みを味わわされるか、容易に想像できてしまうから、それなのに大人になったのぶちゃんは分校にいた頃と変わらないキラッキラの笑顔で手を振るから、辛くて…観ている間、泣くより唇噛み締めていたのは、悔しくて怒っていたんだと後で気がつきました。観てる時は何だかわからなかったんだ、ただ何だか苦しくてぎりぎりしてたんだ…。どこかで、のぶちゃんを演じるのが未來さんじゃなければ、もうちょっと素直に涙を流せたのかもしれない、という思いを持ちつつ、でも未來さんだからこそ、未來さんにしかできないのぶちゃんでもあって…でもわたしにはちょっと辛過ぎるんだのぶちゃんが未來なのは…可哀想とかより怒りになってしまうんだ…。だって仕方ないじゃないね、あんなにピュアで真っ直ぐで素敵で愛おしい子が、あんな理不尽な目にいろいろ遭わされてるのを見せられて、ただでさえ胸が痛みまくるのに、それが大好きなひとの顔と声してるんだよそんなん耐えられんわ…。
 ひかりちゃんもカッチもあおいちゃんも栄子ちゃんも龍平くんも、柴田さんも里見さんもトオルさんも、もちろん小百合様も、みんな「この人でないと」という配役で。カッチとあおいちゃんのシーンすごく良かった…あと個人的に、龍平くん演じるいさむっちゃんとのぶちゃんのシーンというか、関係性というか、がすごく…ヒリヒリしつつ愛おしかった。ので、龍平くんのあのシーンで涙腺決壊しました…。そして大人サイドのあれこれも…とにかく、どこのシーン、誰をとっても、胸が痛むのです。みんなみんな悲しいのです。
 固く凍りついた芯を抱えたまま時が経ってしまったみんなの心が、20年目にやっと柔らかくほぐれていったように、時間がかかってものぶちゃんの手の中に、あたたかくて消えない光が宿ることを願ってやみません。
 公開して映画館で観るのが、また楽しみになりました。

*1:決して嫌いではないけど

*2:すいません頭が可哀想で…

*3:あとはる先生変わらな過ぎてさ…