ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

せんだい卸町アートマルシェ@せんだい演劇工房10-BOX(10/13、14)

 先週の週末、ぴゅっと仙台まで行ってきました。仙台市卸町という問屋街にある、せんだい演劇工房10-BOX及び能-BOXという小劇場群?を会場に、日本各地の小劇場で活躍する劇団やパフォーマー、ダンサーが集まるアートフェス、通称「おろシェ」を観て?きましたよ。今回で2度目の開催とのことですが、こぢんまりだけどめっちゃくちゃ楽しかった!! お芝居やパフォーマンスいっぱい観た!!

 プログラムは、短編2作品をセットにした「コンビネーションステージ」と1作品で1プログラムの「カンパニーステージ」の2種類、あと会場の中庭にあたるウッドデッキで観覧無料のイベントが催されたりもします。会期が10月11日の木曜日からだったので、前半のみ上演の作品は観られなかったけど、土日で観られるものはできる限り観た(笑)。フェスなので販売ブースやキッチンカーも出て、仙台初のクラフトビールや地酒の販売もありまして美味しそうだった…。

 BOX内で上演される作品を観ていない間も、中庭のウッドデッキではコックコートにコック帽のシェフ姿の「おろシェフ*1*2が、いろいろ…口上を述べたり会場内の案内をしたりお客さんと立ち話したり、あとウッドデッキの真ん中に設えられた小さなステージで、その横にある本棚(「おろシェルフ」)からお客さんが選んだ好きな本の朗読を5分間してくれたり、していて、観劇と観劇の間の時間もとても楽しく過ごせました。プログラムの都合で間が2時間くらい空いちゃうことがあって、正直、駅前にできたイオンで時間潰すかなーなんて思っていたのですが*3、イオンいらなかった。時間潰すって感じじゃなかった。もっと観ていたいのに入場呼び出し始まっちゃったよ~って方だった(笑)。あんまりあの、小劇場系であるあるな、終演後ロビーに出演俳優さんたちが出てきて関係者やファンの方とご挨拶とか交流とかがやがやしている場、というがわたしは得意ではなくて、可及的速やかに立ち去る方なので、ぼっち参加だしちょっとしんどいかな…と思わなくもなかったのだけど、大丈夫だった…とても開放的でアットホームでぼんやり立ってても大丈夫で何だか楽しい場でした。助かった。

 とりあえず観た作品メモを。2日で11作品だよー盛りだくさんだよーでも印象薄まっちゃうとかごっちゃになるとかがまっっったくないのがすごい…。

劇団 短距離男道ミサイル 28発目 第一回 まさに奇祭!!シリーズ「『おまえとおれ生誕感謝祭』~宇宙の中心で産声を上げた男たちの群像~」

 こんな長いタイトルだったのか(笑)。仙台に着いて真っ直ぐ10-BOXに来て、フェスの雰囲気にきょろきょろしている間にもう開場で、黒くて暗い正しく箱状のbox-1に入ると、…トランクス1丁の男たちが大量に、床の上で寝て起きてうがいして顔洗って着替え(る真似だけし)てテレビつけてパソコン触って何か食べてまた寝て起きて…という動作を一斉に、ポクポクポク…という木魚のような音に合わせて黙々と、くりかえしているのでした…。何だこれ。爽やかな秋晴れの午前中から一体わたしは何を観るんだ。四角い箱状のフロアの壁際3辺に椅子が並べられ、それが客席で、あとはがらんと黒くて広い空間、真ん中に鉄パイプで櫓が組まれて、櫓の下が狭いワンルームのようにテーブルやテレビや雑誌が置かれてそこにも男がパン一でひとり。何だろうこれは。男子とおっさんとちょっとおじいさん?もいるけど全員同じぼっさぼさのカツラをかぶっていて全員パン一で、何十人もいるそれが同じ動作を繰り返しているのは流石に異様な空気です。臭くないのが不思議なくらいだ…。

 やがて始まるのは、外界に繋がる扉を金輪際開くことなく閉ざして引き籠った「俺」が、三畳一間の妄想閉鎖空間内で無限に増殖し、憧れのグラビアアイドルを召喚し阿鼻叫喚し、リア充のインスタやFBを炎上させ、大家の襲来をかわしつつ巡り来る春夏秋冬を繰り返す、その輪廻のような廻る悠久を、打破する時は果たしてやってくるのかどうか、無限増殖する裸の「俺」たちが徐々に、天岩戸に引き籠った神々の物語に重なっていくような、いかないような(笑)、三畳一間の妄想閉鎖空間が神話世界と繋がっていくような、いかないような…そんな不可思議な、でもとにかくハイテンションで裸祭な、物語でした。会場に足を踏み入れた時はどちらかと云うまでもなくドン引きだったわけですが、これがね、最終的に物凄い劇的祝祭空間に巻き込まれ、めちゃくちゃ爽快かつ自己肯定感及び多幸感に包まれて思わず涙をこぼすようなことに、なったわけです…凄かった。魂の浄化であり昇華だった。わりと終盤まで口ポカーンたまに失笑そしてあるある~って感じだったけどほんと最後のカタルシス凄かったわ…勢いが凄い、とも思うけど、勢いだけじゃあそこまでいけない。し、説明しても全然伝わらないと思うので、観てほしい(笑)。ヤマタノ大家さん凄かった(笑)。開演時、わー近寄らないで!!って思った「俺」たち(笑)が、終演時にはもう全「俺」と握手してハグして回りたいくらい愛しい俺たちだった…。適度なうぬぼれって大事だと思うんですよ生きていくのに…。

 開演前に撮影禁止と云われるのは普通で、カテコ撮影OKなんかは最近たまにありますが、撮影自由、写真も動画もお好きなように、我々はフリー素材です!!と云われるお芝居は初めてでした(笑)。フリー素材って!! 過去に全編撮影されてネットにアップされたそうですがそれもまたよし!ってすごい。でも写真撮ったりしていると頭に入ってこなくなる気がしてあんまり撮れなかった…し、撮ったものを見返しても裸祭過ぎて何も伝わらないという。いや、こんな写真だし確かに目にしたものもこういう光景だったけどとても良かったよ!! 午前中から観るものかどうかはともかく!!

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 そういえばわたしが観た回は広末派圧勝だったけど、違うこともあるよね? 違ってもあんまり影響はなさそう…というか、挙げられてたメンツが全員何となく黒ビキニグラビアのイメージがあるのが巧いな…?と思いました。わたしはサトエリ派だよーでも奥菜ちゃんも優香も捨てがたいのわかる…。そしてこのチョイス、世代が表れますよね。はい。渋いメンツ。

渋谷裕子「針が飛ぶ」/くちびるの会「猛獣のくちづけ」

 コンビネーションステージ2本立て、まずは渋谷裕子「針が飛ぶ」、ダンス作品です。黒いシンプルなワンピースで、ちゃぶ台がひとつ置かれた黒いハコで、テーブルを拭く、とか、つま先で床を摺る、みたいな何気ない動作のリピートが、だんだん「動作」から逸脱していく。ミニマムな動きが徐々にムーヴメントに変化していくにつれて、「人間」や「日常」から逸脱していくようなイメージでした。しなやかで、優しい温かみを感じるのだけど、いつの間にかちょっとした違和感、異質感、が生まれているような。針が飛ぶ、のタイトルを後で思い出して、同じところを延々と奏でる針の飛んだレコードみたいな印象は確かにあったな、と…今回とにかくタイトルを把握せずに観ることがほとんどで、観終わってから「ああ~なるほど…」ってなることが多かった(笑)。ちょっと優しくて柔らかいけどちょっと不思議な世界に迷い込んだような作品でした。

 続いてくちびるの会「猛獣のくちづけ」*4、こちらはお芝居。倉庫で働く派遣の男たちの先の見えない絶望感と、町で起こる奇妙な事件との意外な接点が明らかになった時、男たちの取る選択は…。リアルな絶望感に、ファンタジックなホラーがじわりと混ざり込む絶妙さと、そこからの展開に目が離せなかった! まさかそんな展開になるとは…でも決して嫌いではないです…。テーマは重くて、笑いは挟まるけれど軽妙というほどではなく、しっかりずっしりのまま、謎の疾走感に突入するラストへの畳みかけが、爽快とは違うけど心地よかった。面白かった!! そして彼らと彼らの町とアレたちがどうなるのか、その後が気になります。どうなるんだ…。

 山田うん×太田惠資ボレロ~秋風辞~」

 能-BOXという、倉庫の中に能楽堂がまるまる移築された面白い場所*5で、山田うんさんのダンスと太田惠資さんのヴァイオリンのコラボレーションを堪能しました。これが!! めちゃくちゃ!! とっても!! 良かったの!!!

 山田うんさんと云えばわたしにとっては、「メトロポリス」の振付を担当されたくらいしかこれまで接点がなく、踊る姿も観たことがなく、なのでどんな感じなのか雰囲気なのか全然イメージもなく、拝読したうんさんのインタビューとかブログとかツイートとかから受けるイメージは、ちょっとフシギなキュートな方、って感じだったのですが。踊ってる姿は、全然、違ったよ……でもブログやツイートから受ける「ちょっとフシギ」イメージの源は、何となーくわかるような気もした…。

 大きく背中の開いた金色の、たっぷりとした衣装に身を包み、短く切りそろえた前髪と長いウェイブのかかった豊かな赤い髪、裸足のつま先が、静かに能舞台の橋掛りに現れ、その後ろに背の高いひょろりとした影が、ヴァイオリンを携え姿を現す。音もなく舞台の中心まで進んだうんさんの背後で、ヴァイオリンが中低音域の和音を奏で始める。そこからもう、一気に引き込まれて、まったく目を逸らせずに食い入るように見入ってしまった…ほんと素敵だったんだうんさん…こんなに素敵だとは申し訳ないけど思っていなかった…。どの瞬間、どのコマで止めても美しい形になっているし、指先からつま先、髪の流れ、視線、全ての要素が美しさでできていた…美という概念の具現化だった…。また、踊るうんさんの表情が、瞬間瞬間で別人みたいで、別人格が表れているようで、本当に目が離せない。振りひとつの間に別の女性がそこにいるようで凄かった…無邪気な子供からシャーマニックな巫女、妖艶な踊り子に小生意気な少女、淫靡な娼婦、老婆、聖母、少し目線を動かすだけで次々に別の女性が現れて、めくるめく秋の風の中で金色の葉が次々に舞い上がって降り注いでいた…。ヴァイオリンがまた素敵で、情熱的だったり物悲しげだったり、タイトル宜しくボレロのようなリズムを刻んだり、刻んだリズムをサンプリングしてメロディを重ねたり、普通の楽器とエレキヴァイオリンを持ち替えていろいろな音を作っていくのも面白くて、そっちも観たいしでもうんさんからは目が離せないしで忙しかった(笑)。1時間弱の間、踊りっぱなしで、相当大変なはずなのだけど、息が乱れる様子も(わたしには)見えず、ふわりふわりと体重を感じさせない動きで、ただ背中にじんわりと汗が光るのみで、ただただ美しかったです。本当に、良いものを観た…!

 すごく勝手なイメージだけど、この人は「踊っている間だけが生きている時間」な人なんだな、と感じて、日々の生活が生きづらいんじゃないだろうかと少し心配になるのでした。踊ることのみに特化された「生」を生きる、そういう運命を背負っている人。それ以外の事象があんまり現実味を帯びていないし、あんまり重要に感じられない、そういう「踊り子」気質のひと、たまにいませんか。(※あくまで個人のイメージです。)

柿喰う客「いまさらキスシーン」/永守輝如「じんるい」

 初日最後のプログラムはコンビネーションステージで2本立てその2です。「いまさらキスシーン」は、劇団柿喰う客の玉置玲央さんの一人芝居で、わたしは2016年の柿フェスで一度拝見しているのですが、とても衝撃的でとても良くてとても悲しくてとても美しくそして最高にヤバいので是非とももう一度生で観たい!!となった、今回仙台まで足を伸ばした主目的です。そして玉置玲央さんは、ちゃんと観ようと思っている俳優さんです。現在公開中の映画「教誨師」でとても素敵…というと語弊があるけど素敵なんだもの仕方ない…えっと、素晴らしいお芝居をされているので是非ご覧下さい。あとわたし別に爬虫類顔が好みとかそういうわけではない。はず。なのだけど自分でもあまり説得力がないなぁと思っている最近…*6

 閑話休題。2年ぶりに会う天才女子高生・三御堂島ひよりさんは、2年前よりも生々しくて痛々しくて苛烈で女子で高校生で生きていた、2018年のひよりさんでした。生*7のパワーが迸る。けど、彼女の迸るパワーの行きつく先をもうわたしは知ってしまっているから、また会えたのはとてもとても嬉しいのだけど、ひよりさんに会うと即ちひよりさんは走り出してしまうしもう誰にも止めることはできないし、ただ一緒に最後まで走って見届けることしかできないので、会えて嬉しいのと同じくらいつらいんだ。…ということを、会ってひよりさんが走り出してから思い出すのでした。2018年のひよりさんは髪のワンポイントが赤くて*8、赤いのかー可愛いなーくらいに思っていたのに、あるシーンでその赤が完全に別の意味を持って視覚的に殴り掛かってきたので息が止まりそうになった…吐きそうになった…最高でした…。冒頭から演出というか構成というか、が変わっていて、えっ…ってなっているうちに走り出すひよりさんに、あとはもう振り落されないように必死についていくだけだったんだけど、冒頭のあの一節は意外性も相まってめちゃくちゃぞくっとした。

 もちろん、怖いばかりではないというか7割くらいはオモシロとキュートで出来てもいる作品なので、その辺は変わらず、いやその辺もよりパワーアップして、制服のミニスカ乱舞させながら恋に部活に勉強に、短い青春を文字通り駆け抜ける様はあらゆる意味で正しくひよりさんon stageでありました…そして玉置玲央劇場…。あの声と身体と顔と表情と動きと滑舌で、あの空間で、約30分という時間を何倍にも濃密に塗り込め埋め尽くしていく。赤やピンクやグリーンや、ヴィヴィッドな色を、どんどんどんどん塗り重ねて、いつの間にか全てが黒になっているような。ああでも、2年前に比べてコミカル感は下がったというか、より黒く塗り潰されていく感が強まったような印象はありました。ほんの少しの声色の違い、セリフの発し方、表情、目線、緩急、高低、たぶん大きな変更というほどのものは冒頭以外はそれほどないと思うのだけど、あの濃密で小さな空間では、ほんの小さな変化がものすごく大きく作用して、芝居そのものを、その見え方を、変えていくんだろうな。その辺りの自在感も、このひとり芝居の醍醐味というか、見どころというか、楽しみのひとつ、です。

 ラストまで目が離せない、衝撃と狂乱の疾走30分、その行きつく先がどこなのか、きっと観る人によっても解釈が違うんだろうけど、わたしは…一番最後の、せすじを、がとても美しい姿勢なのが、ああひよりさんはもう…、って思ってしまう。男前田先輩は東大に合格したのかな…。

 衝撃冷めやらぬまま続いて永守輝如「じんるい」。最初照明が暗くて、ちょっと席が離れてもいたので良く見えなくて、見えないながらも動きからあっ舞踏? なのかな?って思っていたら舞踏だった! 舞踏はあまり見たことがないのだけど、ゆっくりとしたムーヴメントが張り詰めた緊張感を生み出して、それを固唾を飲んで見守るのは好きな時間です。顔まで白く塗られた身体は、「人間」という種族的なアイデンティティまで曖昧にぼやかすようで、そこに蠢くさらりと冷たそうな質感の物体が果たして有機物なのか無機物なのか、そんな認識から視覚的に揺らがされる気がする。触れたら大理石のような質感なんじゃないか、って思う。けれど、横たわり両足と両手を宙に浮かしながら蠢かす肉体からは微かに、詰めた呼吸や漏れる息が聞こえて、確かにそれは生きている、と認識した瞬間に強烈に生を訴えかけてくる、のです。以前舞踏を観た時は、やたらな至近距離で、塗り込められた白粉の粒子まで見えるような距離感だったから、もっと生々しかった(笑)んだけど、今回はちょっと離れていたので、幻想的な、少し遠いものとして観ていて、その印象の違いも面白いなぁと思ったりして。

 太古の海に生物が誕生して、波間を漂い、陸に上がり、やがてヒトになるけれど、ヒトになった途端に何だか生物として所在なさげになる、ヒトになることによって「恥」も獲得する、そんな印象を受けました。ヒトになる前の方が堂々と、そのままの姿で居たのに、直立二足歩行の姿勢になった途端何だか心細げな、寄る辺ない風に見えてしまった…文明を手にすることによって失うもの、とか、知恵の実を食べるとか、楽園からの追放とか、何かそんなものを連想しました。イメージねイメージ。あと、白塗りだからご本人のお顔が最後までわからないままなのも不思議で、それも含めて面白かったです。どんなお顔されてたんだろう…。

 とりあえず以上で1日目終了~。ウッドデッキでの楽しいアレコレはまた別途書こう。初日終了後は仙台駅周辺に戻って、ちょっと素敵なカフェで夜お茶など楽しんだところ、うっかり摂取したカフェインにやられてせっかく良さめなホテルに泊まったのにほとんど眠れない夜を過ごしてしまったという、やらかし感満載な晩になったのでした…ほんとどうしてあの時タピオカミルクティなんか選んだんだ…無理だろ21時過ぎてるのにバカ…。

 そんなこんなでまんじりともしなかった体感の2日目、予想以上に寒そうで装備に不安があったので、朝卸町に向かう前にホテル近くのファストファッションなお店に寄り道して、あったか装備を整えました。昼間はそこまで寒くなかったけど、でも2日目も夜までコースだったからね…結果的にあって良かったあったかコーデだったよ…でも東京帰ってきたらあっつかったけどね…。

 2日目です。2日目は5作品!

dracom「ソコナイ図」

 2日目最初は「ソコナイ図」、何やらとても静かなお芝居のようで、開演中のウッドデッキもなるべく静かにご協力お願いします、とおろシェフからのお願いがあるほどなので、どんななのか、果たしてこのほぼ寝てないわたしは耐えられるのか、コンディション的に最悪なんじゃないか、と少し心配しながら挑みました。が…結果的には勝利だった…けど心身ともに大ダメージだった…めちゃくちゃしんどいやつだった…。楽しいフェスの朝から観るものじゃない!と思いつつ、でもこういうものが紛れ込んでいて知らずに出会ってしまうのもフェスの醍醐味でもあり。とてもつらかったけど観られて良かったし、ちゃんと観られて良かったです。

 大阪で数年前に実際に起きた、元資産家姉妹の孤独死事件をベースに、感情を一切排した、ぽつぽつと置き並べられるような独白台詞と、スローモーに近いゆっくりとした、音を立てない動きを用いて、年末のマンションの一室で救いの手からこぼれ落ちるように死んでいった姉妹の、世界から取り残された状況を描く、とても観ているのがつらくて、とても個性的なお芝居でした。動きも台詞も単調と云ってしまえば単調で、音楽や効果音もとても微か、独白はリピートが多く感情移入もなかなかしにくい、ほんと睡魔との熾烈な戦いになってもおかしくない感じだったけど、そのある種異様な空気がわたしはとても怖く感じられて緊張が弛む瞬間がほぼなくて、張り詰めたまま見終えた…。資産家の両親が残した不動産が、相続税を伴って姉妹に重くのしかかり、受け継いだ土地は不動産屋の口車に乗せられバブルの崩壊も重なり利益を生まないローンだけが残るマンションとなり、税の滞納ですべてを差し押さえられ、所持金は数十円、食べ物もなく電気もガスも止められ、そんな中で重ね着で師走の寒さをしのぎながら、静かに孤独に倒れ伏し消えていくふたつの命。2週間に一度、訪問してくる税務署の執行官は、インターホンを押しても出てこない姉妹に向けた手紙を毎回、新聞受けの中へ入れて帰り、状況の報告を受けた市役所の職員は、電話を待っていたのに残念ですと繰り返す。もう少し、もう一歩踏み込めば、ふたりは助かったかも知れないのに、無感情に「これが仕事」「残念です」と繰り返し、自分たち家族のバカンスの話を始める執行官や職員にとても苛立ちを覚えるし、非人間的が過ぎるとも思う。あまりにも無関心、無責任で腹立たしい…。

 …と思うと同時に、やることはやって勤務時間が終われば忘れる、やるべきことはやってるからそれはそれで自分のプライベートは別、な感覚は、サラリーマンとして絶対的にわかってしまう、感覚として理解できてしまう、部分もあって。それが余計につらかった。仕事のことは仕事の間に考えるし、休暇の旅行は楽しみだし、その感覚は別に特別悪いものではないはずで、普通に自分もそういう感じだし、でも人の命に関わってしまうことで、でも……ってなってとてもしんどくなった。人の命に関わらないから、わたしの場合は問題にならないけど、同じなのに…って。同じじゃいけない、んだろうけど、そこまでの責任を負うだけの「仕事」だって自覚があったのかなかったのか、そこまでの責任を負わなくてはならないのか、責任を負わされるに見合った待遇なのか、仕事って何なんだろうとか…ぐるぐる…。

 終演して外に出ると、フェスの楽しい空気で、あまりの乖離っぷりにぼんやりしてしまった。しばらく呆然としていたけど、あったかいものを飲んで一息ついたり、見習いシェフ*9とお話したら元気になりました。そういうのも助かるおろシェフ…ありがたい…。

山田百次「或るめぐらの話」/村田正樹「MURATA黄昏」

 次はコンビネーションステージ、山田百次さんのひとり芝居「或るめぐらの話」から。もじゃもじゃ頭に薄汚れた帽子、擦り切れたインバネスに袴姿で、黒い丸メガネをかけた山田さん…いや黒井善一が、よたよたと手探りで現れて箱に座る。屈託のない笑みを浮かべ、口を開くと、零れるように流れ出すのは津軽弁の朴訥な語りで…30分弱の小品だけど、とても詩情豊かであたたかみがあって、津軽弁はぎりぎり意味がわかるくらいの絶妙なラインだけど、その何ともあったかい音の流れや音楽的にも聞こえる抑揚が美しくて、本当に素敵な作品でした。戦後の青森で、放蕩の末にメチルアルコールを飲んで視力を失くした男が、失明に絶望して自死を選ぼうとするところを僧侶に助けられる人情物語が、男のひとり語りとして語られるのだけど、光を失くした黒井の目*10がキラキラしていて、人間としてはバカだなぁダメだなぁって感じなんだけどそれ以上に魅力的で、黒井も奥さん*11もお坊さんも生き生きと語りの中で生きていて、黒バックのセットも何もない黒い空間で、ただ語りのみで描かれる彼らの会話や日常や事件が、見えないけれど脳裏にありありと浮かぶようで、語っている黒井は目が見えないけれど、それを観ているわたしにも光景が見えないのはある意味同じ状況で、でもこんなにも光景が豊かに描かれるのか…というのがとても素敵で、見えない黒井と、見えるけどその光景は見えないわたしたちが、この瞬間だけは何かを共有できているような、そんな気がした…。

 特にラストが、見えないけれどちゃんと見えてくるし、ないけど全部ちゃんとあるし、むしろ見えないからこその豊かさでその光景を脳裏に描くことができるし、「見えないものを見る」という普段ほとんど働かない力を、黒井の語りが最大限に引き出してくれたような感覚がありました。しかもそこに描き出される光景の美しいことといったら…視覚的にはうっすら照明がピンクになって、聴覚的にも微かにざわめきが聞こえるくらいなのだけど、たぶんあの場にいた全員の脳裏には、満開の桜で埋め尽くされたお城と降り注ぐ桜吹雪が見えていたよね…。本当に素敵だった。魅了されました。山田百次さん美しかった。また観たい。

 続いて、村田正樹さんのタップ。タップダンス、だと思っていたし、タップ台も出てきてタップシューズも履かれていたけど、タップダンスでもあったけど、でもダンスだった! タップも含めたダンスだった…タップダンス、で括れる範囲じゃなかった。ダンスでありヴィジュアルアートだった。指先まで美しいダンスと、タップの靴音に、投射される映像が重なって、ノスタルジックで少し物悲しい、美しい光景が浮かび上がっていました。途中、映像にテキストが流れて、一瞬そっちに意識を持っていかれてしまうので、テキストはない方がいいんじゃないかな…なんて思ったのだけど、すぐに文字の羅列が目で追えないスピードと量になって、視覚情報が意味を為さなくなり、代わりにタップがどんどん饒舌になっていって、ああ、このタップは言葉なんだ、と思い至った。言葉であり、言葉にならない想いが全部靴音になって溢れているようで、とても饒舌な、語るタップでした。ラスト、暗闇の中で細かく刻まれる靴音が、だんだん小さくなっていくのに、息を詰め耳を澄ます時間が、何だかとても大切で、壊れやすいものをじぃっと見守っているようで、こういう時間を大切にして生きたい…と思うのでした。なんとなく。

 

佐々木すーじん×山下彩子「ヒト、ヒト、モノ」/捨組「あの場所、ふたり、あまやどり。」

 ついにおろシェ最後の演目です。わたしが観る最後の、でもありますが、おろシェ全体でもラストプログラムでした。寂しい(笑)。

 まず佐々木すーじん×山下彩子「ヒト、ヒト、モノ」、ダンス作品というよりは、ヒトとヒトとモノたちによる空間芸術というか、ダンスも含めたインスタレーションのような作品でした。何もない舞台に、すーじんさんがすごくフラットに、普通に、準備するスタッフかと思う佇まいで、椅子とか、空き缶が糸電話みたいに繋がったものとか、キッチンタイマーとか、何やらゴトゴトジワジワ音を立てて光るバケツとか、小さなノイズを鳴らすラジオとか、角材?とか、を点々と置いていき、舞台の対角線をなぞるように白いビニールテープを斜めに立体的に張り巡らし、小さなメガホンで「照明を消してください」と声を発すると照明が消え、下手に頭だけはみ出して寝転がっていた山下さんが、じわりと動き出す…何とも無造作な始まりでした。

 音楽も何もなく、照明は上手側の出入り口から差し込む外光が薄く白く光るのみで、テープで斜めに区切られ三角形になった空間を、光るバケツがジワジワゴトゴト鳴き、ラジオのノイズが隙間を埋め、黄色いたまご型のキッチンタイマーが時を刻む中、立ち上がった山下さんの赤い靴下が、静かに歩いたり、ゆっくりと片足を上げたり、素早くシュッと動いたり、膝を曲げてテープに沿って立ったり、して、そんな山下さんにすーじんさんが、角材を立て掛けたり…大きな何かが起こるわけでもなく、小道具たちはただそこにあってそれぞれに音を立てたり光を放ったり何もしなかったりで、無機質な小道具たちがちょっと有機的に見える反面、有機物な山下さんが何とも無機質な扱いをされているのもちょっと面白く、わたしはとてもわくわくしながら見つめておりました。

 最後まで、何か起きたり盛り上がったり(笑)もしないまま、時が過ぎて、すーじんさんがまたメガホンで「照明をつけて下さい」とぼそりと伝え、明るくなった中でお辞儀して終わり、という無造作感でした。でもその無造作な感じがまたちょっとだけ愉快で、ほんのりユーモラスに感じられて、かそけきものたちの小さな存在感に満ちた空間で過ごした、愛しい時間なのでした。何かね、幾何学的で無機質で可愛かった。

 そして大ラスは捨組「あの場所、ふたり、あまやどり。」、3人で演じられる喫茶店での素敵な、ちょっと不思議な物語でした。最後にふんわりほっこりなれたの良かった…幸せな気持ちでフェスのラストを飾ってもらえたのありがたかった…*12

 雨が降らない街のカフェにやってきた男が、カフェの席に座り、運ばれてきた料理を前に小一時間うーんとうなっている、という状況を、店主の女性と、娘でアルバイトの少女が左右から挟んで、微妙に違うセリフのリピートや、コミカルな振付みたいな動きを繰り返して話が進んでいく。ミニマルで振付っぽい動きがちょっと人形劇とか、紙芝居とか、そういう雰囲気も生んでいて、とにかく可愛らしいのでした。もしかしたら…かなぁ、と一瞬頭をよぎったものが、やっぱり!?ってなる展開だったけど、そのやっぱり!?は嬉しい方のやっぱり!?で、終始笑顔で観られる作品だったし、ふたりの首元に青い花が咲いた時にはじんわりと幸せな涙が滲みそうだった…あったかい気持ちになりました。ナポリタン*13食べたくなっちゃう(笑)。

その他/シェフの気まぐれリーディングとか

  その他って(笑)。でも、演目以外も盛りだくさんでめっちゃ楽しかったからその辺もちょこっと触れておきたい!! 

  • ウッドデッキにいるおろシェフさんに、おろシェルフという本棚から好きな本を選んでお願いすると、タイマーかけて5分間朗読してもらえる「シェフの気まぐれリーディング」、めちゃめちゃ贅沢な時間を過ごさせて頂いてしまった…。2日間で、玉置玲央シェフに「星の王子さま」を2回(2ヶ所)お願いしたのだけど、初日は上演中の作品に気遣いつつの小声でしっとりバージョンで、それもとても素敵で…額突き合わせるみたいな距離感で…たからものです…。日曜日は良いお声でクライマックス辺りを読んでもらって、それももう至福…。
  • 日曜日に「星の王子さま」読んでもらっている最中に小雨がぱらついて、玲央シェフが「王子さまの涙雨だー!」って云ってたのも素敵な思い出。
  • その後に本田椋シェフが悪霊退散なご本を読んでいたら晴れたのも面白かった(笑)。 雨雲退散された!
  • そして本田シェフは動物図鑑「どうぶつのくらし4 こどもをそだてる」朗読が絶品過ぎて、2日で4回くらい聞いた(笑)。図鑑というか絵本というかなんだけど、何故か絵に付いてるキャプションしか読まれない、絵も見せてくれない、なので何が何やらすべてこちらのご想像にお任せされる朗読(笑)。腹筋鍛えられるくらい笑った…最高でした…。あと「こどもがわかる栄養の本」も面白かったです。聞けなかったけど全力の「刃牙」もおっぱい連呼の「To Loveる」も聞きたかった…(マンガもいろいろありました)。
  • 本田シェフは全力の「おやゆび姫」も聞けて、途中からシェフ見習いさんと連れさん*14が即興芝居もつけてくれて、何かもうそれ朗読じゃないけど面白いからいいや(笑)。
  • 本田シェフは能-BOXまでの道を卸町ツアーと称してアテンドもしてくれて、歩きながら街の成り立ちとか、東北七県に含まれるのは新潟とか、仙台七夕祭りの吹き流しを作っている会社とか、ちょっとした観光案内もしてくれました。さらに帰りにもお迎えに来て下さってありがたかった!! 本当に、おろシェフさんたちがいてくれたから、プログラムとプログラムの間の時間もめちゃめちゃ楽しく過ごせて、イオンとか行かずに済みました。ありがたかった楽しかった!
  • 玉置シェフがお客さん?の子供たちときゃっきゃしてるのも良い光景だった…ずっと眺めていられるやつだった…子供たちも可愛かったなぁ玲央くんが嬉しそうにくるくるっと回ってから地面を這い滑るように何かすごい動きで近づいたら、怖がってママの後ろに隠れちゃったりしてたの可愛かった……。
  • パーカッショニストの熊谷太輔さんが、突然太鼓みたいなのを叩きながらウッドデッキを練り歩き始めて、それに連なってヴァイオリニストの太田さんも楽器出して弾きながら後に続いて、ダンサーの山下さんもうんさんも連なって踊って、とか、そういう突発的なお祭りみたいなのも起こって、なんて贅沢…素敵だった…。
  •  キッチンカーが2台来ていて、タピオカミルクティーとか、からあげ弁当とか、ローストビーフ丼とか、フード系もけっこう充実していました。牛タンボール?とか美味しかった!
  • お店ブースも可愛くて面白かった! こけしがたくさんいるブースでおみくじ引いたりとか、マフィンが美味しそうだったりとか、お茶屋さんで頂いたホットほうじ茶ミルクが美味しかったりとか、パン屋さん美味しそうだったりとか…お腹空くタイミングが限られていて買えなかったの残念だったな…。
  • 仙台のクラフトビールと、あと日本酒の冷酒と熱燗、にごり酒なんかもありました。おろ酒だった(笑)。お酒飲めたら熱燗とか絶対美味しいだろうにな~日曜日なかなか寒かったしな~。
  • 最後のプログラムが終演後、打ち上げ的なイベントも催されて、ウッドデッキで芋煮会がありました。がわたしは新幹線の時間があって参加できず無念…。
  • 芋煮会の準備中に、出演者大集合のざっくばらんなトークイベント的なものが急きょ開催されたりして、こういう臨機応変で柔軟で何でもありな感じもとても楽しかった。出演してみてどうだったとか、お互いのなれ初めとか、おろシェというイベントの成り立ちとか、いろんなお話が聞けました。去年が第1回開催で、その反省を踏まえての第2回が今回とか、おろシェフも、前回時間をつぶすのがけっこう大変だったとかの声があったので、どうしたら1日10-BOXに居続けてもらえるかを考えた、とか。イオンに行かせずに(笑)。ほんと、そういうホスピタリティがとても実感できて、まさしくイオンに行かずに1日過ごせたわたしがここにおります(笑)。

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 本当に楽しい2日間でした。小劇場系ってなかなか、きっかけがないと観に行かなかったりするし、地方で活躍する劇団は東京ではなかなか観られる機会もないし、そんなわたくしにとっては、新たな気になる劇団を知れたのもとても大きいです。機会があったらぜひ観たい作品ばっかりだったもの…。来年もおろシェ、また行きたいです。

*1:野々下孝さん(仙台シアターラボ)、玉置玲央さん(柿喰う客)、本田椋さん(劇団短距離男道ミサイル)の御三方

*2:わたしが行った土日は玉置さん本田さんがいらっしゃいました

*3:場所が問屋街の真ん中なのでなかなかカフェとかもないからね…

*4:これも結局タイトルは後から知ったよ

*5:おろシェフ本田さんによると、個人の練習用として建てられた能楽堂を、持ち主が寄贈して移築されたそうです

*6:口蓋が広そうな人は好きです。その点は玲央さんも未來さんもとても好み

*7:ナマじゃなくてセイ

*8:2016年はグリーンだった

*9:は「おまえとおれ生誕感謝祭」の主演さんでした

*10:は片目だけ寄っていて凄いんだ…

*11:最初のうちお母さんかと思った…

*12:やっぱり最後が「ソコナイ図」だったら死にそうな気持ちになってしまうから…

*13:という名の焼うどん

*14:どちらも短距離男道ミサイルに出演していた方でした