ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

モダンスイマーズ「ビューティフルワールド」@芸術劇場シアターイースト(6/22夜)

 良く目にするけどまだ観たことはなかったモダンスイマーズ、絶賛ツイートが気になったタイミングで追加公演のチケット発売情報を見かけたのでじゃあ行ってみるか~、と取ってみました。結論から云うと、行って良かった!! とても良かった!!! 何となくで取ったわたしえらい!!!

 前知識もあらすじも何もなしに行ったし初モダンスイマーズなので役者さんもひとりも存じ上げなかったけど、ただただ芝居の面白さに引き込まれた…脚本も演出も俳優も本当に良かった。テーマも展開も基本、重いというかしんどい寄りなんだけど、その中にも軽やかな笑いがあったり、美しい情景が描かれたり、しんどさの先の面白みがとてもカタルシスだったり、演劇の面白さってこういうのだよな~!!と改めて感じた作品でした。面白かったし、とても良かった。じんわり染み渡る良さが最後にひたひた寄せてきた…。

 四十を超えて引き籠りの夏彦は、実家の火事で焼け出され、親戚の家の離れに移り住むことになる。親戚家族は先代から受け継いだ家業の和菓子屋を潰し、今はカフェを営んでいる。その家の妻は、夫からモラハラを受け、娘にも小馬鹿にされ、宇多田ヒカルの歌の中に逃げ込むことで自身を慰めていた。世界に居場所のないふたりは出会い、身を寄せ合うようにひっそりと、離れで暮らし始める。中年の引き籠りが突然放り込まれた、ほぼ他人の家庭、他人の職場、他人の社会。不器用でいびつな「純愛」は、彼に、彼女に、その家族に周囲に、何をもたらすのか。

 正直、中年引き籠りにもモラハラ親父にも空気読めない奥さんにも柄悪チャラ店員にも思わせぶり確信犯バイトにも誰にも共感できなくて、うわぁこいつら全員ダメじゃん…とどちらかというと嫌悪感スタートだったのですが、そしてその嫌悪感に近いものは別に結局氷解したりもしなかったのですが、それでも全員それぞれに少しずつ、ああ、わかるなぁそれ……と思える部分がでてきて、結局誰が悪いとか、何が原因とか、わからなくて、ただ何というか…そうなっちゃったんだな、なっちゃったものは仕方ないな、という受け入れ方をするしかなくて。誰でも一度は抱いたことがある、何でこうなっちゃったのかなぁ、っていうぼんやりとした後悔というかコンナハズジャナカッタ感を、それぞれの裡に抱きながら、居心地の悪さを見ないようにして生きている人たちを観るのは、なかなかにこちらの居心地も悪かったです。褒めてます。こんな酷くないもん、と、でも似たようなものだな…の狭間で細くなっているような気がした…。

 特に1幕はしんどいシーンが多くて、ちょっと観ているのがつらいんだけど、2幕からまたぐいぐい話が転がっていって、とてもリアルな先にあるどうなっちゃうのこれ!?という(ある意味)超展開で凄かったです。しんどいの臨界点を突破した先にあるカオスの面白さ。それまでしんどかった分、その爆発力が高くて大変なことになった…(笑)。くだらなくてつまらなくて面倒くさいけど、ちょっと面白いこともあるこの世界、でも、人と関わらないと、関係性を築かないと、その面白い世界の輪にも入ることはできないんだな…と、カオスの輪から少し外れて傍観している夏彦を観ながら思いました。でもあのカオスに巻き込まれるのは正直、めんどくさい(笑)。わたしも夏彦の隣でどうなんのこれーってワクワクしたい方だからなぁ。

 夏彦と衣子さんの関係は結局、どちらも「そのまま」でいる為のお互いだったんだろうな。自分が少しも変わることなくそのままの状態で在ることを、受け入れてくれるお互い、だったんだろう。だから、ほんの少しの変化が夏彦に訪れると、そのズレに衣子さんは敏感に反応してああなってしまうんだろう。夏彦が「嫌いじゃない、だってもともと好きじゃなかった」って云うのはそういうことだろうなって…衣子さんも別に「好き」じゃなかったんだと思うよ…ただ、その時の自分がそのままの自分で在れる場所が、互いの元にしか見出せなかった、そういう関係性…だろうなぁ…。

 めちゃくちゃしんどいんだけど、でもめちゃくちゃ笑ったのはもう、ひとえに高倉さんのおかげですよね。ほんとあの…一番まともかと思いきや…お前…(笑)。globeの時点でん??とは思ったけどね!! いやでも最高でした。あのカオス本当に…演劇でしか味わえない滋味だった…状況は悪くなる一方だけど面白かったからいい。

 自転車が効果的で、逃げるのも、二人乗りも、桜も海も、綺麗だったり恐怖だったり悲哀だったり、その時々の疾走が絵になる。夏彦の、衣子さんの、みんなの、新しく生まれてくる甥っ子か姪っ子の、先に少しでも美しい世界が広がることを願うばかりです。ほんと、くだらないしつまんないし面倒くさいけど、でもちょっと気に入ってるから、まだここで生きてるんだよね、世界。

 終演後には蓬莱さんの創作朗読落語のオマケ付きでした。劇団20周年とのことで(それも知らずに行ってた)おめでとうございました。夫婦宇宙旅行という落語の背景に、劇団20年の軌跡が映し出されるのも歴史を感じて面白かったです。落語と関係ないところで笑ってしまった。

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