ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

イキウメ「図書館的人生Vol.4 襲ってくるもの」@東京芸術劇場シアターイースト(5/25夜)

 イキウメの短編演劇集観てきました。面白かった…掌編が3本、インターバルは暗転のみで綴られていくのだけど、それぞれがすこーしずつ繋がっていて、輪っかの鎖のように連なっている感じ。もしくは合わせ鏡や入れ子構造のような…舞台美術がまた、プロセニアムの額縁が奥にいくつも連なっていて、暗転中にぼんやりと光ったりする不思議なセットで、それも合わせ鏡の奥を覗いたようなイメージでした。美しかった…シンプルで幾何学的な、無機質な印象が、ぞわりとさせる効果もあってとても好きです。

 2036年と2006年と2001年を舞台にした、3つのストーリーはそれぞれ独立した物語なんだけど、あれっこれってもしかしてさっきの…?となる(でもならなくても特に問題はない)淡い接点というか重なりがふんわりと提示されていて、そういう仕掛けが大好物なわたくしはとても嬉しくなってしまった(笑)。嬉しいといえば、鳥髑髏の沙霧だった清水葉月ちゃんが「太陽」に続いて出演されていて、久しぶりで嬉しかったなぁ。イキウメらしい日常と地続きのSF感と、人間の内側に潜む、誰しも持っているちょっとした仄暗いもの、とか、優しさとエゴ、とかをざわざわと波立たせる静謐な不穏さは、短編の中にもしっかり息づいています。

 ネタバレというかストーリーに触れるので畳みます。

 

 1本目「箱詰め男」、2030年代。海外赴任から5年ぶりに実家へ帰ってくると、病に臥せっていた父親は変わり果てた姿になっていた。病に侵された脳科学者が自分の全情報・記憶をコンピューター内に移植、美しい寄木細工の箱の中に納まる人格と、その家族たちのお話。高性能臭気センサーを搭載して、コーヒーの香りから様々な過去の記憶/記録を「思い出す」父は、データを消去できないが故に過去の幻影に苛まされる。ほぼアレクサ(AIスピーカーの)みたいになっちゃうお父さんは面白くも哀しかったけど、その先の展開は「プルートゥ」や某アニメ作品を思い出したりして。記録と記憶、とか、消えない、消せないデータ、とか…。スリープモードに入れればいいのに、とか思ってしまった。夜だけは電源落とすとかさ。だめなのかな。寄木細工を透かしてぼんやりと明滅するお父さんが美しかった。

 2本目「ミッション」、2006年。ある衝動に駆られ、それに逆らわなかった為に服役し、出所してきた青年と、彼の周囲の人々。青年は「衝動」に従うことが世界を救う、彼がそれに従わなければ多くの人が死ぬ、そんな妄想にとりつかれる。彼の服役中に大きな事故や災害で多くの死者が出ていたことも、その妄想を信じ込ませる要因になったんだろうな、という。云ってしまえば中二病で終わってしまう、のだけれども。自分がバタフライエフェクトの蝶だと信じてしまった青年が痛々しくも恐ろしい。大窪人衛さんのこういう役はキレッキレで流石です。

 で、「箱詰め男」のお父さんが苛まれる過去の記憶?が、30年前に精神的に不安定な弟とそのガールフレンドの仲を裂いた?ことのようで、青年の兄がお父さんの声を演じている安井順平さん、という。

 3本目「あやつり人形」、2001年。大学3年で就職活動中だけど本当にこのままでいいのか悩む少女。母親のがん再発をきっかけに、彼氏とも別れ、大学を辞める決意をするも兄に止められる。街中で偶然再会した元同級生が、寄木細工職人を目指し弟子入りしていることにも刺激を受け、自分の意志、自分自身の本当の意志はどこにあるのかに気づく。「大学くらい出ておいた方がお前の為」という兄は、母親の治療法も(母親の希望とは関係なく)「最新の治療を受けて長生きしてもらうのが一番」と決めつけ、対立する。彼女は自分の兄や彼氏の頭上に、大きな黒い岩のようなものが浮かんでいる幻覚を見る。QOLとか、間違った「優しさ・善意」の苦しさを考えさせられる話でした。兄は優しい、彼氏も優しい、それはわかる、けどその優しさは「違う」。少女が語る、幼い頃に父親の死を母から伝えてもらえず(可哀想だから)、他人から知らされたという記憶、その母親の優しさも「違う」。少女役の清水葉月ちゃんが素敵だったのと、兄役の浜田信也さんの姿の美しさがとても眼福でした…ほんと3ピーススーツのジャケット脱ぎ最高…*1。観終わって改めてタイトルを見て、タップを踏む兄の姿、そしてラストの力なく座り込む兄の姿が蘇りぞっとする。し、黒い岩に操られていたようにも思えて、あの岩の出現がじわじわと怖くなってくるのでした。誰にもあって消すことのできない黒いもの、大人しくしてもらいながら共存していくしかないもの、がん細胞、隕石、地球外からの侵略者、いろんなものに見えてくるのでした、あれどのタイミングで出て来たのか気づかなかった…気づいたらもうあった…。

 で、少女に距離をおかれる彼氏が「ミッション」で人衛くんの同僚さん(ストーカー禁止法で彼女に接近禁止を言い渡された過去あり)、だったり、高校の同級生が寄木細工職人に弟子入りしていたり(きっと35年後には立派な職人になっているのでしょう)、そして母親が見た夢は箱になったお父さんの電源を落とす、という。見事なループ、メビウスの輪のような連なりに、観終わって深いため息が出るのでした。こういう仕掛け本当に好きだ…。

 テーマもテイストも重めに見えるけど、実際は笑えるところもけっこう多くて楽しく観られました。アレクサお父さんけっこう悪くないんじゃ…とか思ってしまうくらい(笑)。盛隆二さんの普通っぽさが新鮮だったり、森下創さんの相変わらずのヤバっぽさ、安井順平さんの声の安定感(お父さんは生声なんですってね)、浜田信也さんの姿の美しさと人形っぽさ、大窪人衛さんのピュアな危なさ脆さ不安定さ、イキウメメンバーは堪能しつつ、田村健太郎さんのキワッキワなヤバさ、小野ゆり子さんのナチュラルな健康美、清水葉月さんの可憐さと芯の強さ、千葉雅子さんの穏やかな強靭さ、客演陣の魅力も堪能できた掌編でした。とても良かったし、次も楽しみです。

*1:いつものやつ