ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「変身」虫観察日記3日目

 休演日明けのソワレ、観てきました。カメレオンさんが下さった素敵席、は、両隣とさらにその隣がお知り合い、という、とっても素敵な席でした(笑)。あ、隔離席か。
 レポというよりは雑感ですが、ネタバレに配慮した覚えがないので、畳んでおきます。
 

 
 
★この先ネタバレあり★
 
 

 本日の虫観察日記。というか雑感。

  • グレゴールの家族はみんな、常に虫グレゴールに背を向けている、グレゴールを見ないようにしている、のはわかっていたのですが、今日気づいた。人グレゴールの時も、常にグレゴールは家族の背後に立って、彼らと正面から向き合ってない! 一回もない!
  • 人グレゴールの時から、家族は彼に背を向けて、彼を見ないようにしていた、ってことですよね。人である頃は、全てをグレゴールの世話になり、全てを彼に背負わせている負い目から目を背け、虫になってからは、その存在そのものから目を背け…結局、グレゴールと正面から向き合った者はいなかった、ってこと…かしら…。
  • 全てを背負って背を向けられている状態から「もうやだ!」と虫になった、のに、虫になったことによって、全てを背負わせまた背を向けられるグレゴール…何か、カフカ残酷だ…今更だけど、改めてそう思う…。
  • 本日、最前列観劇でした。ありがとうございました。圧巻でした。
  • 何となく、グレゴール虫は、目があまり利かない種類の虫に見えました。目より指というか触覚?系で、探りながら動いてる。常に人差し指〜中指の先で、確かめてから動いてる。
  • 音とか匂いとかも、触覚やら足の繊毛で感じてるっぽく見えるんだ。
  • …と思った途端に、グレゴールの顔が顔に見えなくなった! ええと、未來さんの顔が虫の顔部分と思えなくなった! ていうか、虫の時は顔よりよっぽど、手の方が表情豊かに見えてきた…。
  • 何となく、トンボとかハエとかの複眼イメージで見ていたのですが、今日感じたのはもっと…かなぶんとかカブトムシ系の*1、あんまり視覚に頼ってないような、だから触覚と毛で感じてるような、そういう虫に見えました。中指の先で見て嗅いでるよきっと!
  • 人間の動きが極めて抑制されている、記号化されている中で、虫だけが自由気ままに動いてる、ように見える。演じるのは一番大変なんだけど、でも一番自由に見える。解き放たれている。…人間として生きる生の束縛から? 虫としてそこから逸脱したから動きの制限がなくなった?
  • 時間軸も虫だけ別ですよね。家族がスローモーションになるシーン*2でも、虫だけは普通に動いてる、首動かして足カサカサさせてる。時間の流れが人間とは別になってる。
  • 非常に困難な状況のグレゴール。今日はだいぶバグってました…よくまぁあんなにいろいろ…困難な状況になれるな…。
  • やっぱり、「お母さん。おかーさん」の時の顔がというか目が、あらぬ方向を見ていたのだけど、その時に限らず、虫グレゴールの時は常に、焦点合ってなかったです。独白時と回想時だけだよ目がちゃんとしてたの…! ぞっとした!
  • 最初のご飯時のグレゴールがすごかったです。スープ皿に入ったシチュー*3を、ぶら下がって逆さまの格好で、反対側から飲んだ! 何て云うんだ、しゃっくり止める用に飲むコップみたいな…上下逆になりながらお皿は正しい向きで、両手で持って飲むの…。
  • 続いて、天地逆に床の上のコップに水?を注いで、コップで水?か何かを飲んだ(笑)。グレゴールは逆向きでぶら下がっていて、コップは正位置で…わかんないよ! とにかくすげいよ!
  • 未來さんの膝にサポーターが入ってるのがわかった。良かった〜心配だったんだ〜。肘はわからなかった。
  • 母親の服かわいい! ブラウスの背中にくるみボタンたくさん、ベルトはカマー的で後ろ編み上げ!
  • グレタのペチコートも可愛かった、グレーでヒラヒラ。
  • グレゴールは靴が素敵だった。
  • 投資で増えたお金の夢が敗れた母親、スカート脱ぎ捨てながら舌打ちしてた(笑)。おきもちはわかります…。
  • りんごをぶつけられる前の、逃げ惑うグレゴールがやっぱり、パニクった虫そのまんまでかわいそかわいきもかった。かわいそうで可愛くて気持ち悪かった、ね(笑)。椅子の下たまらんなぁ! 眉根を寄せて微笑んでしまう可哀想可愛さ!
  • それに比べて、下宿人を追い出すグレゴールの、傷ついて動けない身体ながらも確信持った、ある意味自信に満ちた顕現っぷり。覚悟がかっこいい。
  • それが、シッシッてされて、よろよろと部屋に戻っていくのが、戻ろうとして戻れないのとかが、…健気というか…悲痛です…。妹を守ろうとしたのに、その妹に「アレを始末して!」と云われるのが、本当に、つらい。
  • つらいのだけれど、そう云わずにいられなくなってしまったグレタの気持ちもわかるから…いっそ、わからなければ楽なのに、楽に悲劇に浸れるのに、と思ってしまう…。
  • 最前列、時たま未來さんの、腹筋に力入ってる的声というか息というか、が聞こえて、ああ人間が演じてるんだ、やっぱり一生懸命で多少ツラいんだ、と安心したり。あまりに自然にやるから、なんともないのかと、むしろそっちが自然になっちゃってるんじゃないかと、若干心配になってくる…!
  • 「ペットを飼っているのです!」と父親が下宿人に云った時、グレゴールが後ろ足をばたん!と落とした。抗議してるみたいだった。いつもやってたっけかなー。
  • 丸尾さん、あの長い長い登場から、母親の手にキスするまで、までまばたきしない! すげぇ!!
  • 下宿人のタバコのけむりを煙たがるお母さん。
  • 下宿人が床で踏み消したタバコをすっごい嫌そうに見て、拾って投げるお母さん。
  • 比較的、母親の立ち位置に席が近かったせいか、何だかよくわかんない都合いいことばっかり云ってる母親、に見えていたのが、全然印象が変わってびっくりした。母親の苦悩、疎ましさと愛しさ、相反するふたつの思いの間に苛まれる苦しみがすごく伝わってきた…。やるやる詐欺みたいに結局何もできず、全てグレタに押し付けてきたことを、悔いてもいるんだ。息子を愛そうとする心はあるのに、見ることすらもできない実際の自分の歯がゆさ情けなさ、息子に対する申し訳ない気持ち、それが、「お母さんをどうか恨まないでね」になった…ように受け取れました。前回見た時は責任放棄にしか見えなかったのに!!
  • こんな風にしかできなかった私を許して、そう云ってるように聞こえた…泣けた。息子にそんな風に相対することしかできない母親の悲しみ、辛さ。贖罪。でも、自分と他の家族の生活のためには、その犠牲は必要で。
  • 息子の死の上に成り立つ幸福。息子の死によってもたらされる、自分たちの幸福。それを幸福と感じること自体に、罪悪感が伴わないわけがない…。
  • 今日は久世さんで泣きました。泣けて仕方なかった。グレゴールより母親だった。…そういう変化もあるんだなぁ。
  • 路面電車に乗って旅に出よう、という父親に、「それはとてもいい考えね」とそっと寄り添う母親。でも、久世さんが泣いてるみたいに見えて、台詞が泣き声ぽくて…どんな形でも、子を失う母の辛さは変わらないよね…。
  • …と、思いたいだけなのかもしれませんが。せめてそこくらいは揺らがないでほしいという、勝手な願いがそう見させているだけなのかも知れませんが。でも、そこすらも揺らいでいるような事件が頻発する昨今、そのくらいの幻想を見させてほしいよ…。
  • グレゴールはやっぱり、鐘の音が響く時点で死んだんだと思います。それもエドガーを思い出す…お弔いの鐘が鳴る…。
  • 小さく縮こまるのは、死後硬直的なものだと思う、完全に虫の生が終わったから、だからこそ、クロッカスに「変身」できたんだと。綺麗なモノへ変われたのだと。そんな風に思った。
  • ある意味、ハッピーエンドなのかもしれない。家族にとっても、グレゴールにとっても、彼が人に戻らない限り、他に解決策はないのだから。…なんて感想を抱くことになるとは、ちょっと前まで考えてもみなかった! でもそう思っちゃったんだから仕方ない!
  • カテコは2回。相変わらずママを呼ぶ手が美しいこと!
  • パーカスとキーボードのふたりを呼ぶ時、膝を折って低い位置で手を差しのべる未來さん。を見て笑う永島さん。
  • 2回目は穂のかちゃん、下手から出てきて未來さんの上手側隣に並ぶ。のをにっこり見るお兄ちゃん。
  • 穂のかちゃんの口が「ありがとうございました」て動くのがわかった。
  • 未來さんはハケぎわにちらりと客席を見遣り、軽く頭を下げながら唇で「ありがとうございました」と。

 最初の休演日明け、皆さん多少の台詞噛みなんかはありましたが、でも…やっぱり、凄いや。そんな瑣末なことなどどうでもいい、圧倒される100分間の贅沢で濃密な世界。悲しい話なのに、観終わった時に妙にスッキリした、さわやかとも云えそうな気分になるのが不思議です。やりきったから、かな。それとも、最後のグレゴールがやっぱり、救われているように見えるから、かな。

*1:あとG系…

*2:父親が母親を殴ろうとするところとか

*3:おそらく