ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

イキウメ「散歩する侵略者」@シアタートラム(11/2夜)

 映画にもなった「散歩する侵略者」、元祖だけど2017年バージョンのイキウメ版を観てきました。とても、とても面白かった! 映画も観たかったけど先に舞台で観たかったから…今になって映画観たくなってる…(笑)。

 某国から発射されたミサイルが上空を飛ぶ、海際の町で、祭りの夜に失踪した夫が数日ぶりに戻ってくるも、その性格は一変。不仲だった妻は夫の変貌に戸惑いながらも、散歩を「仕事」と称し日課にする夫の介護に奔走する。同じ頃、町では奇妙な病気が流行し始め、病院では一家惨殺事件でひとり生き残った少女が目を覚ます。惨殺事件を追うジャーナリストは高校生の少年と出会い、彼の奇妙な言動から、あるひとつの事実を知る。それは夫の変貌と謎の病気、惨殺事件のすべてを繋いでいく…。

 的なあらすじですが、まぁ面白い。面白いし怖い。休憩なしの2時間ちょっと、不安や不審、不穏さが常にひんやりと足元を漂う、極上の緊張感を楽しんで、でも終着点は愛の話なんだな。2017年の今という瞬間だからこその空気感は、さすが2017年版なだけあります…。ネタバレ前知識はほぼゼロで観たけど、まぁタイトルがタイトルなので、夫が「散歩してた」って云った時点で、…ってことですよね?とはなりますよね(笑)。

 以下ネタバレに触れるので畳みます。

 


 
 
 侵略者、便宜上宇宙人と呼ばれる彼らが、概念を「収集」すると、収集された人間の中からその概念が消える、という設定が本当に怖い。し、上手い。すごい。「ありがとう、それ、もらうよ」の言葉と青白い光、零れる涙、情景としてとても美しいのだけど…めちゃくちゃ怖い。

 劇中で、実際に概念を奪われる人物が4人出てくるのだけど、その4人の、「失った概念」に対する反応というか、対応というか、が四者それぞれなのもすごく面白かった。鳴海の姉は失った「親族」という概念に対し、理解不能な存在になった自分の家族にただただ怯え拒否する。「所有、独占欲」を奪われた無職の男は、何を失ったのかわからないけれど失ったということはもともと必要のないものだった、と失くした状態を「解放」と呼び、共産主義的な極端な思想に走る。「命令」と「自他の境界」の概念を奪われた医師は、人格崩壊するかと思いきや(笑)*1、失った概念に近いもので代替しつつ補うという方法で自我を保つ。そして最後に、「愛」を失った鳴海は、変わらない。変わらないのが哀しい。表面上変わって見えないのに、もう彼女のどこを探しても「愛」は見いだせないんだっていう事実がただただ哀しい。し、愛をまるまる失っても表面上はあまり変わって見えることもなくいられる人間というものも、とても悲しく感じてしまった。

 彼女から「愛」を奪い、逆に「愛」を知ってしまった宇宙人の慟哭が胸に響く。宇宙人たちは侵略を開始するために母星?に戻る*2のだけど、奪った概念は彼ら一族(?)の中で共有されるんだろうか。立花あきらが何かそのようなことを云っていたような気がする(早く教えてよ!みたいなセリフがあったような)のだけど、もし何かこうクラウド的な…共有されるシステムがあったら、もしかしたら「愛」という概念を知った宇宙人たちの侵略は止まるんじゃ…なんて甘いかな。甘いな。愛を知っているはずの人類が戦争をやめられないもんな。残念。

 ジャーナリスト・警察官(人間)vs高校生・女子大生(宇宙人)のやり取りというかバトルというかが、大人vs子供の構図にもなっていて、絶対的アドバンテージを持つ宇宙人チームを前に無力に思えた人間チームが決して引いてないのがすごく…胸熱でした…。浜田信也さん、端整な佇まいがとても(ある種の)効果的で、不仲な頃のしんちゃんもちょっと見てみたかったなぁ。安井順平さんは毎回最初に、「八嶋さん、ではない」ってなるの申し訳ない…ゲスかと思いきやとてもかっこいいジャーナリストでした。盛隆二さんも毎回「くりぃむしちゅーの人、ではない」ってなるの…今回のお医者さんは最初あんまり好印象じゃないのだけど、アレの後からすっごく株が上がりました(笑)。好き。森下創さんああいうの似合いすぎだよう。大窪人衛さん鉄板の若者役、だけど今までの幼気さから、幼い恐怖というか、無垢(文字通り)だからこその恐怖というか。怖かった! 客演陣も内田滋さんの哀しい上品さとちょっと枯れた声、板垣雄亮さんの穏やかな安定感、天野はなさんの無邪気で可憐な違和感、松岡依都美さんの狂気の哀しみ、栩原楽人さんの爽やかさと地に足着いた感、みんなとてもぴったりでした。素敵だった、不穏だけど。

 目の前の「個人」としての危機、その外側に「国家」としての危機があって、さらに「種」としての危機が迫る、入れ子のような状況で、どこにフォーカスを当てるべきなのか自分でも答えが見つからないのだけど、逆に云えばひとつを解決してもその他の状況は変わらないわけで。あの人の、あの町の、国の、人類の、「その先」がどうなるのかを考えるのがとても怖い。怖い想像にしかならない…。たとえ侵略されず戦争が回避されたとしても、概念を奪われた人がたくさんいる状況ってどうなるんだろうね…?

*1:このインテリジェンスとバイタリティが直結してる感じすごく好き

*2:と同時に乗っ取っていた人間の命は消える