ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

横町慶子×山川冬樹ライブ・パフォーマンス「ASYMMETRIA」@音楽実験室 新世界(2/28夜)

 もう、ひと月近く経ってしまいましたが先月末に行ったライブハウスでの二人芝居…というかパフォーマンスというか、でもお芝居のような、の覚書を。
新世界 presents Special Stage 横町慶子+山川冬樹 Live Performance 『ASYMMETRIA〜アシンメトリア』 | 音楽実験室 新世界
 山川冬樹さんがまた新世界で何かされると聞いて、新世界は前回の表現ライブで怖くないことがわかった(笑)ので、よし行こう!と予約してみましたよ。今回は横町慶子さんという、女優でありダンサーであり振付家の方とコラボとか。横町さんってわたしは全く存じてなかったのですが、ナイロンの舞台に出たりされていたそうで。すんごい綺麗な方で。2010年に脳梗塞で左半身麻痺となり、その後舞台に復帰されたという経歴に、一瞬身構えてしまう部分もあったけど、でも何かすごいものが観られる予感がして、六本木に向かったわけです。
 2度目ましてなので、勝手知ったる気分*1で会場の新世界に入った、ら、いきなりびっくり。前回のライブ時にステージだった場所に椅子が並べられていて、通常客席フロアの場所に大きな鏡とかセットらしきものが並べられていて、お客はステージ上に座る形に。バーカウンターはもちろん、今回の舞台側にあるので、小さな簡易カウンターがステージ片隅に設えてありそこでドリンクを受け取って、小さい椅子がみっちり並べられたステージ上にそろりそろりと着席しました。が如何せん狭い。だってフロア側の方が広いものね。舞台の縁に座布団並べられて、舞台から足ぶらぶらさせて観る席もありました。で、新世界の客席と舞台の間は一段低いオケピのようなスペースが設けられていて、そこも客席になってはいるのだけど、今回はそこにPA卓みたいなものが設置され、卓の前、ステージ上の客席に背を向けるように、山川さんがスタンバイしておられました。あとマイクとかも。山川さんは鼻筋のてっぺんにマイクを装着していて、どうやら音や照明やいろいろを担当しつつ声も出す模様。そりゃそうだクレジットは出演になっていたもの。
 まったくどういう作品になるのか、ライブなのか演劇なのかパフォーマンスなのかインスタレーションなのか舞踊なのか、ストーリーがあるのかないのか、抽象的なのか具体的なのか、なにも見当がつかない状態で、「ASYMMETRIA」は突然始まりました。卓の前で背中を見せていた山川さんが、ひらりと舞台に上がると、脳のCTR写真を1枚掲げ、静かな声で脳について語り始める。頭を1回叩くと脳細胞が○万個死ぬ、なんて話をしながら、自らの頭をがんがん叩き、殴る、その音が骨伝導マイクを通して響き渡る。またすっ、と静かに話へ戻る。未開封のワインボトルをカウンターから1本持ってきて、人間の脳の重さはだいたいこのくらい、と云いながら、ワインボトルで頭を殴る。今○万個脳細胞が死にました。…また○万個。3回で○万。正直観てるだけで痛いです…。1日○回頭を殴ると2年で脳細胞は死に絶える、という話をしてから、結局、それは都市伝説みたいなもので頭を殴っても脳細胞は死なない、となるのだけれど、それはともかくどんどん赤くなっていく山川さんの額に、1回で○万死ななくても絶対良くないよそれ…と非常に心配というか痛々しい心持になるのでした…痛そうな音しまくるんだもの…。
 そんな衝撃的なものを目の当たりにすることで、ある意味身構えていたものを先にぶっ壊された無防備な状態に一度リセットされてから、本編(?)がスタート。大きな鏡の向こう側に閉じ込められたような女性、電話の呼び出し音が鳴り響き、取ると無言で切れ、また呼び出し音が響く繰り返し。誰からなのか、どこから、何を伝える為の通話なのか、何もわからないまま何度も呼び出され、出ても何も伝えないまま切れる。繰り返されるそれに耐えられなくなったように、もうやめて、と懇願する鏡の向こうの彼女。その、左半身を照らし出す光と、右半身を照らし出す光が交互に当たる中、細く紡がれる歌声と同時に、右手がゆるりと弧を描き出す。ゆったりとした動きで差し伸べられる片手は、鏡の壁に阻まれてこちら側には届かない。徐々に大きくなるノイズと共に、左右を照らす明滅のスピードが速まり、コマ撮りのアニメーションのように浮かび上がる彼女の姿と密度を濃くするノイズ、緊張感が張りつめきったところで暗転。
 明るくなると、舞台上のデスクに座った彼女が、右手で紙飛行機を折る。上手にずっと置かれていた機械が、キシキシと軋みながらゆっくりと動き出す。壊れそうに身を震わせて、繋がれたワイヤーをするすると伸ばしながら、小さなタイヤの付いた足元でそろりそろりと彼女に近づいて行く。ピューリタンベネット7200A、浜松の病院で使われていた、半分壊れた人工呼吸器です、とマシンボイスで自己紹介する器械に、「わたしの名前は横町慶子。左右非対称の人間です」と答える彼女。ピューちゃん、と呼びかけ、ゆっくりと近づく彼女、ぎこちないダンスを踊るように距離を詰め、手を触れるふたり(?)の姿が美しくて、壊れたように自分と彼女の言葉を繰り返すピューちゃんを柔らかく止める横町さんが優しくて、「機械と人間」モノに極端に弱いわたくしの涙腺は早々に決壊することに。横町さんがそっと、ピューちゃんの額*2に乗せたキス、本当に美しかった…。ピューリタンベネットの声は、山川さんの声を変換したものなのだけど、幾重にも加工されたマシンボイスになっても山川さんの声はやはり美しくて、その歌はとても素敵で、しかも加工されている所為かすんごくキュートで、歌いながらギシギシと踊る*3ピューちゃんの動き共々、たまらなく愛おしい存在だった。すごく晴れやかで、のびやかなふたりで、ずっと観ていたかったなぁ。
 でも、そんな時間が永遠に続くことはなくて。ピューちゃんは彼女を置いて去り、再び取り残された彼女はデスクへ戻る。デスク上にある黒電話の受話器を取り、ダイヤルを回す。呼び出し音が数回、途切れた瞬間に受話器をがちゃんと置く。また、意を決したように受話器を取り、ダイヤルを回す。呼び出し音、繋がる、切る。繰り返されるそれを観ながら、冒頭の電話を思い出す。繋がらない電話、届かない互いの声、どちらも「ヨコマチケイコ」から、「ヨコマチケイコ」へ発されているものなのに。
 やがてまた立ち上がり、中央に進み出る彼女。山川さんも舞台へ上がり、奥でギターを持つ。アンプで増幅された鼓動が鳴り響き、彼女が深く呼吸する。傍らに現れた電球が明滅する…心臓パフォーマンスを横町さんがやる、ことに驚いて、さらに、鼓動を止めるまでやられていたので…あれはもう、山川さんがやってても、いやいいです怖い怖い!ってなるのに、横町さんほんとに…怖かった…。完全停止、まではいってなかったと思うけど、かなり微動くらいにはなってて…見てるだけでほんと苦しい。苦しいのだけれど、やはり何故か、いや、だからこそなのかも、横町さんが神々しく見えた。巫女みたいな、此処と此処ではない何処かの間をつなぐような。生命維持の根幹であるはずの、呼吸と鼓動をある意味賭している行動だから、よけいにそういう印象を受けるのかな。
 痛いと繰り返す言葉が、次第に「居たい」へと変わっていくラストもすごく印象的だった。痛みは生きている証でもあるのかも。冒頭でがつがつと頭にワインボトルを打ちつけていた山川さんの痛み、それを感じられること、感じられないこと。「非対称」がシンボリックなタイトルになっていたけど、わたしは断絶、遮断をより強く感じた。脳と手足の、右と左の、意思と行動の、中心と末端の、もしくはシナプスによる神経伝達の、断絶/遮断。ああ、それも含めて、ASYMMETRIAなのか。置いていかないで、と叫んでいるのは、彼女の左側から右側への、末端から脳への、後細胞から前細胞への、呼びかけに聞こえた。
 と同時に、じゃあシンメトリーって何なのだろうとも強く感じたのでした。その答えはまだ見つからない。あと、ピューちゃんを見ながらちょっと、M.M.Mのお父さんマシンを思い出したりもした。

*1:早いよ

*2:のはず。モニターの上辺

*3:その動きも山川さんが操作されていた