ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「NASSIM」@あうるすぽっと(11/11昼、夜)

 久しぶりのあうるすぽっと*1で「NASSIM」観てきました。先行価格のあまりのお手頃さにえっこれで観られるの!?じゃあせっかくだからドミニク・チェンさん*2のマチネも観るわ!とマチソワにしました。マチソワしてもお安め舞台1回分だよ…そりゃセットも稽古もいらないからそうなんだろうけどでも何か落ち着かない(笑)。あと、実はこの日すでに予定が入っていたのだけど、何とかした。力技で。優先順位的に仕方がない。

www.festival-tokyo.jp

 「NASSIM」は、イラン出身の劇作家ナシーム・スレイマンプール氏の作品で、台本は渡されず稽古もなし、俳優は当日舞台に上がるまで内容を知らない、というとても…おもしろげな、実験的かつ即興的な作品とのことで、ゲストというか主演俳優さんも日替わり・回替わりになっています。2回目はないからねーひとり1回限りだよねー。

 そんな作品なので当日までネタバレ的な情報は一切いれず、でもマチネは観てしまうという…どうなのかこれって思いながらだったけど、チケット取っちゃったしもったいないしね。チケット取る時はあんまり…何も考えてなかったな…。でも、チェンさん回も観られて良かったです。が未來さん回が初回だったら…って思うとわからない…。いや、後悔ではないです。わたしが二人いたら片方がマチソワして片方でソワレ初回にしたのに。

 内容に触れずに感想だけ云うと、果たしてこれが演劇なのかと問われると、わたしはうーんどうだろう…とちょっと首をひねるのだけど、豊かな劇場体験であったことは確か。劇場で、ああいう形で、舞台の上と下とそれ以外でいろんなものを共有しながら過ごす、不思議な時間でした。ここと、ここではない場所の距離、その縮め方。遙かな距離が縮まっていく実感、瞬間。そんなものを肌で感じることができた、貴重な体験でした。基本、笑顔と笑いとちょっとの困惑(笑)に包まれた、温かい、でも根底には「心がくしゃくしゃになる」ような寂寥が流れている、それでも豊かな時間だったなぁ。

 耳慣れない音と不可思議な記号が、言葉や文字としてだんだん認識されていく、自分の中での変化のプロセスを知らず知らずの内に感じさせられる感覚が面白い。ファルシー語の音が言葉に、記号が文字に変わる時、遠い見知らぬ異国は「友達」の愛する家族がいる町、になる。テクノロジーで繋がることのできる遠くの故郷、でもそこはやっぱり遙かで、繋がれるからこそ逆に、隔たりを強く感じさせられもする。電話の声は確かだけど、会えない距離を実感してしまう。そういえば年始以来おとーとたちに会ってないな、なんて思ったりして。遠くの大事な誰かの声を聞きたくなる、そんな1時間ちょっとの旅の後でした。デラム・タング・ショーデー。イェキ・ブド、イェキ・ナブド。

 で、本編前にとりあえず!! 未來さんの!! 髪が!! 短くなってたーーー!!!

 いやーそっかー…切っちゃったのかー……いや、ロングはともかくひっつめお団子は生え際的な意味でちょっと…大事にしてほしい…って思っていたので、個人的には良かった!!なんですが、短くなったらなったでもったいない気もしてしまう(笑)。長いのは長いので好きなんだ……ひっつめなければ長くても良かったんだ……でも短くなったの嬉しい気持ちもある…ふくざつ……。でもずっと長かったのに、どうしてなのかは気になります。役的・お仕事的な都合なのか、単純にご本人の気が変わったのか、何か事故とか*3やむにやまれぬ事情なのか。本意なのか不本意なのか(笑)。でも久しぶりに見た短い髪の未來さん(短髪、とはちょっと違うので)は、懐かしい感じでした。若見え感…と思ったけどそれは記憶にあるあの髪型が若い頃だからかもしれない。

 未來さんはさっぱり短い髪に黒ヘアバンドでもしゃっとしていて、オーバーサイズ気味のモノトーンのトレーナー?みたいなのの裾から赤紫系のカラフルなトップスの裾が覗いて、黒のジャージ素材サルエルに臙脂の足袋に下駄履きでした。トレーナー?の首もとは薄いグレーのリブニットがゆるっとハイネックになっていて、ネックウォーマーなのかトレーナーに付いてる襟なのかインナーの襟なのかは良くわからなかったです。足袋と下駄は大河モードですかね! ガコガコ云わせながら舞台歩いていました。ひげはなかったような、顎の先だけあったような…マイクの影だったような…ぼんやり…。

 ネタバレ、あんまりしない方がいいというか、言語化できない気がするので、ほんとどうでもいいメモっぽいものだけ。

 

 

 

  • とりあえずチェンさん回を見終わって思ったのは、「未來さんどうするんだ…」でした。スマホないよね? どうするんだ??
  • 見比べてどうこう、ってものではないんですが、チェンさんはすごく何というかそつなく…スムーズな進行だったんだな、というのを、未來さん回を観て思いました(笑)。未來さん回がスムーズじゃなかったわけではないんだけど、いやスムーズじゃないところもあったけど(スマホとか)、何だろう、逆らわないというか…スムーズだったなって…。
  • 未來さんはちょっと面白がりながらツッコミ入れつつえっどういうこと?とか色々…指示以外のことを色々云っている感じで楽しかった(笑)。自由度高かった!
  • 舞台上は大きなスクリーンが真ん中にあって、上手にスタンドマイクが1本、下手にデスクと椅子、デスクの上に箱があって、箱には演者の名前が書いてある、という状態でスタートでした。
  • ざっくり云うと、スクリーンに映し出される演出家からの指示だったりセリフだったりト書きだったりに従って俳優はしゃべったり(というか読み上げたり)、しゃべらなかったり、何かをしたりさせられたり、していく形式です。2部構成になっていて、第2部はまたちょっと違う展開になったりして。
  • 指示には場所の移動だったり、手を叩くとかのちょっとした動作だったり、空欄を埋める的な単語を任意で云わせたり、観客から募ったり、いろいろ。
  • 日本語を覚えたい、というナシームさんから、「短くてロマンティックな言葉」を教えて、と指示が出るのだけど、未來さん「井の中の蛙大海を知らず、されど天の高きを知る」(だったかな? 天の蒼きだったかな? 後半曖昧)と…ロマンティックと云えば云えなくもないけど短くないっていうかだいぶ長いよね(笑)。
  • それをスクリーン越しに、スマホにカタカナで入力して、奥さんに送ろうとするナシームさん。イノナッカノとかになっててがんばれ…!って見守るんだけど、途中で全部消して「I LOVE YOU」で送る(笑)。それを見て未來さん「えーっそういうー? あーあまぁ…うん、いいけど…」って納得できないようなするような(笑)。
  • まぁ多分、想定されている流れとしては「愛してる」的な言葉が来てそれを送ると奥さんから返事が来る、なのでしょう。チェンさんの時はとてもスムーズでした(笑)。
  • でも未來さん回はまた予想外で面白いんだ!
  • 下品な言葉を教えて!とかもありました。下品っていうかまぁでもその辺ですよね。云い換えた時のアクセントが後半に付いていたのが新鮮だった。
  • カッコイイ日本語を教えて、と客席に訊く指示の時に、ものすごい圧で「こういうのは考えても出てこないからインスピレーションで!」とか云ってて当てられなくて良かった…と心底思いました(笑)。浮かばないよね…今考えても浮かばないもん。確定申告とか年末調整とかしか出てこない。かっこよくない。
  • ちなみにチェンさん回では「古文書」でした。かっこいい。
  • 慇懃自重、って、隠忍自重と慇懃無礼が混ざりますよね…混ざりましたね…意味も混ざったね…。
  • 未來さん、「何かセリフで云ったことあるなー」とかぼそっと云ってたけど、天魔王様ですから!! ワカだけど!! 鳥は蘭丸に変わっちゃったけど!! いきなり鉛の玉の歓迎とは、隠忍自重が売りの貴殿らしくない。それとも、その牢人にやつした姿が、心根までも無頼に変えるかな、徳川、家康、殿…!!
  • このセリフ脳内で再生すると未來さんの声と太一くんの声が二重に聞こえるんだな……。
  • カッコイイ言葉をメモする用の手帳が出てくるんだけど、ページをめくると各国で上演された時のカッコイイ言葉であろうものたちがずらーっと次々出てきて、ハングルもあったりして、この作品の「旅」の記録がまるでパスポートのビザみたいに並んでいて、たくさん旅してきたんだね…って思うのでした。
  • 今回の日本公演では他に「ヒナンユウドウトウ」があったのは覚えてる。もう一個何だったかな…覚えてないな…。
  • カタカナでほぼ書き取れるのすごいなナシームさん。
  • 劇場係員の女性に名前を訊ねるところでも、その名前に食いつく未來さん(笑)。ユキチさん確かに食いつきたくなる名前ではあった…*4
  • スクリーンの向こう側に入る未來さん。角砂糖甘そうだったな!! 日常でまず口にすることのない甘さだったろうな!!*5
  • ここで語られる悲しい物語が、この作品の根幹なのだなと思う。その手段としてのこの形式であり、この作品そのものなんだな。
  • NASSIMはそよ風、という意味。amijadという単語も聞こえたんだけど何だったんだろう。
  • ナシームさんを舞台に連れてきて第2部スタート。今度はデスクの上にスマホカメラがセットされて、デスクの上に展開される紙がセリフや指示になる。
  • 「ミライ」をファルシー語で、右から、あの素敵な文様みたいな文字で、竹のペンに墨をつけて、書くナシームさん。出来上がった文字を見て未來さん「背中みたい」って。確かに、縦にすっと通った曲線が印象的な文字列だった。
  • 今度はファルシー語を覚えようのコーナースタート。舌の奥の方を上顎に付けて息を吐く音、を教えてもらったり。怒った熊が唸るような声。
  • あんまり覚えてないけど発音を間違うと「ケツノアナ」になってしまう単語を教えてもらった。
  • この「ケツノアナ」のナシームさんの書き方が凄かったんだよ。最初にノノノノノって書いてから、それぞれに付け足して「ケツノアナ」になっていくのすごい。意味はともかく。
  • しかしマチネで「ケノツアナ」になっていたのをわたしは見逃さなかった。
  • ナシームさんが子供の頃、ママンとやっていたトマトのゲームをやらされる未來さん。ファルシー語を読んで、間違えるとそのたびにプチトマトを1粒食べる、というもの。読み間違いで1プチトマト、あと何か若干の濡れ衣めいた流れ(笑)で納得いかない様子のまま2プチトマト食べる未來さん。俺何かしたー!?ってぶーたれてた(笑)。
  • で、ファルシー語初級課程の修了証を授与される未來さん。スタオベ指示が出るのでスタオベしたらびっくりしていた(笑)。だって書いてあるんだものト書きに。
  • からの、お客さん3人に出てきてもらってファルシー語を覚えようのコーナー。プチトマトルールは引き続き適用される。勇気ある3人が登壇して、ファルシー語の短文を暗記させられるんだけど、最終的にそれ絶対無理なやつ!!ってなる…。
  • 御三方さんおつかれさまでした…トマトおいしそうでした…。3番は無理ゲー過ぎる。
  • でも、おかげでイェキ・ブド、イェキ・ナブドは覚えました。
  • スマホの写真を見せるコーナーがありまして、チェンさんは猫ちゃんと娘さんの写真を見せてくれたりしたのですが、未來さん…スマホないからさ…ねぇ…。持ってないって云ったじゃん~どうすんの~って本人も云ってた(笑)。
  • そしたらナシームさんが、紙に未來さんの似顔絵を描き出した! 輪郭が大福になっちゃったけどその前まではわりと似ていたと思いました(笑)。髪型とか横に細くて長い目とか…。
  • しかしスマホない人の時はどうするのが正解なんだろう…想定してたのかしてなくてああなったのか。今時スマホを持たないなんて考えられないって感じなのかな。日本だとわりとガラケーの人もまだいるんですよ。携帯持ってない人はだいぶ珍しいけど(笑)。
  • お勧めのレストランを教えさせたりもした。地図描かせたりして(笑)。未來さんは小料理屋を教えていました。栃尾揚げ?が美味しいとか。
  • ミライのおごりで連れてってくれるんでしょー?? いつー??(笑)
  • ナシームさんへのお土産を募るコーナーも。いろいろ…大漁だった(笑)。チョコとか梅干しとかおやついろいろ、扇子、USBアダプタ、赤いバラの花1本、未使用のマスク、未開封のペットボトルのお茶、などなど。でかいポテチの袋とか何で出てくるの(笑)。
  • マスクに「これはイランでは不審者ですねー」と不審者連呼する未來さん。
  • 未來さんはポケットを探って、5円玉を見つけていました。ご縁があるからね、って云いながら。
  • チェンさん回では招き猫の小さなフィギュア?でした。
  • ペットボトルのお茶はナシームさんが途中で飲んでた。
  • バラの花1本は、終演時にナシームさんが客席に投げ入れていました。
  • お土産をアタッシェケースにしまうナシームさん、ケースの中を覗き込んで「これもしかして、今までにもらったお土産!?」って中身に触ろうとしてダメってされてあっすいません…てなる未來さん。子供か。
  • 空欄に任意の単語を書き入れさせるの、「__の現状は__である」みたいな感じだったけど、記入式とは思わなかったらしい未來さん、「僕が今作っている作品の現状は、時間が足りなかったりして大変だけどいい感じ」みたいなことをけっこう長く云っていて、えっ書くの!? あっそういうことかーー…ってなっていた。
  • 何か作っているんですね!! イイ感じなのを!! 下品な言葉じゃないのを!!(笑)
  • あと何したっけ…ポラロイドで写真撮ったりしたよね。お土産の扇子持ってね。
  • ここまで順不同です。思い出した順。
  • そして終わりに近づいてくる。ここからが本題というか、本番というか、だったんだね。ここに辿りつく為の、今までは準備というか、積み重ねというか、段取りというか。言葉の距離を、心の距離を、状況の距離を、縮める作業だったんだな、と。
  • 全てはこの為にあったんだ、というのがわかる時の、静かなカタルシスが、あたたかくて優しくて、哀しくて、愛おしい。
  • 未來さんの声が、異国の言葉を読んで、でももうわたしには何となく、何を語っているのかその意味が理解できて、それを時間も空間も越えた遠くの大事な人と一緒に聞いて、共有している。
  • ナシームさんが願った、たったひとりの為に、母語で、彼の作った芝居を上演する。それが目の前で現実のものになる。それが実現しているということと、こういう形でしか実現できないということ、ふたつの現実が一度に目の前に立ち現れて、ほんの少し打ちのめされるような気分になる…。
  • きっと、向こうにも茶色い封筒があるんだろうな。ママンと書かれた封筒が。
  • ナシームさんが声を発するのは最後の場面だけだったな、と思い出して気づいたり。あの会話も何となく、意味が理解できるのが不思議。兄弟は元気?とか。
  • そんな最中にトマトを一粒摘まみ食いする未來さん。
  • ファルシー語で、アロウとメルシーなの、フランス語が混ざる歴史だったんだな。
  • ファルシー語ってペルシア語のことだったのは後で調べて知りました。
  • 静かな終わりの余韻も少ししんみりして良かった。デラム・タング・ショーデー。
  • ちょっと思ったのは、セリフを読み上げる未來さんと、未來さん本人がずっと別人格で舞台上に居るように見えて、セリフを読む人格を未來さんが横から見てるような感じがしていたのが面白かったなって。セリフを読んでいるのはあくまで森山未來自身ではありませんよ、みたいな感覚がずっと…かなり後半まであったなぁ。
  • チェンさんはそこの齟齬というか二重写しっぽさがあんまりなくて、スムーズに、シームレスに、セリフを読む人格と本人が合致していったような気がする。
  • そこが俳優とそうでない人の違いなのかな、と思ったりもするのだけど、サンプル数がなさ過ぎてなんとも云えないね。森山未來の特性かもしれないし、逆にチェンさんが特殊だった可能性もあるし。こちらの見方のせいかもしれないし。
  • でも何かその、スタンスの違いがすごいはっきり出る感じが興味深かったです。未來さん本人がセリフと重なったの、はっきり覚えてはいないけど、ファルシー語で読んでいる時、な気がする。
  • って思うと、母語じゃない、意味もうっすらとしかわからない言語を、音だけ書かれてそのまま読み上げる状態になって初めて、意識というか自我がそこに入る(ように感じる)のも面白い現象だな……。

*1:女体ぶりかな?

*2:六本木アートナイトで未來さん・小林幸一郎さんとトークされました。その時すごく面白かったから興味持ったのでした

*3:いやほら長い髪にガム絡まっちゃったりとかさ…

*4:多分あだ名的なものだろうなと。あと彼女は多分「劇場係員役」だと思った

*5:WBの合宿でデザートのシュークリームを断っていたのを思い出した