ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

柿喰う客「美少年」@Geki地下Liberty(12/18夜、12/27夜)

 2018年観劇納めは「美少年」! 当初の予定では18日に観て終わるはずだったのですが、これが予想以上の超特濃60分ジェットコースター芝居、なのは柿だから当然なんだけどそれが今回いつも以上にジェットコースターだった、というわけでもう一回お代わりしてしまいました、の28日でした。またガンガン追加公演入れてくるからさー行きたいけどチケット完売で行けないから諦めよう、っていう手段が使えなかった。行けちゃうんだもん。ありがたい。

柿喰う客

 今回は本公演だけど永島敬三・大村わたる・加藤ひろたか・田中穂先、の4人芝居で、タイトルとキャスト発表の時点で「えっ美少年…いや4人とも美しいけど決して『少年』ってわけではないよな??」と思っていたわけですが、劇中でもそれについて云々するシーンがあったりして、なるほど美少年の描き方がすごく上手いなぁと…我が国の国語教育の限界を突き付けられるほどの美少年なんですね…登場しない、絶世の
得も云われぬ町中を狂わす美少年、が、確かにそこには存在するのでした…楽しかった…。

 端々にというか最近のいつもよりはちょっと多めに、メタネタを挟んで、でもそのメタが激走60分芝居のちょっとした息抜きというか息継ぎポイントにもなっていて、とても良い塩梅のメタ挟みです。メタって突然出てくるとちょっとびっくりするんだけど、でも今回のはとても機能している。っていうかないと死んでしまう…演者も客も…昨日(28日)なんかやたら酸素濃度薄い気がして後半朦朧としてきたもん…客も酸素吸いたい系演劇(笑)。

 町中を狂わす絶世の美少年・安下陽羽里(あげひばり)が誘拐されたのは昭和最後の年末、その後何事もなく陽羽里ちゃんは無事に戻り、美少年誘拐事件は昭和最後の未解決事件として忘れ去られていった。それから30年、平成の終わりに、かつての同級生は安下陽羽里を探し始める。30年の時を行き来していくつもの出来事や事件が積み重なり、収束していく先にあるものは…。

 …という感じの美少年と美少年に狂わされた人々の、哀しくも滑稽な美と芸術と猥雑の物語です。たぶん普通のスピードで上演したら3時間くらいになると思うしキャストも20人くらいになるんじゃないかな…それを60分! 4人!! 思い出しても無茶だしひとり何役やってるのかもう全然わからない。場面ガンガン切り替わるし役も瞬時に切り替わるしセリフは猛スピードだし振り落されないようにしがみつくのがやっと、しがみつけてるかどうか微妙、なくらい…セリフ聞き取って脳が意味を理解するタイムラグの間にもう次のシーンになってるから(笑)。でも、振り落されそうなんだけどギリギリついていけてるような気がする、ついていけそうに感じさせる、その本当にキワッキワな加減が、流石だなぁと思うのです。わたし野田さんのお芝居はたいてい、あーもういいやーって途中でセリフの意味を追うことを放棄してただ韻とか音として楽しむ、みたいなことになりがち*1なんだけど、柿ではその現象があんまり起きずになーんとかついていけている(気になれる)のが不思議です。でもこれもこのスピード感で3時間あったらきっと、もう無理…ってなってる。その前に演者がしんでしまうけど。

 美少年に(いろんな方向に)狂わされる男たちはどれも、悲劇的だけどどこか滑稽で、滑稽だからこその悲哀に満ちていて、とても「ベニスに死す」を思い出しました。大村わたるさん演じる陽羽里ちゃんの担任教師・勅使川原なんか特に、アッシェンバッハ…ってなってしまった。美少年に狂わされるとそういう末路をたどるものですよね…。美少年に狂うのって美少女に狂うより悲劇というか、もともと存在し得ない、手に入れることにできない、ある種の非実在に焦がれる感が強くて、そこがドラマを生むのだろうな…。あと、美少年とは何ぞや的な、少年を美少年たらしめる要因は一体どこにあるのか、それは果たして外見の美醜にのみ宿るものなのか、みたいな命題が透けて見えてくるのも面白かった。美少年本人ですら、自らの美をとどめ置くことはできない、とか、美少年の「美」は剥奪できるものであるとか*2、美少年本人が舞台上に登場しないことも含めて、形而上学的というか、美少年の概念性がより際立つというか、そんな印象を受けました。もし、舞台上に有無を云わせぬ絶世の美少年が出てきてしまったら、この物語は成立しなかったかもしれない。不在だからこそ美少年・陽羽里の美しさは、観客含め誰の目も眩まんばかりに輝き、彼に狂わされる男たちの姿に納得し同情するんだろう。そういう意味では、不在の美少年こそが、この舞台の主人公とも云えるのかもしれない、とか思ったり、思わなかったり。遠巻きに、遠回りに、こそが美少年を描き出す一番の近道だったのかもしれない…。

 4人しかいないので全員主役だし全員ものすごいパワーだしほんと精鋭なので、誰がどうとか何も云えない…みんなすごい…ってなってしまうのだけど、それでも敢えて個人的に云々するなら、やっぱり加藤ひろたかくんのあまりにも色っぽく儚げで嫋やかでエロい駐車場シーンがね…なんだあの顔。美少年とは違う直球エロスを振り撒いておられた。本役の方*3は、ドリアン・グレイっぽさも感じてしまった…あとコンビニのビタミン欠乏症っぽいバイトくん好きです。何云ってるのかわからないけど。「紅の豚」ご存知でないのはちょっとびっくりした…じぇねれーしょんぎゃっぷかな…。花房郁男くん役で不細工担当みたいなことになっている田中穂先くんは、わたしの中ではわりと美少年カテゴリーに入っているのでそんな不細工扱い…って思うのだけどでも気持ち悪くしたらいくらでも気持ち悪いのをやれるので気持ち悪い時はとても気持ち悪かった。写真科の教授とか。穂先くんとひろたかくんのくんずほぐれつはお、おう…ってなりますね…なかよしなの知ってるから余計に…。永島敬三さんは流石の滑舌で、あとクラスのマドンナ役が可愛いしシガーバーとかほんと最高ですね。八重歯が可愛いですね。アドリブ、わたしが観たのは初回が「ナースのお仕事」ネタで今回が「紅の豚」ネタだったけど他に何があったのか気になる。トレンディドラマが多かったらしい。大村わたるさんはとにかく担任が…担任ほんと哀れで悲しいんだけど絶対的に「わかる…」ってなるから。一番泣けてしまう。美少年に狂わされるってそういうことだよね…アッシェンバッハ…。

 アフタートークも面白かったです。18日はひろくんほーくんのふわふわコンビでトークもふわふわしてた(笑)。27日は敬三さんわたるさんの先輩コンビでした。あまり語れることがないので早々に質疑応答に切り替わったけど、美少年の想定モデルの話*4とか、ひばりちゃん美しいエピソードもカットされたけど他にもあった*5とか、ひばりちゃんの名前の由来がオトナな由来だったりとか、花房郁男くんの由来がそのまんまで想定キャストが敬三さんだったとか、興味深いお話がいろいろ聞けました。あと何だっけ、おふたりが公演のことを懲役呼ばわり(笑)していたの面白かったな! わたるさんが敬三さんに「あと6ステージですが今日終えて如何ですか」みたいなことを訊かれて、「懲役がひとつ終わりましたね」って応えてたの、そんな~!って思いつつもすっごくわかる……無事に年末を迎えられますように……来年も地方公演頑張ってください…。

 お見送りもして頂いて、18日はわたるさん、昨日はひろくんでした。お疲れのところありがとうございます近くで観てもひろくん美人さんだった…びしょうねん……。

 そしてけん玉首からぶら下げた玲央くんにも会えたのでとても嬉しい観劇納めでした。また来年も楽しくもおぞましくそして美しい演劇空間に連れ去って下さい!! 柿はそこんとこ信頼してる!!

 

natalie.mu

enterstage.jp

*1:なのであーんまり相性良くないのかなって…

*2:「生殺与奪!生殺与奪!」を突然思い出したけどあんまり関係ない

*3:っていっぱいあってどれ?って感じだけど一応

*4:神木くんの昔よりもっと美しいみたいなセリフがカットされた

*5:ひばりちゃんに浣腸したクラスの男子がクラスでハブられる不可侵っぷりとか、警官がひばりちゃんの写真見て「一目で恋に落ちた!」って一目惚れするとか