ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

さいたまネクスト・シアター「第三世代」@さいたま芸術劇場NINAGAWA STUDIO(大稽古場)(11/17昼)

 世界最前線の演劇シリーズ、前回の「ジハード」がとてもとてもとても良かったので、今回も行ってみましたよ。前回はイスラム過激派組織に加わるヨーロッパ在住のムスリムの若者たちを描く作品でしたが、今回はまたとても…実験的な、アグレッシヴな作品で…大変だった…観るのも頭追い付かせるのも考えるのもしんどい…。

 ドイツ(うち1人は東ドイツ出身)・イスラエルユダヤ人)・パレスチナイスラエル在住)の若者各3~4人が集まり、ワークショップを経て一緒に作品を作る様子をワーク・イン・プログレスとして公開する設定(というか何というか)のポストドラマ演劇、という作品ですが、元々は本当に各国の若者が、実際にワークショップを行い、本人役で、自身として出演していたそうで。今回は日本人の俳優陣がそれぞれ、各国の国旗をイメージしたデザインのTシャツを纏い演じていましたが、これ本人が本人役で演じてるのを観たら…すごそうだな…本人の本心に見えちゃうし聞こえちゃうよなすべてのセリフが……大丈夫なのかな……。と、思わず心配してしまうような、とてもセンシティブでデリケートでナイーブな部分が、あけすけに赤裸々にぶちまけられる舞台上なのでした。凄かった…あの板上に日本はまだ登れるところにいない……。

 とりあえず、この3国を集める時点でもう波乱の予感しかないですよね。作者はヤエル・ロネンさんというイスラエルの作家さんだそうで…イスラエルの人が作ったのか、っていうのもまた凄いです。舞台は1mくらい高くなった四角いスペースの上に、木の椅子が10脚、のみ。小道具は出てくるけど。フロアの四隅が何となく…古着っぽいような何か布ものの残骸のようなものが薄く集積して埃っぽい色で塗り込められている。照明の当たり方でちょっとした陰影が生まれて、それが舞台の表情になっていた、ような気がします。

 ストーリーというよりは、ワークショップを覗き見しているような雰囲気で、俳優たちは観客に向かって話しかけたりもする感じ。自己紹介から始まるワークショップは、最初は和やかでフレンドリーな空気*1だけど、時間が進むにつれて本音がこぼれ出し、ひとつこぼれるとそれに対する思いが噴出し、ぶつかり合い、非難になり、カタルシスというよりはカタストロフへと向かっていく…。

 三国の関係性が、見ればわかるけどもう、過去の遺恨と現在進行形の問題が山積みで。祖父がナチスだったドイツ人、ホロコーストを忘れないユダヤ人、パレスチナとの戦闘に参加したユダヤ人、イスラエル空爆で家族を亡くしたパレスチナ人、パレスチナ難民が大量に流入している街に住むドイツ人…三竦み状態。しかも、各国の若者それぞれが違う背景を持っているので、立場や主張、宗教が違っていてコンセンサスはまるで取れない状態で、さらにややこしいことに。でもそういうものだよなぁ、ドイツ人だってイスラエル人だってパレスチナ人だってそれぞれ出自もルーツも経験も宗教も違うし自分の考えも違って当たり前…で余計に難しいことになってしまうという…。最初から、薄氷を踏むような舞台だ…と思いながら観ていたけど、もうみんな見事に踏み抜いていくよね! だんだんそれぞれの本音が露呈していくんだけど、うわぁってなりながらもですよねーって…なるのがしんどかった…。少なくともこの3国間のアレコレに、日本は(それほど深くは)関わっていないので、あーそうだよねー、とか、それ云っちゃダメなやつじゃん…とか、思いながら観ていられるけど、でもこの作品、初演はイスラエルでドイツでも上演されたそうで…。完全に当事者として、当事国で、これを上演するのもすごいし、この作品を受け止められるのもすごいと思います。成熟した文化と国家でないと無理……。

 最終的にどこに決着するんだこれ、とひやひやしながら観る、思想と主張のカオスだったけど、まぁそうなるしかないよね…という…カオスな終わり方でしたね…。でもしょうがないよね、世界がまだこの問題の着地点を見つけられていないんだもんね。この作品が綺麗に、一件落着で終わるなら、その辺の問題も戦争も片が付いているはずで。そうでない今だからこその、カオス真っ只中な終わり方なのでした。どうしようもない。

 各国どの主張を聞いても、それ云っちゃダメなやつ…ってなってしまうんだけど、でもどれも少しずつ理解できる部分も、できてしまえる部分も、あって。ダメなやつだけどわかってしまうことがとても苦しくて、どうしようもない閉塞感に息が詰まる。自分の内側にも無意識裡にある、ダメな部分を引きずり出されて見せつけられるようでとてもしんどかったし、居心地悪かったです。大変だった…。

 「第三世代」って当事者の世代、当事者の子供たちの第二世代、孫の第三世代、と、当事者ではないし当時のことを見ても覚えてもいないしちょっと遠い、けどほんの少し遡れば当事者に行きついてしまう、とてもセンシティブで絶妙な最後の世代なんだよね。多分、次の世代はもう、過去のことはあまり、自分たちのことと捉えるには遠くなってしまうと思う。その良し悪しはともかく*2、何というか、絶妙だなぁ…と思ったのでした。わたしもある意味第三世代だから…。

 とてもしんどかった、でも観て良かった。観る価値のある作品でした。世界最前線の演劇、さすがにいろんな方向に手ごわい…次も行こう…。

www.saf.or.jp

natalie.mu

*1:いや、わたしはいろいろヒヤヒヤしてたけど/笑

*2:忘れることが良い面も悪い面もきっとあるよね