いってらっしゃい
ファンなんて勝手なもので。
自分の中で自分好みの幻想をこしらえて、好きだ好きだと云いながら、結局好きな相手は自分の中にしかいない幻想で。
上手いこと幻想を抱かせて夢中にさせるのも仕事のうち。
理解して、そういう場所に身を置きながら、それでもそこに違和感を抱き、時にそれをあらわにし。
そんな姿に戸惑い、もしくは恐れ、それでもなお、そんなだからこそ。
もちろんそれだって、自分の中に組み上げた勝手な像でしかないのだけど、それでも。
よけいなものは全て置いて、全部忘れて、大切に思うものだけを連れて、行って下さい。
名前が、その肉体と魂をあらわす名称としてしか機能しない場所へ。
そんな遠くまで行かないと、そういう場所が残っていないのかと思うと、せつないけれど。
そして、その名を持つただのひとりの人間として過ごした後に、もし、また、この妙ちくりんな世界で、無数の身勝手な「好き」を浴びてみるのも悪くないと思えたら、その時は、どうか戻ってきて下さい。ありったけの好きとおかえりなさいを、用意して待っています。
いってらっしゃい、楽しんで。それでも、好き、としか、云えないから。