ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「変身」虫観察日記11日目

 リーバイスショック*1で朝からわたわたで、会場にも今公演中最もギリギリな感じで到着するし、何だか「前楽」という実感がまるでないままの前楽でした。終わった今でも、あと残るは東京千秋楽、って実感がないなぁ。来週も仕事の後に有楽町行ってそうな気がしてならない。実感がないので、「終わっちゃう…!!!」という悲壮感もゼロです。良いのか悪いのか。
 そんな実感ゼロの前楽、前楽にして初めて、「ひたすらグレゴールを観る」回に設定してみましたよ。今まで、席がそこそこ良かったのもあって、オペラグラスでガン見、ということをほとんどしたことなかったなぁ、と今頃になって気づいたもので。あと、全体をどうしても見たくなってしまう作品だからね…一部分をクローズアップしたい!と思うタイプのお芝居ではないのもありますよね。セットや小道具のディテール見たいよ!的ツボな感じもないですしねぇ*2
 というわけでグレゴールガン見回にしました。色んな瞬間に、それが起きている時グレゴールはどうしてる? どんな表情? 手は? 足は?みたいなのを追いかけていました。これが…面白かったの。もちろん、舞台全体で起きていることを把握した上で、でないと意味が無い行為なので、ばかみたいに繰り返して観ているうちの一回だからできること、なんだけど、これが面白かったんですよ。まさに虫観察。
 
 
 
 
★この先ネタバレあり★
 
 
 ひたすら、グレゴールを追いかける100分間でした。実の多い観察時間だったなぁ、あと、案外グレゴールの顔を見てなかったんだなぁということに気づいた(笑)。どうしてもね、顔がどうとかよりね、あの身体全体が一体どういうことになっているのか、とか、さわさわカサカサ繊細に動く指先とか、足とか、そういう顔以外の部分に目が行ってしまうんですよね。ていうか普通、行きますよね(笑)。強制的に視線を引き剥がさないと、そういう意思を持って観ないと、たぶん無理だと思う…だって凄いんだもの動きが。
 今回初めて、基本顔ガン見*3をしたのですが、それはそれで凄かったです。グレゴール視点で、グレゴール側の意識でモノローグなセリフを口にする時は、人間としての意思を持った思惟的な、理知的でさえある、表情で語るのに、視点が家族側に移った瞬間に、表情が完全に抜け落ちた、視点もどこを向いているかわからない、「虫」の顔になる。その変化の明らかさと、明らかだからこその悲しみが…凄かった。最初の、「お母さん。…おかあさん、」の辺りは、まだそこが明確に分離されていないんだけど*4、一番凄かったのは、グレタに感謝を伝えようと決心したグレゴールが、部屋に入ってきたグレタに話しかけ、逃げられて「もう二度と話しかけない」となるくだり…直前まで、グレタに対する感謝の気持ちをあらわにしていたグレゴールが、視点がグレタに移り、彼女が扉を開けた瞬間に、完全に「気持ちの悪い虫」に変わっている。で、叫び声をあげてグレタが扉を閉めた瞬間に、また人としてのグレゴールの意識を取り戻す…取り戻すっていうか、未來さんがグレゴールの「人性」を取り戻す、というか。凄かった。凄くて、悲しかった。どんなにグレゴールが考えて、考えた上で行動しても、グレゴール以外の人間には、「虫」にしか映らない、というのを…改めて見せられた。どうしても、芝居を観ていると、グレゴールの「人」としての意識が残っている方ばかりに感情移入して、こんなに色々考えて、心配して、ちゃんと理解しているのに、何で??という方向に心が動いてしまうのだけど…あの「虫」の顔見たら…やっぱり、虫にしか見えないよ家族には…という方にも納得というか、説得力があってしまって…そのギャップが余計に辛かったです。「もう二度と話しかけない」と、今日のグレゴールはそこを、自嘲するみたいに柔らかく云って、それが柔らかくて優しいだけ、どんなに優しい心が裡に残っていても、外から見たら「ただの虫」なんだ…という事実(?)がすごく残酷で。それほど、虫の時の未來さんの顔が、虫なんですよ、という。こんな、もう東京あと1回しかないのにあれですが、機会があったら是非…注目してみるのも良いかと思いますよ。
 もちろん、面白いお顔もたくさんされてますしね! 家族が窓に鍵かけてカーテン閉めてる最中のグレゴール、顎を怪我したのを確かめてる時とか、エライことになってたよ(笑)。いーぞぉ!の時のキラッキラ笑顔とかね(笑)。ご飯中の百面相も見逃せません。美味しそうだよまったく。「部屋をあっちこっち、這い回ろぉ!」の時のしてやったり的にんまり顔とか…面白い。「前へ後ろへ、後ろへ前へ」のおどけ顔から、「たまらなくお母さんに会いたい」に流れるところとか…貼り付けたような笑顔のまま云うから切なくてこっちがたまらなかったよ…。
 壁や天井を這い回ることを覚えた辺りの、ゆっくりと壁へ移動して片手を離して身を反らせたり、両手で掴んで反り返ったりしている時の無表情は本当に美人です。美人虫です。虫顔の時の怖い無表情と何が違うんだろうか。
 あとはえーと、虫観察的いつもの感じで。

  • ひっくり返ってからしばらく動かないグレゴール。その時点で、下を向いた鼻先から雫がぽたんぽたんと…小さく水溜りになっていました。
  • 「しゅにーいいいいいいいいん」の時すんごい寄り目になってた(笑)。怖いです。ついでに第一声がへんちくりんな高めの声だったので、いつもと違うへんちくりん声でした。
  • バグるのは何かすごかった、バグりまくってた。もっとも、もすごかったし、両親は見逃して〜の辺りは低くてオモシロな声でゆっくりになって、下さいませんか、のません、でしばーらく詰まってたし(笑)。がんばれ!って思うのと同じくらい笑うのを堪えるのに力が必要です。
  • あ、昨日赤くなってたおでこは大丈夫そうでしたが、小さい何かがおでこの真ん中ちょい右くらいにありました。吹き出た? 傷じゃなければ良いのですが。
  • そういえばグレゴールはベストの下にサスペンダーしてますね! 何か、可愛い!!って思った(笑)。
  • きゃぁらぁだぁがぁぶぇしゅああっと潰れ。それだから即死レベルで潰れてますってば。
  • クリスマスのグレタのエアバイオリン、いつの間にか…ええと、先週の土日くらいかなぁ、その前かな、音とボウイングが合うようになって、とても素敵になっています。…ていうのをいつも思うのに忘れるんです。若干サイズはまだヴィオラだけどね(笑)。左手をもうちょっと楽に曲げられるくらいだよバイオリンは! あと左手の肘を軽くねじる気分で内側に入れるのが弾いてるっぽく見えるポイントなんです(笑)。
  • ハエ捕食後の風の音とシルエットのグレゴールの世にも美しく禍々しい腕の動き。が、綺麗でたまらなく好きなんですが、好きなんだけど、あの美しさは「虫」としての美しさだよなぁと思うと…荒涼とした気分になる…。アレが美しければ美しいだけ、グレゴールが人でないものとしての美を獲得していっているようで…。
  • でも大好きです。
  • 天井から床に落ちてから、ワンアクションで移動形態になるのが、すげええええ。と思います。ぼとん! ばん!でもう這い回るのが…CG?
  • リンゴはちょい上手寄りで、右側面に被弾。
  • やっぱり倒れる時の足がおかしい! 解明せんとガン見しましたが、まず膝を内側に入れて前に突き、正座の女の子座りみたいな形で一旦床に腰を付けてから、両足首を胡坐状にしてお尻の下を通しつつ腰の前へ持ってきて、背中から倒れる…という感じだったと思います。今ちょっとやってみたんですが、色々壊れそうなのでやめました。ていうかまず、膝を内側に入れつつ前に突くのをゆっくりできない。ゴン!てなって膝が痛い。
  • 「あなたがあんなに強く投げ付けるから、リンゴは僕の背中にめり込んでしまった…」すごく、低い声で、平らかに云った。いつもの呪詛っぽさがなくて、あっさり風味な感じで…でも、それも良いです。
  • 何だか、リンゴが当たってからのグレゴールの衰弱具合が、前より酷くなっているような気がしました。ずっとぐったりして動かないの…。
  • 「リンゴがまだ僕の中にある」は平らに低く、でもうねる身体はうねりまくりで。
  • 「あんたは自分がお手上げなのを、俺の所為にしたいだけなんだ」が、力強い、というと語弊あるけど…重かった。言葉が。ここだけ「俺」なのもね、何だかね、気になるんですよね。
  • 衰弱してるのがはっきりわかっていたので、嫌がらせ的に下宿人の食事を邪魔するところも、ギリギリのところでやってる感がすごく見えて…食べても食べられないから吐いちゃうんだよな…とか…。おならはともかくな(笑)。
  • しかしおなら後のガリゴリもう一回、はタイミングが若干早かったです今日。下宿人お食事音楽が2音くらいしか鳴らないままで終わってしまった(笑)。
  • おならと云えば*5、動きと音のシンクロというかこだわりというかそういうのにグレゴールの状態やら状況とは別の次元で吹きます。未來さん楽しそうです。最後引いてるし(笑)。
  • もうのろのろとしか動けない、傷ついた身体で、それでも闖入者を追い出そうとするグレゴールの、確信に満ちた姿が美しい。スカートの間から、するりと姿を現すの…すごく素敵だよグレゴール…。
  • グレタが「アレを始末して!」と云い放った瞬間、支えていたグレゴールの手指が力を失くして、突っ張っていた両手がくたりと落ちた…。泣いた…。
  • やっぱり、母親の「あの子の魂が身体から抜け出していくのがわかりました」に合わせて、背中をふ…とふくらませるように丸めて仰向けになるのが、魂が背中から抜けて昇っていくように見える。
  • 「自由に…じゆうに!」が…若干オモシロ寄りの声になってしまったのが、個人的には残念。いつだったかの、綺麗な、澄んだ声で云った、震えるような「自由に…!」がとても良かったので…。
  • 首を台座から落とすようにして息絶えるグレゴール、クロッカスになる*6時に、その首もくいっと起き上がって、丸くなるのが、余計に花びらめいて見えるのです。効果的。
  • カテコ。幕が上がった時に、外した眼鏡を右のポケットにしまっている最中でした。眼鏡取ることにしたのかな。
  • もうこのカテコもずっと見ていたい、ずっと呼び出していてほしい、と思ってしまう美しさ…たまらないわ…。
  • 音のお二人を呼ぶ時の、小さく控えめなでも素敵な手振りも良かった!
  • 最後、笑顔が可愛かった。グレゴールがそういう笑みを浮かべるシーンがほぼ皆無なので、余計にまぶしい。嬉しい。救われる。
  • ハケ際に一礼してから、客席をもう一度見渡すようにして消えていきました。

 …あと1回か。不思議だなぁ。実感ないなぁ。でも寂しいなぁ。客席に、タイムリーな菊池凜子さんのお姿が、あと終演後のロビーでRyoheiさんと辛源くんのお姿を、お見かけしました。

*1:リーマンショック的な

*2:唯一の小道具が「竹竿」というのもある意味とてもシュールだよな

*3:と云ってもオペラの視界にちょうどグレゴール虫の全身が綺麗に収まる感じでしたが

*4:視点が入り混じってるからね

*5:云わなくていいですか

*6:そういうことにしておく