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ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「ロミオとジュリエット」@芸術劇場プレイハウス(12/15夜)

 チラシは覚えていて、へーマームとジプシーの藤井さんがロミジュリかー、なんて思ってはいたけれどその程度だったのですが、トレイラー動画を観て「あっこれ観に行かなきゃいけないやつだ」と思ってささっと観てきました。観て良かった!! ささっとしたわたしえらい!!


12/13~東京芸術劇場『ロミオとジュリエット』チケット好評発売中!


 とりあえずこのトレイラーの…ドレスの裾の翻る様にときめく、その一点でまずやられ、芸劇サイトの説明を読んでこれは…となり、さらに衣装があの大森伃佑子さんと知って絶対行く。となりましたよ。大森さんと云えば雑誌「Olive」や「装苑」でうっとりするようなスタイリングが有名なカリスマスタイリストさんですよ。さらにその翻る裾のロングドレスが大森さんのブランド「Double Maison」のワンピースを元にしているとか…たまらない。背があと10センチあったらワンピース欲しかった。わたしが着たらお母さんのクローゼットいたずらしちゃった子供みたいなバランスにしかならないものがっくり。

 ロミオやマキューシオ、パリスなども女性キャストが演じる、という今回のロミジュリですが、そういうと女体とかオールメールシリーズを思い出すのだけど、女性が男性役を演じる、のではなくて、ロミオもマキューシオもパリスも女性、というのが今回の作品の肝のようで、その辺もどうなっているのか興味がありました。がまぁ8割方衣装! ドレス! 裾! ふわひら! 大森さん!! でしたね…そういう楽しみ方もあるんだよ…ちなみにチラシイラストはヒグチユウコさんでした。何か、すごい布陣だ…。

 2階の最前列を確保して、お高見だけどとてもクリアな鳥瞰視界での観劇でした。さすがに表情とか細かいところはオペラで見るしかないけど、これはこれで、演者がかっちり四角形の辺上を歩くのとか、可動する壁のセットが真ん中を中心に折れて回る様がまるで逆回転する時計の針のようだったとか、プロセニアムを取り払った舞台の端や奥で椅子に座って待機する役者さんの佇まいを観察できて悪くなかったです。何より舞踏会シーンの! 裾が!! 広がり!! 円を描いてくるくる回る様が!! それはもう黒と白の花が一面に咲いたようでとてもとても美しくて…美しかった…視界が好みのモノで埋め尽くされ過ぎていて涙が出た…。

 ストーリーはシェイクスピアのロミジュリそのまま、セリフも忠実な部分はそのまま、なのだけど、藤田さんが「ラストから逆回転させてみたかった」と仰っていた通り、ジュリエットが仮死状態で眠る地下の墓所でロミオが後を追うシーンが冒頭に来ています。が、逆回転というよりは、ロミジュリの主要な要素を細かく抽出して断片化したものを再構築したような、シーンとシーンが連想ゲームのように「夢」「夜」「毒」といったキーワードでつながっていくような、一本の話の筋が通っているのではない構成になっていて、それが逆にこの物語の本質を純化しているような印象でした。ロミジュリの要素の中の鋭角な部分だけを摘まみあげたような、研ぎ澄まされた水晶みたいな、個人的にとても好きなロミジュリになっていました。

 細かく切り刻まれ断片化され自在に繋ぎ合わされる場面は、幾度も塗り重ねるように繰り返され、ロミオとジュリエットが仮面舞踏会で出会ってから死に至るまでの5日間、日曜日から木曜日まで、を何度もループする。今日は月曜日、あれは昨日、日曜日の夜のこと、と曜日で何度も云われるたびに、5日間という時間の短さ、本当に刹那の、たった5日間の「たった」感をものすごく切迫して感じさせられる。たった5日間、日曜日から木曜日までの5日間を、永遠に繰り返すループの中に閉じ込められるような感覚に陥るのだけど、そのたった5日間のどの曜日もが鮮烈で、胸に痛く、幸福と焦燥と苦悩と悲哀と恍惚と、どれもがキンキンに尖って光輝くから、その5日間のループから出たくなくなる。繰り返され凝縮された5日間は純度を高め結晶化する。永遠のような5日間、その先の「未来」に彼女たちはいない。ループを抜け、5日間からはみ出てた「未来」に、彼女たちは存在することはできない。青柳いづみ演じるロミオの口から語られる「未来」、この言葉がこんなに悲哀に満ちて絶望的に響くのを聴いたことがない。未来なんかいらない、未来なんか知らない、この強烈に輝く5日間を永遠に生きていたい、そんな叫びに聞こえてしまう慟哭でした…。

 そう、青柳いづみさんのロミオが、というか、ロミオを彼女に演らせる為に、藤田さんはこのロミジュリを女性同士の物語に設定したんじゃないかと思うくらい、彼女のロミオが凄かったんです。逆に云うと、そのくらい「女性同士のロミジュリ」という設定が生きていないというか、なくてもいいというか、何も物語に影響を与えていないというか、そのまんまでただロミオやパリスがドレスを着ているだけ、というか。『なんと、ロミオも女性だったのです!!』的なものが一切ない、普通のロミジュリが、ただロミオも女性でドレスを着ていて、パリスも女性で、マキューシオも女性で、でもそれによって何かが動くわけではない、という…男装で男役を演じるようにしなかったのは逆に何故だろうと思うような…何と云うか、甲斐がなかったというか。でもその齟齬が不思議な効果をもたらしていないわけでもない、ような…ジェンダーをどうこうっていう話に全くしないまま、でもロミオやパリスやマキューシオはドレスの腰に剣を携え、ジュリエットや乳母は花を飾り、結局見た目の性別が女性に見えるだけでロミオはロミオだし男性性ははく奪されているわけでもないし…何なんだろう。男性の俳優さんも男役で出ているし。でもドレス同士で踊るダンスは眼福としかいいようのない美しさだったんだ…。ハテナは残るけどとにかく目に美しくて美味しいものにはなっていたから満足感はとてもあるんだ。

 青柳いづみさんのロミオがとてもとても良くて、というか青柳いづみさんが良くて。「小指の思い出」での魔女の独白も鬼気迫るものがあったけど、あれは何と云うかストーリーをわたしが捉えきれず雰囲気で観てしまった所為で印象もふんわりしてしまった感がとてもあって、でも今回は超スタンダードなロミジュリでその辺はクリアできている上での再構築バージョンで青柳さんの独白をこれでもかと聴かされて、すごく…いい…。あの声で、泣き声のようなあの声で、切々と、振り絞るようにことばを紡がれると、とにかく痛い。シェイクスピアのセリフの持つ悲劇性がこれでもかと突き刺さってくる。正直、ロミジュリで初めて泣いてしまったのだけど、作品に泣かされたのか彼女の声に泣かされたのかよくわからない…けどとにかく刺さりまくったのでした…稀有な存在だ…。

 豊田エリーさんもとても可憐で、可愛らしくて、小さくて美しい花のようで、そんな彼女が眉根をひっそりと寄せて哀しげに、あなたを待っているうちにおばあさんになってしまう、なんて云ったり薬の小瓶を呷ったり地下の墓所で目覚めたり胸に短剣突き立てたりばあやに昔話をされたり、そんなの可愛いに尽きるに決まってる…。また彼女も声が良くて、青柳さんのどこか少年めいた硬質な声と対照的に、少女らしい柔らかさとまだ子供っぽい硬さが共存するあたたかみのある声で、このふたりの容姿的な対比や並びの美しさと共に、声の対比や対話時の耳への響き方も考えられているキャスティングなんじゃないかなぁなんて思ってしまうのでした。とても良いんだ…でもカップルっぽさがあまりないんだ…でもそここそがわたしがとても「良い!」と思ったところなのかも知れないんだ…わたしのアンテナ基本的にラブストーリーにはあんまり反応しないから…。ラブストーリーっぽくないロミジュリってそれロミジュリなの?って感じもしますがわたしにはとてもちょうど良いロミジュリでした…好き…。

 パリス役の川崎ゆり子さんもマキューシオ役の菊池明明さんもとても素敵だった。パリスね~わたしロミジュリ観てると高確率でパリスの方がいいじゃん…ってなってしまうのですが、今回のパリスも素敵だった…おじさま分皆無だったけど。マキューシオはとてもチャーミングでスタイリッシュというかシャレオツな若者(笑)で、ロミオと軽口叩くのとかホッとするシーンが多くて、その分悲しい…眉毛のメイクめっちゃかっこよかったなー。男性キャストがまた無個性に衣装もスタイリングも統一されていてほとんど見分けがつかない感じで、そういうところもこのロミジュリは「少女の為の」ものなんだなぁと思いました。でも少女同士の恋、みたいな風にも見えなくて…うん、ただのロミオとジュリエットだった。そこが面白くて良かったところ。

 墓所のシーンから始まり舞踏会に収束する物語は、舞踏会と墓所が重なり合うようにつながってループを描き、そしてそのループから外れてしまったふたりをぽつんと背中合わせに置き去りにして終わる。永遠の5日間と地続きの「今」から弾き出され、「未来」に置き去りにされたふたり、この物語の悲劇性とは、禁断の恋が死をもってしか叶わなかったことよりも、その「未来への置き去り」なのではないか、なんて思ってしまうのでした。くるくるとドレスの裾が無数の円を描く舞踏会が、永遠に終わらなければ良かったのに。

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 配布でもらえるパンフも素敵で、サントラCD買ってしまいましたとさ。