ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「BLUE/ORANGE」@DDD青山クロスシアター(3/29夜、4/4夜)

 「テイクミーアウト2018」のダレンがとてもとても素敵だった章平さんが、成河さんと千葉哲也さんという演劇モンスターと3人芝居をやる、とのことでこれは是非観なくてはとブルオレ観てきました。初日ともう1回です。初日取れないかもしれないから前半に予備を…と思って申し込んだら全部取れたやつね。いいんです面白かったから!

 ロンドンの精神病院を舞台に、ひとりの患者とふたりの医師が繰り広げる濃密な会話劇ガチンコバトル3時間です。正常と異常、常識と非常識、善と悪、優と劣、常識と非常識、そういう対立項の境界が観ているうちにどんどん曖昧になっていく、自分が「きっとこうだろう、こうであるはず」と思って観ていたそれが、どんどんひっくり返されたりぐちゃぐちゃにされたり、凝り固まった価値観をぐらんぐらんと揺さぶられる脳みそジェットコースターでした。面白い…面白いけどヤバい……終演後に瞳孔開いた薄ら笑いを浮かべてしまうやつだった…。

www.stagegate.jp

 大してネタバレでもないけど一応畳みます。

 

 若くて熱意にあふれる研修医・ブルース(成河)は、担当していた入院患者クリス(章平)の退院について、上司のロバート(千葉哲也)に意見を求める。クリスの回復に疑問を呈し、入院の延長を求めるブルースに、ロバートはベッドの回転率を上げる為とクリスの退院を強引に推し進める。早く退院させろと云ったり、まだ残りたいと云ったり、クリスの様子は落ち着かない。平行線を辿る医師二人の対立、やがてクリスと二人きりになったロバートは、巧みな誘導でクリスに、ブルースが不当な方法で彼の退院を阻もうとしているという言質を取り、病院の上層部はそれを問題視しブルースをクリスの担当から外させようとする。キャリアを人質に、上司への服従を強要されるブルースの選択は、テーブルの上にあるオレンジの色を問われ、「青」と応えるクリスは果たして「回復」しているのか…。

 という感じの、怒涛の会話の殴り合いです。最初、あらすじだけ読んで想像していたのとはちょっと違う方向で、「マトモ」な人間は誰なのか、「マトモ」とは一体何なのか、が揺すぶられる…というかマトモな人間がいなかった(笑)。ブルース先生はクリスのことをとても親身になって心配してくれている、んだけど、そう思っていたけど、その皮を剥くと中身は…で。ロバート先生もブルースを買っていて、期待している…のかと思いきや本音は別にあったりして。クリスが「青い」オレンジを剥くと、中身も「青い…腐ってる」とほうり投げるシーンがあるのだけど、ブルースもロバートも皮はオレンジ色だけど剥いたら青いものが露呈するんだな…と思いました。青いオレンジは悪い、腐っている、病気、そういうイメージなのか。心を病んで入院しているクリスは「青いオレンジ」なのかも知れないけど、ブルースもロバートも中身は青くてぐちゃぐちゃだよね…って。一皮剥けばきっと、皮から青いクリスよりもどろどろの青が流れ出て来ちゃう。

 その場を立ち去るクリスが、実はまったく「治って」いないのがわかるシーンもとてもぞくっとしたのだけど*1、クリスが去った後のブルースがいきなり保身に走りまくるのとか、それも上手くいかないと悟ったら途端にまた手のひら返してロバートの弱みを握って潰しにかかる気配を見せるのとか、がもう…最高に醜くて最高でした(笑)。人間って醜いですね!! 腐った青い果肉につやつやのオレンジの皮一生懸命かぶってる!!!

 …って思ってふと、ロバートとふたりになったブルースがオレンジの皮を食べるのを思い出して、うわぁ…って余計なりました。かぶってた皮食べちゃってる…モンスター顔出してる…怖い(笑)。あそこ、柑橘類の皮大好きなわたくしは「わー美味しそうーいいなーでもワックスとか気をつけてね…」とかあほなこと思いながら観てたんだけど…うわぁ…。

 正常と思われる人間たちの方がよっぽどダメで、マトモとは一体何なのかわからなくなるし、さらにそこにいろんな差別意識が重なったりして、大変後味が何とも云えない感じで、そこがとても良かったです。また3人が3人ともものすごい…熱の高いお芝居で、ほんと演劇で殴り合いって感じで、それをクロスシアターの囲み舞台で至近距離で、まさに観戦感覚。あの長方形のアクティングスペースがボクシングかプロレスのリングのよう。初日、ロバート先生がマッチを箱からぶちまけるアクシデントがあってブルースが「…うそだろ(笑)」ってなりながら拾ってて、わぁ大変!って思ったら、別日に観たお友達がその日もマッチばら撒いてたと云っていて、あっあれも演出だったの!ってなったら、どうやらアクシデントをそのまま演出に取り入れていくスタイルだそうで。2回目はブルースが椅子をぶっ壊したけど、それも別日にぶっ壊れたのをそのままやっているそうで…舞台は生き物とはよく云いますが、ほんと蠢き呼吸し日々姿を変える、舞台という謎の巨大な生き物の生態を見守る、みたいな感覚が、他の舞台より強い気がしました。何でだろう。舞台のナマモノ感が生々しい。

 成河さんはものすごい熱量で、流石の演劇モンスターって感じで、凄かった。わたしこれまで成河さん、100ねこの2代目とらねこちゃんと花天魔王という、人外しか観たことなかった*2 *3ので、わー普通の服を着ている人間の成河さんだー!とちょっと新鮮だったのですが、いや人間だからといって…人間怖いようん…。どっちにしろモンストリューであった。千葉さんは出てきた瞬間に「あっ狸穴さん!」ってなったけど、相変わらず掴みどころのない、真意がどこにあるのかわからない、ふざけているようで実は腹黒い、一筋縄ではいかない老獪さが流石でした。ブルースもだんだんこういう「大人」になっていくんだろうねぇ…。そしてモンスターとベテランにがっちり食らいついていた章平さん、TMOとはがらりと違うキャラクターだったけど、コワモテ風から一転して見せる心細さとか、人格の不安定さとか、人懐っこい笑顔からふいに興味を失う目とか、誰も寄せ付けない壁とか、次々に移ろうクリスの複雑な内面を繊細に体現していました。彼の心が平安を得ることはあるんだろうか……。

 もう一回観に行く予定なので、前半からどんな変貌を遂げているのか、怖いような楽しみなような…楽しみです(笑)。ところでクリスがマーケットでやらかした時、グレープフルーツは何色だったんだろうね。青かな。

enterstage.jp

natalie.mu

*1:扉の向こうが真っ青で茫洋とした音に満ちている

*2:花天魔王は人外ですよね

*3:鳥天魔王も人外だけど