ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

冨士山アネット「霧の國」@THE HALL YOKOHAMA(2/10昼)

 「Touch the Dark」がとても面白かったので、イマーシヴ他にも行ってみたい!と思っていたところに冨士山アネットの長谷川寧さんが手がけるイマーシヴが上演されると知り、ほいほいと予約して、初日の初回で参加してきました。観てきました、じゃないのがポイント。

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 これが、めちゃくちゃ怖かった。別に、ホラー要素とか、お化け屋敷的恐怖体験ではまったくないんだけど、でもものすごい体験をしてしまった感…心底ぞっとした…。自分の意識がいとも簡単に、いつの間にか、恐ろしい方向に傾くことが自覚できてとても厭な気持になれました(笑)。自分の選択が正しかったのか、間違っていたのか、「正しい」って何なのか、正解は果たしてあるのか、どれもわからないのだけど、選択するということはもう一方の可能性を殺して先に進むことなんだな…。あの時あの一歩を、踏み出すかどうか。そこから「選択」は始まっていて、踏み出す/踏み出さない ことによってそれぞれ、踏み出さない/踏み出す 可能性を犠牲にしてその先に進んできたんだな…って、後から思い出すと改めて感じる。あの一歩は踏み出すべきだったのか、踏み出さないべきだったのか…わからないまま終わったし、今もわからないし、もし次回があったら…どうするだろう。

 ロールプレイングとして、あの世界のあの國で暮らす「国民」として考え選択するべきなのか、それともわたしのままで、わたしが良しとする方を選ぶべきなのか、あの世界の中での自分の立ち位置とスタンスをどこに置くか、をちょっと迷ったりもした。そこが違うと、思考も発する言葉も微妙に変わってくるなって。今回は、結局自分というかわたし、だったんだけど、でもぶれるところもあって、探り探りだった。難しい。

 何のこっちゃ、って感じですが、演劇というよりは、以前F/Tで参加した、ヘッドホンから聞こえる指示に従って動くやつ(「パブリック・ドメイン」)、に近い感覚で参加していました。でもあれよりさらに…がんばらなくてはいけないやつだった…。わたしはとても頭を使って怖い思いをしましたが、一緒に参加した友人はとても身体を使って疲れた方でした。自分の選択が、その先の道を変えていくのを目の当たりにする感覚、ぞっとした…でも面白かった…。あれリピーターだったらどうなるんだろう、入国審査で申告するとどうなるんだろう。気になる。あとマルチエンディング要素がどのくらいあるのかも気になる…わたしが参加した回の結末はああだったけど、違う結末になったらどうなっていたんだろう。他の回に参加した人のお話とかいろいろ聞いてみたいです。

 あとはがっつりネタバレします。

 

 

 開演前のロビーでアンケートならぬ入国申告書が配布され、必要事項を記入してそのカードを持って入国審査を受けて、手荷物を預け貴重品は渡されるサコッシュに入れて、いざ入国。サコッシュの中には小さな懐中電灯が、サコッシュには番号の書いてあるタグ(番号は預けた荷物の番号)がついていて、タグの色で赤と青に振り分けられて入国します。これは知り合い同士で来た人を分かれさせる為って感じかな。特に内容的な組み分けではなかったです。あと入国前にマスクを配布されます。霧は有害ではないけど一応対策のマスクとのことでした。

 霧の國は霧をエネルギーとして利用するシステムを確立、そのエネルギーを元に発展した國であるが、霧のエネルギー利用には有毒物質の排出が伴う。霧の國は中央に清浄な空気を保った区域を造り、国民の30%に当たる「クラウド」と呼ばれる特権階級がそこで暮らし、國の重要事項の意思決定を担っている。70%の国民は「アトモス」と呼ばれ、汚染された廃棄物を処理する肉体労働に従事している。クラウドのクリーンな生活はアトモスの労働によって支えられているが、クラウドは國のさらなる発展を考え、提示していかなくてはならない。

 …という世界観の國なのだけど、それは入国した時点では明らかにされていません。ランダムに向かい合う四角の2辺に並ばされた入国者たちは、暗い霧に包まれた空間で、イエスかノーかで答える質問を次々に投げかけられ、イエスの数が一定数に達した者から順に、横に設置された小屋状の透明なテントの中へ入っていきます。先着10名で質問は打ち切られ、テント内の人間は「クラウド」、外に残っている人間は「アトモス」であると、ここで初めてこの國のシステムが知らされます。

 この質問がまた何というか、だんだんイエスと云いたくない雰囲気の設問になっていて、凄かった…いわゆる「意識高い系」かどうか、みたいなものなんだけど、いやぁわたしそっち行きたくないなぁ(笑)ってなるような*1…でもちょっと好奇心もあって、迷った問題でエイッと一歩前に出たので、クラウド入りしました。一緒に参加した友人が残っていたっぽかった(見つけられなかった)ので、後で話を聞くのに分かれた方が面白そうだなって…下心が働いて…。イエスかノーか答えを出す時間もとても短くて、考えているうちにタイムアウトになる人もいそうだった。えーどっちかなぁ…って思っているうちに回答を出す時間になっちゃうの。あの短時間ですぱっと答えを出すの、けっこう厳しかったです。わたしは。

 クラウドとアトモスに分けられた入国者たち、アトモスの人々は管理官の厳しい叱責の元、ラジオ体操で準備運動をしてからクラウドの椅子を運ばされたり、白い防護服を着て、4人一組で汚染された廃棄物を手を使わずに運ばされたりします。テント内のクラウドは、テントの中の空気は清浄なのでマスクを外しても大丈夫と云われ、アテンダントさんが用意してくれたウエルカムドリンク(炭酸水だった)や軽食(多分ルヴァン)を頂き、アトモスの皆さんが運んでくださった椅子に腰かけ、外の様子を眺めます。これがもう、ハチャメチャに居心地が悪い。何だこれ。気持ち悪い。この時点でうっすらと、効率良いエネルギー資源から出る汚染された廃棄物、とか、3割の富裕層が富を独占するとか、とても極端に誇張されてはいるけれど、ほぼ日本や我々の今現在の世界の状況と変わらないな…と感じて、現実では完全にアトモス側の人間であるわたくしが何故かクラウドに紛れてしまっている違和感にある種の嫌悪感を抱いたのでした。本当に居心地悪かったしそこにいるのがしんどかった…。

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 肉体労働を強いられ、休めば叱責が飛び私語は禁じられるアトモスが外で働いている間、では中のクラウドはというと、ひとしきりアトモスの労働の様子を眺めた後に、「それでは皆さんは、我々の為にああやって働いてくれているアトモスの方々に一体何ができるでしょうか。彼らに何をしたら良いでしょうか」と問われ、3~4人でのグループディスカッションの時間になります。初日初回で初対面で日本人がいきなり活発な議論を戦わせるのはなかなかハードル高いですが、でもぽつぽつと意見や提案が出始め、今度はクラウド全員で輪になって出た意見を共有したり、質疑になったりでまた少しディスカッションをして、いるうちに、テントの外では労働を終えたアトモスたちが管理官の号令の元、テントを囲むようにして地面に座り出します。クラウドは椅子をテントの外に向けて座り、アトモスの人々と対面します。この、向き合う瞬間が、めちゃくちゃ怖かった…こっちは椅子に座って、向こうは白い防護服にマスクで地面に座ってこちらを見上げていて、何か…やばいこれ…って思いました。良い気持ちには全くならなかったのがある種の救いなのかな…本当に怖い瞬間だった…思い出してもぞっとする。そしてクラウドは、アトモスに向かってそれぞれ、話し合ったことを自分の言葉で伝えるのだけど、最初はこちらの声が聞こえているかどうかもわからなくて、聞こえてますか…?ってそっと聞いたらうんうん、とか指で○ってしてくれて、なので精いっぱい、労働に見合った対価を支払う、とか、オートメーション化してもっと楽になるようにする、とか、富の再配分とか、クラウド/アトモス間の行き来を自由にする、とか、廃棄物の有害物質を無毒化するシステムを開発する、とか、ディスカッションで出てきた内容を伝え…るのだけど、アトモス側からは「それはどうしてですか?」しか反応が返ってこない。というのは、管理官からそれしか応えないように、とアトモスは云われているからなんだけど、「それはどうしてですか?」って云われても…その方が正しいと思うから…みたいなぼんやりとしたことしか云えなくて、どんどんへこんでいく地獄のような時間でしたよ。あと、対応策を話し合っていても、出てくる意見が自然と、「クラウドの立場から」を前提とした、もっと云うと自分が特権階級側にいる前提を受け入れた上でのものになっていることに、自分で気づいてそれが心底怖かった。上から目線というか、自分はこっち側にいるけどあっち側に何をしてあげられるか、みたいな……そうじゃないんだ!!って思うんだけど、でも人間ちょっと良い目を見させられる(あくせく働いている人を見ながら座ってお菓子を食べるとか…)と、いとも簡単に、自分はそっちじゃないから~みたいな思考に傾けてしまうのだな、という恐怖を身を持って体験させられたのでした。吐き気がする。

 また格差のつけ方が巧くてねぇ、外は防護服に防塵マスクの管理官が怒号を飛ばし、中は黒いスーツに黄色いチーフを巻いたソフィスティケイトされたお姉さんたちが椅子を勧め、グラスにドリンクを注いでくれる…こんなことで良い気分にはならないけれど、居心地悪いばかりなんだけど、でもこれが当たり前のように続いたらきっと、そういうものなんだって思うようになってしまいそうで、もうひたすら怖いのでした…。やだこわい。わたしこっちの人間じゃないしこっちの人間になりたくない。のに。でもグラスのお水は美味しいしルヴァンは美味しかった。

 で、クラウドがディスカッションしている間にひたすら肉体労働を続けているアトモスを見ていて、これもまた巧みに、単純労働を強いることによって思考停止に陥るように仕向けられているのだな…と思いました。これも支配の一つの手段であり、思考することを取り上げて疑問を持ったり反抗心を抱いたりする芽を詰む、というか潰していくんだな。ブラック企業の構図だな。と。見ていてしんどかったです。やってる方は楽しかったそうですが(笑)。

 テント越しに向き合って、一方通行な対話を続けていると、突然サイレンのようなものが鳴り響き、照明が落ちます。椅子に座っていたクラウドも、危険なので床にしゃがみ込み、システムの異常を告げる警告が響きます。やがて警告音が止まり、暗闇の中でしばし、静かな時間が流れ、少し考える時間が与えられるような。個人的には完全暗転では全然なかったので、明るいなーって思ってしまった(笑)。暗闇ワークショップとか行っちゃったから…全然暗くないなって思ってた…そういう時間じゃないのに!

 しばらくして、再び灯りが戻り、アナウンスが再び、霧エネルギーシステムに異常が発生し、大気中に汚染物質が流出していると告げます。テント内は緊急避難場所となり、扉が開かれアトモスのみんなが中へ避難してくる。とたんにいっぱいになるテントの中。白い上着にマスク姿の7割のアトモスと、上着を着ていない3割のクラウドが、初めて混ざり合う…そこに本能的な恐怖を感じたこともびっくりしたのだけど、その恐怖は何というか、今まで特権階級のあれこれを享受してきたことに対する後ろめたさがすごくあったから、ああこれ何されても文句云えないわ…的な諦念というか、何かされても仕方ないというか…とにかくそんな恐怖感だった。すごいよ、怖いんだよ。たぶんアトモスの人たちはそんなこと全然思っていないんだろうけど、クラウドに対してもそんな、そこまでの憎悪とか憤怒とかまだ、大してないと思うんだけど(短時間だったし…これが中のパーティがもっと豪華で外の労働がガチでしんどくてそれを1時間くらい、とかだったら本当に怖いと思う)、たった数十分、それも虚構の中で、根拠も適当に、ざっくり分けられただけなのに、自分の中にそんな恐怖感が発現する、その現象がとても恐怖だった…人ってものすごく簡単に境界を作るし境界を境界と認識するしそれを受け入れてしまうんだ、って…。だってテントに入ってきたアトモスたちはわたしたちクラウドとは別で、別の人たちがたくさんわたしたちの領域に入ってきてそれが怖い、って感じたんだもの。すごい。自分が怖い。

 アトモスたちを受け入れたテントはかなり人口密度が高くて、ちょっと混んでる都会の電車くらいの感じで、そんな中にアナウンスが、この國の基幹システムがテロリストに占拠され、有害物質の流出もテロリストの仕業である、そしてこのテント内にテロリストが紛れ込んでいることがわかった、と告げる。さらに、紛れ込んでいるテロリストを探し出して下さい、と。一瞬静まり返るテント内、何となく隣の人と顔を見合わせるあの気まずさ。えっこれは犯人捜しを…するの? 探し出して、もしくは容疑者を決めて突き出すの…? 意図がわからなくてしばし呆然となりました。どこまでやっていいのかわからないというか。たぶんテント内みんな、そんな戸惑いだったんじゃないかな。そのうち、クラウドの中のひとりが、懐中電灯の色が違うのあやしくない?と云い出して、最初に渡されたサコッシュの中に入っていた懐中電灯を出してみることに。でも色は結構ランダムで、黒、灰が多い中赤の人もいて、でも赤の人がテロリストだったかどうかはわからない…し複数いたし関係ないねってことにその場もなって。わたしはとりあえずクラウド10人はマスクも外して会話も交わして、たぶんこの10人は違うんじゃないかな、と思っていた*2ので、アトモスの人たちが着ている白い上着を脱いだら、服装で何かわかるかも、とか云った気がします。でも上着を脱いだらアトモスとクラウドがわからなくなる、って云われて脱がなかったような…その反論も今になっては怪しい(笑)とか思ってしまうけどどうだったんだろう。全部脱がなくても中の服装を見せてくれるだけでよかったんだけどどうだったんだろう…。あと、「この中にテロリストが紛れ込んでいる」という情報そのものの信憑性をわたしは疑ってしまった。ソースは正しいの? 相互不信を生みつけて内部分裂とか内紛を誘発させる手段じゃないの?って…まぁ違ったんですが…。

 結局犯人の特定には至らなかったんだけど、他の回で成功したり何か違う流れになったりした回があったのかどうか、とても気になります。あと、この時に声を上げていたのがほぼクラウドのみで、アトモスの人たちからはほとんど発言がなかったのが、何というか、クラウド側は先にディスカッションもしていて、考えたことを発言する、ということにだいぶ慣れ(させられ)ていたのに対し、アトモスの人たちは思考の時間なく発言も制限され、ハイここで何か提案して下さい!ってなった時の瞬発力みたいなのに差がついていたというか、差がつくように仕向けられていた、ような印象を受けました。やっぱり単純労働は思考を奪う…って思った…。クラウドばっかり何か云って、アトモスはあー、とか、えーとか、何かそういう受け身な反応をする集団、みたいな構図が出来上がっていて…出来上がり過ぎていて怖かった…。他の回ではそんなことなかったようですが、初回なのもあったのかな。すごくティピカルというか、ある意味わかりやすい反応と現象の回だったんじゃないかな…。

 結局犯人の特定には至らず、そのうちテントの外を黄色い旗を掲げた、白い防護服の集団が、歌を歌いながら列を為して取り囲み始めます。テロリストに包囲されたのです。すると、アトモスの中の男女各1人がその歌に唱和して、テントを出て行きました。彼らが「紛れ込んだテロリスト」だったのです。複数だとは思わなかったなぁ! やっぱり白い上着脱がせてみればよかったとか思いました。あと赤い懐中電灯がそのふたりだったかどうかは確認できなかったな。

 そしてテロリストからの要求が告げられます。この國の上層部は、霧エネルギーによって汚染された大気の汚染濃度を偽って発表していた*3、この國のシステムは転覆し、大気は汚染された、テロリストにクラウドを差し出せばアトモスは解放される、拒否すればアトモスはテロリストの捕虜になる、と。自分たちの生活の犠牲になって労働していたアトモスに対し、クラウドは有害物質の数値を少なく偽り、その健康をさらに危険に晒させていたこと。アトモスの犠牲の上に成り立つクラウドの享楽的な生活。それを踏まえた上で、「この」クラウドたちはアトモスが、身を挺して守るに値するのかどうか。この辺がネックになるんだろうな…。テロリストにクラウドを差し出すかどうか、皆さんで話し合って下さい、とアナウンスされ、またざわつくテント内。えっテロリストに引き渡されたらクラウドはどうなるの?と声が上がったので(多分クラウドから)、そりゃ殺されるよね、と答えました。だってテロリストだもん捕虜って云われなかったもん。あとわたし個人的には、飲んじゃったし食べちゃったしアトモスのみんなが働いている間に良い目を見たんだから引き渡されてもしょうがない、と思いました。だから出て行こうか?って…あれ実際に出て行ったらどうなってたのかな…。結局、クラウドを引き渡すかどうかの判断はアトモスの多数決に委ねられます。クラウド自身の意見は、どっちの選択にしても数に入らないようで、引き渡す側に行きたかったんだけど多分ノーカウントだったんじゃないかと…アトモスの皆さん、って云ってたから…。

 わたしが参加した回では、多数決の結果クラウドを引き渡さないことになり、少数派の引き渡す方に賛成したアトモスたちはテントを出て、テロリストの列に加わります。テントを隔ててまた分断されるわたしたち。向こう側の人たちは、クラウドを犠牲に差し出すことに賛成したんだな…と向かい合いながらぼんやり思うと、なかなかに複雑な気持ちになれました…自分から出ていくのと差し出されるのは感情的にだいぶ違うもんだな…。ハミングで歌われるテロリストの歌が、「You are my sunshine」なのに気付いたのもこの時だったかな。あなたはわたしの太陽、なのにどうして去ってしまったの、と歌われる。どういう意味でこの選曲だったんだろう、クラウドはあなた方の太陽じゃなかったよね…去っていくのはあなた方の方だよね…とかぼんやり思っていた記憶が。

 やがて黄色い旗に導かれ、テロリストとそちら側の人々は「日の昇る國」に向かって歩いて行きました。と同時にテントが徐々に傾いて外に出され、スクリーンには入国審査カードに記入した「あなたの思う良い國とは?」という質問の回答、「わたしの思う良い國とは、(  )國」の回答が次々に映し出されます。それを振り返って眺めつつ、カーテンが開き外の薄曇りの光へと歩き去る後ろ姿を眺める、残った人々。
テロリストたちの姿が外へと消えると、残った人々の上に新たな声が告げます。さぁ、新しい日々の始まりだ。準備運動をしろ。今日も一日労働に従事しろ、と…。そして終演が告げられました。

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 外の国は良い国で、とても安全で清浄で霧のない国です、とアナウンスは告げていたけれど、個人的には薄曇りの灰色の空の「外の国」だって霧の國と大差ないじゃん…と思っていたので、向こう側に行きたい、ここから出たい、とはあんまり、切実に思わなかったのが、うん…わたしの感想です。だって外の国だって霧の國ほど大袈裟じゃないけれど、人口の3割が富を独占して、大気中に撒き散らされた有害物質の数値は国が改竄して、7割の国民は日々の生活と労働に明け暮れて思考停止して、ほら変わらないじゃん…程度の差じゃん…。なので、どっちにしろ軽く絶望的よね、と思いました。

 でも自分の裡にいとも簡単に、格差や分断や差別や区別や、そういったものに慣れてしまう部分が確かにあることに気づかされて、それを実感させられるという、そこはとても恐ろしく、貴重な体験でした。怖かった…気持ち悪かった。社会実験の、観主役と囚人役、みたいだと思った。し、いろいろ考えることもあったし、終演後にアトモスだった友人といろいろ話したのも面白かったです。あと終演後のアンケート用紙と一緒に、「You are my sunshine」の歌詞と、「この國に残った皆さんへ」と書かれた紙が配布されたので、きっと外の国へ旅立った人へは別の紙が配られたんだろうなーと思いました。そっちには何が書かれていたんだろう。

 わたしが参加した回はこういう感じで進行したけれど、別の選択をしたら、もしテロリストを見つけ出したら、もしクラウドをテロリストに差し出したら、差し出す方が多数決で多かったら、どういう結末になったのか、どのくらいマルチエンディング的な要素があったのか、どんな分岐があったのか、いろいろ他の回が気になります。かなり全体的にジェントリィに進んだ印象だったけど、テント内でアトモスとクラウドが一触即発…みたいになったりしたことはなかったんだろうか。お前らよくも今まで俺たちを!!みたいなこと云われたりした回なかったのかな…力いっぱい保身に走る悪役お約束みたいなクラウドになったりしなかったのかな…それはそれでとても怖いな。

 …という、今回の結末に辿り着くまでにも、いくつもの「選択」が為されてきて、「選択」をするたびに選ばなかった選択肢から始まる未来は消滅していく、それを犠牲にして今この瞬間がある、ということも、強烈ではないけれどじんわりと、感じられる体験でした。はーこれリピーターどうなるんだろう。入国審査で初めてじゃないですって云ったらどうなるんだろう。

*1:覚えてるのは「どんなに貧しくてもファストフードには手を出さない」「どんなに貧しくてもファストファッションには手を出さない」「エネルギーの無駄なので芸術は必要ない」「母国で戦争が起きたら外国に逃げる」「母国が経済破綻したら外国に逃げる」「地球温暖化はわたしの努力で止められる」とか

*2:仕込みの人をここに潜ませるのはなかなか難しいだろうなって

*3:つまりもっと有毒なものが垂れ流されていた空気だった、ってこと?