ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

劇団ワンツーワークス「善悪の彼岸」@中野ザ・ポケット(11/22夜)

 はじめましてのワンツーワークスさん観てきました。「テイクミーアウト」や「ジハード」で泣き果てさせられた竪山隼太(たてやまはやた)さんご出演の、刑務官と死刑囚のお話です。…最近この辺も触れる機会の多い題材だなー映画「教誨師」ね。

www.onetwo-works.jp

 刑務官と死刑囚、加害者の家族、それぞれの立場から見る死刑制度、死刑囚、そして死刑執行。殺人罪で死刑に処される死刑囚に対し、執行ボタンを押す行為は殺人ではないのか。死刑囚の「正しい」在り方とは、死刑囚はどう死んでいく「べき」なのか、死を受け入れ恐れない死刑囚にとって死刑は果たして「刑罰」なのか。なかなか、正対して考える機会のない、でも絶対に考えるべき、そして答えの出ない、問題に、新人刑務官霧島と一緒に向き合いながら模索していく、そんな2時間でした。しんっっっどかった……!!!

 作品自体はユーモラスなシーンもあって笑えるところもあるし、演劇的演出的に面白いところもあって、転換がかっこよかったり、お芝居的なエンターテインメント性もある、んだけど、まぁ題材からして重いのですが、とにかく…しんどかった。テーマの重さももちろんなのだけど、自分がどう思うのか、自分はこれに対してどういうスタンスなのか、どういう立場なのか、が見つけられなくてそれがとてもしんどい。人は、日本人は、死刑に、死刑囚に、殺人を犯した者に、何を望むのか。誰のためにどんな死を、生を、望むのか。舞台上から投げかけられる問いが難しくて、観ながら熱が出そうだった。ぜんぜん答えが見つからないし答えに近づけそうな方向性すらわからない……方角すら見いだせない迷路を迷うのはとてもつらい。

 刑務所の刑務官、という、最も身近に死刑囚と接し、「最期」を告げ、「最期」をもたらし、「最期」の瞬間に立ち会う、とても特殊な職業だけど、もちろん彼らも人間で。人間として、死刑を執行することを正当であると考えようとするのは自然なことだし、死を迎える囚人がどうあるべきかという理想が、その執行にまつわる刑務官への負担を軽減するようなものになるのも理解できる。できるんだけど、そう都合の良いことにはならないのも当然で。刑罰としての死を少しも恐れない囚人にとって、その「死」は果たして刑罰として機能するのか。犯した罪を悔い、被害者へ許しを請いながら恐怖に震え取り乱す加害者へ、もう苦しまなくていいとボタンを押す、という執行する側の理想を、自らの執行時に途中まで再現してみせ、それを冷笑し、目隠しはいらない、大丈夫だからと落ち着き払った態度で自ら絞首台に立つ囚人にとって、「死刑」とは何なのか。

 どうしても、映画「教誨師」の高宮という死刑囚を思い出さずにいられないのだけど、高宮はそういう意味ではとても刑務官にとって「良い」死刑囚だったのだな、と思ってしまったり。良い、というのは、ボタンを押す負担が軽い、という意味で…。「善悪の彼岸」で執行された白根という死刑囚は、それを見透かしてさらに一枚上手を取るような…怖かった…。

 わたし個人的には、死刑制度には反対なのですが、作品中に出てくるのは刑務官が中心なので、彼らのセリフとして聞こえてくるのは死刑制度の正当さで。でもそれを聞きながら、聞けば聞くほど、やっぱり人が人を裁くのに「死」を用いるのはナンセンスというかダブルスタンダードに過ぎるよな…というのが浮き彫りになっていくのが恐ろしかったです。面白いとは云えない…そんなとてつもない矛盾を、「刑務官」という肩書きだけで、人間に背負わすのも、酷いことなんじゃないかな…。

 初めての執行でひとりボタンを押せなかった刑務官・霧島を演じた竪山隼太さん、とても…負荷の高い役で…理想と現実に向き合って立ち尽くし悩む姿が、それはそれでとても真摯でした。悩んでも答えは出なくて、でも観ながら一緒に悩んで考えて、でも正解もぼんやりとした糸口すらも見つからなくて、どうしたらいいんだろうどう考えたらいいんだろう正義って誰にとってのそれが一番重視するべきものなんだろうって…やっぱりわからないままなんだけど、霧島さんと一緒にぐるぐるするのは絶対に無駄じゃない時間なはず。死刑囚の白根を演じた多田直人さんはキャラメルボックスの俳優さんとのことで、今回が初見だと怖い印象しかないんだけど…きっとそうじゃないんでしょうきっと…。

 本当に、両耳から湯気が噴き出そうなくらい大変なお芝居だったけど、観るべきものでした。しんどかったけど…でもちゃんと考えなくてはいけないことだから…。