ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

阿佐ヶ谷スパイダース「MAKOTO」@吉祥寺シアター(8/10夜)

 お盆前に吉祥寺シアターで阿佐スパを観てきました。劇団員が大幅に増えて、新生という感じの久しぶり阿佐スパです。いつぶりかなと調べたら、2010年の「アンチクロックワイズ・ワンダーランド」が前回だったので*1…8年ぶり…葛河思潮社は2014年に「背信」を観たのが最後のようだ。久しぶりだ。

 「アンチクロックワイズ~」の頃の阿佐スパは、とても迷宮のような、本のページをバラバラに切り離してランダムに拾い上げた紙片を読むような、不思議な作品になっていて、云ってしまえば難解なんだけど、その何とも云えずわかりそうでわからない感じがわたしは嫌いじゃないというか面白いというか、だったのですが、今回の「MAKOTO」はあの頃に比べるととてもストーリー性があったし登場人物もキャラクター性があって、昔の*2阿佐スパっぽさも感じられる雰囲気でした。でも、だからといって最近(でもないけど)の、つかみどころのない茫洋としたファンタジックな空気がないというわけではなく。その、わりとリアルな現代の東京の池袋の隅っこ辺り、から、ファンタジーやオカルトやSFがシームレスで混ざり込んでくる感じが面白かったです。夜を疾走する狼タクシーの一場、あのめくるめく感じと高揚感、涙が出るほど素敵だった…!

 医療ミスで妻を亡くした売れない漫画家の、失意と再生の物語、と云ってしまうけれど、そこに不可思議な夢みたいなものが混ざり込んできたり、妻の執刀医の自宅に乗り込んだり、亡くした妻の代わりを調達(?)したり、賠償金目当てに訴訟を起こさせようとする親族が来たり、いろいろなことが起こるのです。そして自称漫画家で今は交通整理のバイトをしている男は、妻の遺品を処分するごとに強大な謎の力を発揮するようになる。飼い犬の花子と一緒に、かつて妻と散歩した道を歩く男、彼に寄り添うはなこが愛しい。暴走する中年男的な、かつての阿佐スパっぽい勢いを感じつつも、不思議な、不条理とも云えるようなものが混じり込み、幻想的で物悲しい寂寥感が通奏低音のように常に鳴り響く。狼のタクシーの遠吠えに呼応する狛犬たち、渋谷の街の光の明滅、タキオン粒子の奔流、爆発。あの日投げたボールの行方、追いかける花子の遠吠え、ノスタルジーの苦み。長編漫画の結末はいかに。可笑しくて悲しくて、美しくて不思議な、朝から次の朝への、駆け抜ける夜の、物語だった。

 下弦髑髏城ぶりの中村まことさんは、温和な柔らかさと紙一重のヤバさが匂い立つようで流石でした。けっこうハチャメチャなことになってたけどそれもまことさんならあるかも、と思わされる説得力と声の良さ。同じく下弦髑髏の渡京さんだった伊達暁さん、は、素敵だった(笑)。女装がひどいんだけどそのひどさを含めてとても良いやつだった(笑)。あと濃厚だったな…! 白衣も似合ってた。中山祐一朗さんの女装は…汚いだけだった(笑)。今まで男臭い印象の阿佐スパだったけど、新メンバー加入で女性陣が強化されて、またみんな素敵で! ちすんさんめっちゃ綺麗でセクシーで声も可愛くて足も綺麗でほわわーってなってしまった…李千鶴さんもかっこよかったなぁ。木村美月さんは健康的な美少女って感じでお父さん長塚さんもたじたじでしたね。志甫真弓子さんもちょっとつかみどころのないお母さん不思議でした。そして「半神」ですごく素敵なマリアだった藤間爽子ちゃんが…やっぱりめっちゃ可愛かった…わっしゃわしゃしたいよ…遠吠えが哀しげでとても良かったです。声も立ち姿も綺麗だなぁ。

 ラストの演出が、観ている時はちょっとピンとこなかったんだけど、あとで思い返してみて、あの駆け抜ける夢みたいな朝から次の朝までの出来事は、それ自体が彼の初めての「長編漫画」だったのかもしれない、と思いました。大団円だったね!!

 そして、終演後のバックステージツアーも参加してきました。すんごい楽しかった! 舞台監督の福澤さんと長塚圭史さんのアテンドで、さっきまで見上げていた向こう側の世界に靴脱いでお邪魔するの、すごい経験だった…精巧な写真プリントの床がまさか起毛の絨毯だったとは、セットの写真プリントも布地だったとは! 舞台は幅は見えていたのでなるほどってサイズ感だったけど、奥行きというかセット裏が本当に狭くて、こんな小さなスペースでいろいろやってたの!?ってびっくりした。窓の開口部もけっこう、思ったよりプリミティブというか…開いてて塞いでるだけなんだね…さっき観たばかりの小道具なんかも置き場が決められてきちんとそこに収納されていて、不思議な感じでした。こんな雑然とした感じなのにさっきまであんな熱量の世界が立ち現われていたんだな…。質疑もラフな感じに行われて、美術があの形に決まるまでの過程や長塚さんのいつもの感じ(笑)も聞けました。写真プリント面白かったし「写真」て何か特別なノスタルジーを纏っているものだよな…。

 吉祥寺シアターの舞台から見る客席の眺めも感慨深かったです。こんな風に見えてるんだ…思ってたより客席の顔って良く見えるんだな…。立つ方は大きめのホールしか知らないので新鮮な距離感でした。面白かった! プレトークは間に合わなかったけど機会があったらぜひ参加してみたいです。次の阿佐スパ公演とかで。

 開演前も終演後もロビーとか物販に皆さん普通にいらしててとても落ち着かなかった…どうしても何かそそくさと通り過ぎてしまう…。

*1:※うそ。2011年7月の「荒野に立つ」も行ってたよ!

*2:って云い方が合っているのかわからないけど