ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

劇団柿喰う客「俺を縛れ!」@本多劇場(2/1夜)

 プルートゥ月間も終わってアトムも次の空へ飛び去ってしまった2月、柿の本公演を観てきました。柿喰う客は最近新劇団員が大幅新規加入して、ちょっと追い付かないくらいになってしまった(わたしの記憶力が)のですが、でも前回の柿フェスでもその新劇団員さんたちがとても生き生きとフレッシュに柿世界を構築されていたので、ちょーっとお顔と名前がまだあやしかったりもするけどますますこの先が楽しみな劇団なのです。しかもまた劇団員オーディションやってるから…また増えるんだね…でも結構な人数が見事なフォーメーションで広くない舞台に立ってるのは視覚的にかっこいいです。好き。

 「俺を縛れ!」は初演が10年前とのことで、もちろん初見でした*1。今回の再演にあたってどのくらい手が加えられたのか、初演時はどういう形態で何人で上演されたのか、その辺まったくわからないけど、とりあえず10年前でも少しの古さも感じませんでした。まぁ10年だしね…でも、ここまで笑いに振り切った柿作品も初めてだったなぁ。ほとんど笑っていました…笑いながら「うっわこわ…」って笑いが引いていくのが柿の醍醐味で、その辺ももちろんあるにはあるけれど、これまで観てきた他作品に比べるとライトかなー。ライトというか、軽いわけではなくて、水底に沈めてある石の大きさが小さめ、くらいの感じだけど。いつもわりと巨岩が沈んでるからね柿…好き…。

 徳川の世、悪名高き将軍家重から諸大名に下された令は「きゃら御定めの令」、それぞれに振り当てられた「ラーメン」とか「どスケベ」とか「モノマネ」とか「メガネ」とかのキャラを常に、忠実に演じなければ打ち首に処されるという厳令だった。混乱する大名たち、彼らがきちんとキャラに徹しているかを監視する徳川の忍び服部半蔵、そして田舎の貧乏だけど幕府に対する忠義だけは誰よりも厚い大名・瀬戸際切羽詰丸に当てられたキャラは「裏切り」…。忠義の為に幕府を裏切り、忠義の為に謀反を起こす、いや起こさねば打ち首になる、究極のキャラ縛り時代劇! …という感じのドタバタチャンバラ劇、ですが、そこはやっぱり柿。まくしたてるような早口、流れるような弁舌で繰り出されるセリフ量と圧倒的なスピード感はいつも通り、むしろいつも以上な感じがするのはそこが10年前の勢いなのか? 120分間ほぼノンストっプで大体笑っていましたが、ラストのメタ的展開からぐぐっとひんやりした肌触りになっていくのが柿らしい。…けどメタになっちゃうのちょっともったいなかったような気もする…物語せっかく面白かったから最後まで通してほしかったような気もするんだ…。可笑しかったんだけど!!

 キャラに縛られた大名たちが命がけでキャラを演じる様がとりあえずみんなおかしくて、特にものまね大名にされてしまった加藤ひろたかさん*2の体当たりアドリブだらけの捨身なものまねの数々が…が、がんばれ…好き…(笑)。将軍の息子役の長尾友里花さんも美少年っぷりがとても素敵でした。最後の父親とのシーンはほんと良かった…切なくて愛おしいシーンだった…。っていうか最近の柿は美人美形が取り揃えられていて舞台上が華やかだな!! 客演陣も美しかったしな!! 切羽詰丸の裏切り指南役で登場した神永圭佑さんとか、うっわなんだ顔綺麗だな!?!?って出てくるたびにびっくりしちゃったよ。2.5舞台で活躍されてる方なんですねーいやぁ美形だった。切羽詰丸の奥方つばき役の淺場万矢さんもゴージャス系美人だし、切羽詰丸の息子役の永田紗茅さんも可愛らしいし、ねぇ。将軍役の牧田哲也さんは美形なのに美形を認識させない怪演でそれはそれで素晴らしかったです。しばーらく、えっ牧田さん…? えっ牧田さんじゃない…? あれっやっぱ牧田さ…ん??ってなってた…。怪演といえば切羽詰丸の娘ざくろ姫役の宮下雄也さん、は、とても…一瞬「あれっもしかして可愛い…?」ってなる瞬間がたまーにあるのがまた…。めちゃくちゃかっこよかったです。ざくろ姫はかっこいい。田中穂先さん演じる大岡忠光のキャラが何だったのか最後まで明かされないのが良かったけど気になる…何だったんだろうか。穂先さんほんと緩急自在で好きです。きもちわるくないよ可愛い枠だよー。北村まりこさんの瀬戸際家家老も哀しくて良かったしざくろ姫に一途な浪士の清水優さんはちょっと97年髑髏の頃の古田さんに似てた。高感度高めな好感堂鷹目役のとよだ恭兵さんもキラキラでした。

 そしてそんなフレッシュな面々に囲まれてやっぱり怪物な切羽詰丸の永島敬三さん、つるっつるでバッキバキな裸体まで晒して下さって眼福だったしほんと怪物だし、真ん中に永島さんがいることによってどれだけ面子が一新され客演が入り人数が増えようと柿らしさのバランスが保たれているような。そこに、狂言回しの七味まゆみさんが妖艶に物語を誘い、葉丸あすかさんがピリッとスパイスを添える、この辺の布陣の完璧さに震えるのでした。七味さんと葉丸さんが常に見下ろしている下で繰り広げられる大名たちの七転八倒、まさに監視されている感じで下から見上げる七味葉丸組の「世界を総べる」感もすごかった。そんな葉丸さんの服部半蔵も、半蔵というキャラを取り上げられたらすぐに死んでしまうのがね…。逆に云うと、ざくろちゃんはキャラを自在に乗り換えて上手く世渡りしていったんだと思います。最後はまぁ…だけどでも最後の最後にあれはあれで見事だった。かっこよかった。

 中屋敷さんっぽさと云えばちらちらと見え隠れするシェイクスピアモチーフであったり、切羽詰丸とつばきの感じはそのまんまマクベスと夫人だし、将軍はリチャード3世をちょっと思い出すし、ハムレット要素も感じられるし。モチーフ(?)と云えばあの、何とか城の七人がね!! とても良く知ってる感じのがね!! 泣くほど笑ったね!! とても雑な百人斬りを観られました…楽しかった…泣いた…夏にはステアラに下北が誕生していたけど、冬は下北にステアラが誕生していたよ…。

 社会に属するということは、少なからず何らかの「キャラ」を演じずにはいられないわけで。大名たちもその家族も、キャラを定められる前から自然に「武家の当主とはこうあるべき」「武家の娘たるものこうあるもの」「武家の妻なら」とその役割、キャラに疑問を持つことなく徹してきていて、それは現代の我々だってそう遠くないことを無意識に無自覚にやりながら生きているんだろうことはうすうす理解はしている…。そこに揺さぶりをかけ、ハチャメチャにぐらぐらさせつつ大元を浮き彫りにしていく中屋敷脚本の怖さに、爆笑しながらぞっとするのでした。客席に座っている時点で、「観客」というキャラを与えられているし演じているのだから。

*1:わたしの初柿は2012年の女体シェイクスピアからです

*2:「流血サーカス」のふしだらな女が最高に素敵だった!