ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「見えない / 見える ことについての考察」@東京藝術大学アーツ・アンド・サイエンス・ラボ 球形ホール(11/11/16:00/19:00)

 土曜日の①という回で観てきました。①、ではあったのだけど、初回を開場待ちしている間に、中から出てくる方がたくさんいたので、もしかしたらそもそも藝大の学生さん向けにゼミとかで企画されていたもので、それを一般向けに公開する回も設けて下さったのかな?なんて思いました。発表が突然だったのも、無料なのも、何となく…そういう感じなのかなって。だとしたら本当にありがたい、貴重な機会をありがとうございます…。

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 観たものを理解するまでにとても時間がかかる処理能力の遅さ鈍さを誇っているので、脳みそに到達するまでできる限り何度も観たい、方なのですが、今回は1セット2回のみと限定されているので…とてもとてもおぼつかない…。2回で1セットなことにも理由があるのだろうけれど、2回の内容がそれぞれ全く違うというわけでもなく、セットなことの理由も…さっきと違う、と思うことくらいしかできなくてなぁ。何となく、両目で見るイメージというか、錯視とか、何だろう…片方で見ると平面なものが両目で見ると立体に見えてくるとか、そういう印象は受けました。が、実際1セット見て、何が「立体に見えて」きたかというと…わからない…。何か立ち現れているのかなぁ。

 タイトルが「見えない / 見える ことについての考察」で、リーディングに用いられるテキストの具体的な内容も概要に先に書かれていて、前提としてその辺が頭にある上で観ると、どうしてもそっち側に思考が引っ張られるわけで、個人的には逆にそっちに引っ張られすぎてしまった印象があります。『見えない/見える』の対立項に脳みそが偏った状態で観ていたような。もっと色んなことがあったよな、『いる/いない』とか『見る/見られる』とか『聞こえる/聞こえない』とか、その対立とか逆転とか。もちろん、大きいのは視線、視覚にまつわるイメージなのだけど、「見える」ことと「存在する」ことの違いとか、「不在」を「見る」とか、「不在を見」ながら「存在を感知」するとか、「見える」ことと「見る」こととか、「いるけど見えない」ことと「いないけど見える」こととか。「見る」側が「見られる」とか*1。何となく、「見える/見えない」の対立項を命題に挙げるには、「見えない」側が弱かったような印象もある…大体見えるし…いやそういうことじゃないんだろうけど…。「見えているものは本当に見えているのか」という問いをもっと体感したかったな、とは思います。が、そういう体験的理解とかわかりやすさを目指しているものではないことは理解している…わたしの感性が追いつかないだけです…。

 リーディングに用いられたテキストは、細かく断片化され再構築され、パートごとの内容は聞き取れはするけれど全体像を捉えることはちょっと難しい。配布された資料に目を通していたのでぼんやりと、何を云っているかはわかる…くらい。断片化されシャッフルされて、さらに別のテキストを読む音声が重ねられていくので、これはもう聞きとって意味を理解する為のものではないのだろうと。断片が降り積もってぼんやりと、形が浮かび上がってくる…ような、くらいで良いのかなと思いました。断片しか聞こえてこないから断片しか覚えていないし覚えている断片もぼんやりだ…茫洋としている…ああ、闇じゃなくて白く消えていく視界ってこういう感じなのかな…。

 ことばが重なることによって意味が消失していくのは、光が強すぎて視界がホワイトアウトしていくのに少し似ているのかもしれない*2。なら、情報が多すぎて理解できなくなっていく、麻痺していくのもある種の失明なのかもしれないね。見えていても認識していなければ見えてないのと同じ、とか、色は所詮人間の脳が勝手に処理して認識させているものだから物体の本当の「色」はわからない、とか、ならば「認識」そのものがもう、実存に対してあやふやな回答しか出してないのでは、とか、そんなことを思います。今。ここに見えて「ある」と認識しているものは、脳がそう処理した結果を吐き出しているだけ。触って確かめても触覚の認識自体が脳の錯覚だったら? じゃあ存在するって何? 存在を確実にする証明って何だろう?? 全部脳みその気のせいだったらどうしよう。とか。連想ゲームが飛躍する。じゃあ、その脳みその気のせいの中で、何を「確か」と信じようか。

 2回公演で「観て」きたもののメモを畳んでおきます。ほんとにメモなので読みづらくてわかりにくい上に不正確だけど確認のしようもないから何となくこんな感じ…で。

 

初回(11/11 16:00)

 半球形?のスクリーンを背に、真ん中にピアノ椅子ひとつ、その右側に譜面台、の上にiPad。マイク。椅子の右隣に縦置きのスピーカー。手前の左右に撮影用の遮光アンブレラが付いたライトが2基、椅子に光を当てるように。椅子と相対する位置に三脚で固定した一眼レフデジカメが1台。客席は3~4人掛けベンチが6つくらい? 正面・左右と左右の壁際にも。客席はベンチと床に直座りと、40人くらい? 入場時に片耳にひっかけるタイプのイヤホンセットを渡されて、装着して入場。ホワイトノイズ。照明はLEDの白と3色がなんとなくチラチラしてる感じ。ゆっくりと微かに明るくなったり暗くなったりするような。

 上手の奥から登場、お団子頭に白いロンT、薄いグレーのちょっとデコラティブな立体模様のあるジョッパーズみたいな形のサルエルパンツ*3、ウエストを折り返していたから大きいのかな。裸足。椅子に座る前に三脚のカメラを覗いてピントを調節、椅子に座ってから譜面台の上にこれもあったカメラのリモコンシャッターを押してパシャリ。自撮りというかセルフポートレート撮影。iPadを手に取りスワイプしながら、マイクに向かってテキストを読み始める。生と死について、生が幸福だったから満足して死ねるとか。同じテキストを繰り返し読んでいたような気もする。そのうち肉声とは別にスピーカーからも未來さんの声でテキストを読む音声が流れ始める。読んでいるのとは別のテキスト、だけどどうしても耳が肉声に向くからスピーカー音声の内容はよけいに捉えられない。もうひとつ別のテキストを読む声が重なって、3重になる。さらに意味は入ってこない。不意に、文脈的にも唐突な場所で肉声もスピーカーも声がとぎれ、照明がちらちらっと明滅する。読み上げながら照明は赤くなったり暗くなったりストロボ状に光ったり、背景になっている半球体のスクリーンが白く光って座る姿を逆光で黒く塗りつぶしたり。耳に掛けたスピーカーからは車の走行音のようなノイズが聞こえたりとぎれたり、その時のスピーカー音声が確か車の話をしていたような。

 途中2回くらい、テキストを読むのをやめて立ち上がり、身体を動かす。最初は立ち上がって直立よりやや力を抜いたニュートラルから、照明が細かく震えるように明滅するのに合わせて痙攣するような動き。イヤホンからバッハのチェンバロ曲(プルートゥ初演のゲジヒトとヘレナが朝食のテーブルを囲むシーンで流れたやつだった)が流れて、そのテンポと同調して照明が微かに明滅していたけど、そのうち無音になって明滅もなくなって薄暗い中に未來さんの蠢く身体が浮かび上がっていた。途中でお団子をほどいて、肩下くらいの髪だった。イヤホンの音声は当然ながら未來さんには聞こえてないんだよなぁなんてぼんやり思いながら。

 踊るのをやめて、手首のゴムで髪をまとめて*4お団子にして、椅子に座ってまたテキストを読む。人々が白い闇に視力を奪われる世界、医者にその症状を訴える人々。感染はしないけれどパニックを防ぐために視力を失った人、彼らと接触した人をを隔離する、とか。スピーカーの音声が同じテキストを読む。完全に重なりはしない、同じ言葉を紡ぐ同じ声、照明が徐々に暗くなり。闇に半分溶ける未來さんの口元もおぼろげになり、読んでいるのが本人なのか音声なのか認識が滲んでいく感覚。

 フラッシュ状に激しく明滅したり、真っ赤になってから赤緑交互に明滅したり、けっこう激しくなる照明。が落ち着いてから、テキストを口にしながら立ち上がり、アンブレラ付きの照明を客席に向けて、三脚のカメラを覗き、下手方向から順に客席をストロボ撮影する未來さん。フラッシュが眩しくて目をつぶってしまう。弱いのはわかってる…。6~7枚かな? 撮影してから照明を戻し、カメラを正面に戻す。その前に立ち、動き出す。インターバルタイマー?で踊っている未來さんを等間隔で撮影するカメラ*5

 空の椅子が照らし出される中、上手の奥に消える未來さん。少しの間そのままで、やがてテキストを読む音声だけが流れ始める。死んだ人を埋めたいけどシャベルがない、シャベルありませんか?とか。軍隊の偉い人に失明の症状が現れたとか、それをどう収束させるか、とか。ベースの弦を強く弾くような、発砲音みたいな音がひとつ鳴って音声が止まる。何となく、失明した軍人は殺されたのか自殺したのかなのかなぁと思う。半球形のスクリーンの向こうに影が現れる。うごうごと蠢く塊の影。が多分前屈した背中だったんじゃないかな、と。真ん中にぴょこっと出っ張った凸はお団子だったんじゃないかなと。そのうち影がVESSELのヘッドレスみたいな腕を重ねたような形になり、手指が繊細に動いて、両手が球体を覆うように全て影に覆われて消える。

 影が消えてからまた上手から出てくる、下手側のスクリーン前の透明アクリル板の柵?に前から寄りかかるようにして、そこからずるずると体を持たせ掛けるような動き。スクリーンには滴が流れる濡れたガラス窓みたいな映像が。からじわりと椅子に近づいて椅子の背もたれに額を預け、座面に頭を滑らせ、床をつま先で探るようにしながら低く動く。何となく、視覚を遮断した時の動きだな、と。つま先で探りながら足先から客席側に向けて後退、座っているお客さんに足先が触れるまで、とか。テキストが、またスコップを探す話と、ひとりの女、話者の妻、に他の女たちがついていく場面と、奪略者にすべてを奪われる話と。食べ物を与える度に金を払うのは面倒だから先に金をすべて渡せ、食べ物を分け与えるに値するかどうかは俺たちが決める、とか云われる。そのうち女をよこせと云われて、16歳の少女が連れて行かれてレイプされるのを見ていてハサミで略奪者の喉をかっ斬ると獣のようなうめきが喉頸から溢れた、とか。覚えている断片だけ。

 最後、冒頭に読んだ生と死の話に戻る。「しかし、結末は我々にとって驚きであった」「物語は終わりを告げた」みたいな言葉がぽとりと落ちて、終わる。イメージ。

 

2回目(11/11 19:00)

 初回と要素は多分ほぼ同じ、構成がシャッフルされている印象。逆行かな?とも思ったけど逆でもなかった。2回目の方が体感時間で短く感じたのは2回目だから?

 初回で後半にあった(ような気がした)客席撮影がわりと早々にあったり、後半に語られていたようなパートが最初からだったり。裏に消えて影絵のようになるのも早かった。もにもにしたものは背中じゃなくて何だろう、服の中に手を入れて動かすような。スコップを探す話と、軍の偉い人が失明する話のテキストは同じだったけど、発砲音のようなものはなかった。出てきて今回は上手側で爪先で探る動き、視覚を遮断されているような。見えていないような。後ろに伸ばした爪先が照明の電源コード?に触れて、それを辿って照明スタンドの足に触れたり、またコードを辿って上手の壁際までいって、そこにあるスピーカー?に額を触れさせたり。そこから床を擦って下手側に移動したり。

 初回よりイヤホンから流れる音声が減ったような。あと、肉声を拾うマイクのスピーカーが下手端にあって、センターの椅子のすぐ脇にあるスピーカーからは違う音声が流れるから、暗くなってよく見えなくなると、どっちが肉声なのか認識がおぼろになってくる感覚が面白い。どうしても、身体に近い場所から聞こえる声が肉声、な気がしてしまうから。

 胎児のような格好で床に横向きに丸く寝転がって、ゆっくりと回転する。失明した男の子が、おしっこがしたい、と繰り返す。寝転がった状態での格好を保ったまま、ゆっくりと起きあがり体育座りみたいになる。とか。

 バッハのチェンバロ曲がイヤホンから流れて、それとシンクロしたように照明が明滅し、その中で未來さんがゆるやかに蠢く、のは後半にあった。でも略奪とレイプの話は最後の方なのは同じ…多分。あ、でも、もしあなたが涙を流しているなら、その涙はきっと白い、っていうのは2回とも最初の方に聞いたような…??

 最初に信号で車が立ち往生して覗きに行ったら運転手が何か叫んでいた、「目が見えない」

 横断歩道の黒白の縞をゼブラと呼ぶけど全くそれ(シマウマ)には似ていない、って一節がとても、そうだなぁって思った。

「あなたの顔にガラスを押しつけたのは誰」「物語はもういい、その先の事実を話してくれ」

 未來さんが客席を撮影する時?からスクリーン向こうに消えるまでくらい??スクリーンに目の光彩のアップみたいなのが映し出されて、その瞳孔が開いたり閉じたりして最後にその瞳の真ん中の黒が広がって飲み込まれる、みたいな。

 初回気づかなかったけど、チェンバロ曲がイヤホンから流れて未來さんがゆっくり踊る時のスクリーンは赤青緑の帯がプリズムみたいに太く流れていた。

 照明を客側に向けると、暗闇の中に未來さんが溶けていくように見えるといか見えなくなっていくのだけど、こちらから見えない時、向こう側からはとてもよく見えているのだろうな、とか、あと未來さんからカメラを向けられシャッターを切られるとか、いつもこちら側から見続けることが当たり前で、それが普通だったことがちょっと逆転すると、とても緊張するというか、落ち着かないというか、怖いなぁと思った。自分はやっぱりとても「見る」側にいたい、「見たい」人間だなぁというのを再確認したのでした…見たいけど見られたくない…あとほんとフラッシュ苦手で目ぎゅっとなってしまう…*6

 そもそも視力めちゃくちゃ悪くて、裸眼ならほぼホワイトアウトと変わらないくらいな上に、視覚から得る情報量がとても少なくいい加減な人間なので、まぁ普通に見えてても見ていないことだらけだし自分が見たものはあんまり信用してないしそれでも見たいんだなぁ。何を求めて、「見たい」と欲求するのだろうなぁわたしは。

*1:これ「in a silent way」でもすごい感じたから長谷川先生・福武財団絡みの未來さんパフォーマンスはそういう要素が盛り込まれるのかな、なんて

*2:ってことは、2回観る=重ねる、ことによってまた何か見えなくなっていくものもあるのかな…なんて

*3:これ何となく見覚えあるような…気がするのだけどわからない

*4:深く前屈して髪を全部下に落として一気にまとめる方法だった

*5:あの写真見たいですよとても

*6:その写真は見たくない