ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「in a silent way」8/28夕、8/29昼

 というわけで夢のような夏休みも終わってしまいましたが、まだ半分夢の中な感じもしています。頭と身体の中があの時でたぷんたぷんになったままで、多分日記を書くとひと段落するんだろうなと思うのだけど、ひと段落したくなくてたぷんたぷんのままでいたくてちょっと待ってみたりして(笑)。でも、大丈夫です、って云ってもらえたから、そっか、大丈夫だね、と素直に洗脳されて大丈夫になってるよ! それにしても、この作品観た人が一様に口を揃えて若干瞳孔の開きかけた目で「引っくり返ったから大丈夫…」とか呟いているのは、観ていない人からしたら相当…ねぇ(笑)。でも引っくり返ったから大丈夫なんだもの〜うふふ〜。
 28日の日曜日は、お昼の回は一回お休みしてちょこっと観光に当てて*1、夕方回のみの鑑賞。第一回開催から瀬戸芸に来ているわたしの瀬戸芸師匠(笑)と合流して、一緒に観ました。…っていっても始まるとそれぞれ勝手に動き回ってたんだけどね。この回も前売り完売で、つまりインタビューによると100人入ってるってことなのかな。そんなにいたのかーあんまり感じないような、でもやっぱり金曜日に比べると、人の層が厚いというか雲が濃い感じはするんだけど。土曜の夕方回に引き続き、昼回がどんなだったかはわかりませんが、やっぱりかなりぐいぐい切り込んでいっぱい動いて息切らしていました。目の前に汗の雫がぽたりと垂れたのがすごく鮮明に情景として残っている。ぐいぐい行くんだけど、何故かやたらみんながすっごく逃げる回でもあって(笑)、動きの流れで振り返るまますごく近くを鼻先掠めそうなほどに摺り寄せるようにしたり*2、片方の手のひらを顔面に突き出して語りかけるところも、対象にしようとした方がみんなほんとあからさまに避けていて、そんなに怖がらなくてもいいのに…じっとしていれば大丈夫なのに…とちょっと可哀想になってしまった(笑)。逃げられたらその奥、また逃げられてさらに奥、とどんどんすりすりしに行って壁際近くでやっと捕捉していた…なかなか難しいんだなーやっぱり。誰かひとり踏み止まれば、ああ、逃げなくても大丈夫なものなんだ、ってわかるんだろうけどなー。腕時計で時間を見るのも、最初おそらく目を付けていたであろう相手がまた力いっぱい逃げてしまった*3ので、その次…は腕時計じゃなくてミサンガか何かっぽくて、さらにその奥の男性の腕時計を拝借していました。やっぱり文字盤読みづらかったみたいで、「ちょうど………56分前*4のことです」ってちょっと間が開いてた。最近の腕時計ってけっこう文字盤も個性的なのが多いから、普通のじゃないのに当たると大変だよな〜なんて思ってたんだけど、考えてみれば開演時間が何時だったかも覚えてなくちゃいけないんだよな…そりゃ考えるわな…観る方だって今日が何時開演だったかわかんなくなるのに。ちなみに終演後、友人に「何で逃げちゃうの〜!?」と問い詰め…訊ねたら、「協力する場面だとわからなくてつい」だそうでした…まぁ初回でいきなりでしかもみんな逃げ回る回だとそうなっちゃうかもね…。代わりに捕捉された男性がとっても良い笑顔をされていたので結果オーライです。
 月曜日の最終回は、天気が危ぶまれたのだけど予想が午後になるにつれどんどん晴れマークになっていき、風も波も強かったけど空は青く晴れて、わたしが観た中では一番青空の回でした。強風で雲の流れも速く、天窓から突然明るい日が差したり、ふうっと暗くなったり、また陽だまりができたり、うつろいゆく自然の照明が不思議な緩急を生んだ回だった…もし雨だったらどんな感じだったのか、それもちょっと観てみたかったような、でもあの天窓からは光が降り注いでいて欲しいような。裏返った瞬間の、鏡面パネルに映し出された空の青さ、青空の一角を薄い刃のデザインナイフですっと切り出して貼り付けたような青の一片が、強烈に目に焼きついている。あの青さが最後に見られて本当に良かったです。あまりに青くてちょっと泣きたくなった。砂時計の底から上を見上げて、とがった天窓の先端の向こうから、砂の代わりに光の粒がさらさら流れ込んでくるような気がするの…本当に美しかったし、あの瞬間の多幸感は一体何なんだろう。洗脳か。
 始まる前は、これで最後か…なんてちょっと感傷的にならなくもなかったんだけど、始まってしまってからはそんなことすっかり忘れて、ただ目の前で起こる静かな、でも濃密な、ソフトだけれど強引な、優しいけれど有無を言わさない変革に、ただ巻き込まれるだけでした。あ、記録用のカメラが入っていたのも最後の回だったっけ。固定で3箇所くらい、あとスチールのカメラマンさんがひとり、ムービーがひとり、くらいだったかな。カメラマンも動いていろんなところから撮っていました。あれ公開はされないんだろうなぁ…でもこれこそ映像で観ても本質は全然伝わらないというか、映像見ても引っくり返るのかなぁ。あの場に「わざわざ」行って、あの場で体験しないと、成立しないトリックだよね…うん、映像化はいいです…だったらまた来年あそこでやってほしいや(笑)。というか1年に1回くらいコンスタントに受けたいセミナー(笑)。
 そうして、床に落ちていた陽だまりがスロープの張り出し辺りまで動いた頃、最後の革命は為されて、始まった時と同じように静かに終わりを迎えたのでした…終わるというよりは、フェイドアウトするような、ディミニエンドだけど途切れないまま細く低く今まで続いているような、そんな終わりの感覚なのだけど。最後のご挨拶までちゃんと、皆様の多様なニーズにフレキシブルに対応致します、ご予算のご相談もどうぞとぺこりして、風のように軽やかにスロープを駆け上り、てっぺんで深い深いお辞儀をして、鉄の扉の向こう側へ消えていきました。ありがとう、しか出てこない最後でした。ありがとう、と、大好き、だけしかない。
 この先、遠くに蝉の声を聴いたらきっと、世界の砂時計の底みたいな場所で、外の光を肌に感じながら目を閉じて聴いた蝉の声と、それがふっ…と途切れる瞬間を、そこで起こった夢のような奇跡と一緒に、思い出すことになるんだろう。実際の外ではもう蝉じゃなくて秋の虫の声がしていたけれど。そう思うと、来年の夏が少し楽しみになってくる。また行きたいな、また体験したいな。かなわないかもしれないけれど、たとえかなわなくても、でもいつでもあそこに戻れるしいつでもわたしはあそこに居られるから、そういうことが起きて、起き続けているから、うん、やっぱり、大丈夫。
 あとは、つらつらと目の裏に残っている情景をメモ。

  • 軽く曲げて張った肘から伸びた左腕の、指先から別の生き物が侵食していくような動きがすごく好きだった。指の先から手のひら、手首、肘、肩とだんだんその侵食が伝い広がって全身を揺るがしていく一連。
  • 島々とあなたは対の関係になっている手も好き。指先の繊細な動きが合わせ鏡のようになって、張った両肘が波のように上下する。そこを渡っていく人影が見えます。あなたです。
  • 上を見上げて、眩しげに顔をしかめ、ぎゅっと目をつぶったまま歩き出すのも。行く先々に道ができるから目を開けてなくてもぶつからないし、多分位置関係は把握してるから、何て云うか目を閉じていてもハラハラしない。でも、あの中で目を瞑って歩き出すの、どんな気分なんだろう。少し怖かったりするのかな。
  • もちろん、袋の中に手を差し入れる手は大好きです。天から差し伸べられる手。
  • 立てた左の人差し指を、左肩の当たりの高さからゆっくりと、マイクを持った右の腕の下を通して右わき腹の辺りに移動させる、ものの位置と有り様を、こういうふうに、するんです。も好きだし、前に進もうとして後ろに引っ張られるのも好きだし、人形みたいに動きがふいに止まるのも好きだし、高く上げた左足の先で足指が生き物みたいに蠢くのも好きだし、仰向けに寝そべってかかとを基点に膝の屈伸で床の上を頭や背中滑らせて前後するのも痛くないのかなーとか思いつつ好きだし、コンクリートの壁を掴むみたいににじり上がる裸足の足指も好きだし、床上に足を折り曲げて座る時に小さく鳴る股関節辺りのコキって音も好きだし、突然ばたりと倒れてから起き上がった時の乱れて顔を覆い隠す前髪と、その向こう側にある虚空を映したアーモンド型の瞳と、光るように白い白目も好きだし、ふっと力を抜く吐息と一緒に僅かに下がる肩も好きだし、豹みたいで蛇みたいな、鼻先で輪郭をなぞるように、呼吸は触れるけど肌は触れない位置をふぅ…っとすり抜けて行くのも好き…というかあれはちょっと固まってしまうけど。
  • 突き出された手のひらの向こうからじっと見つめる強い目も好きだし、視線は強いのに声はあくまで優しく柔らかいのも好きだし、第一声を発する前の微かに緊張したような呼吸を繰り返す静寂も好きだし、竜巻みたいに螺旋のスロープを駆け上っていく最後も好きだし、腕と足がこんがらがっちゃってるみたいなのは大変なことになってるし、マイクのコードを高く掲げながら引っぱってぶら下げたマイクの先に身をどんどん屈めていくのもすごいし、張りきったマイクのコードが落ちる瞬間の緊張とその緩和もすごいし、帽子が風で飛ばされないように押さえています、ってマイクを押さえるように覆うのも好きだし、手で覆われたマイク越しの少しこもった声も好きだし、裸足の足先がコンクリートの床の上を滑るさりさりした冷たい音も好きだし、腕時計はつけたままにしておいて下さい、って優しく語りかけるのも好きだし、そう云われた人がみんな「ハイ」って頷いてしまうのも好きだし*5、「100生きて死ね」の後ろで作品におでこくっつけるように俯いて静かに言葉を発しているのも好きだし、両腕を軽く広げて少しだけ回るのも、そんな動きだけで何らかのドラマチックさを孕んでしまうのも好きだし。
  • 床にまっすぐ伸びたマイクのコードを水尾に見立てて、それを見下ろしながらなぞるように後ろ向きにゆっくり歩いていくところとか、「ちょっとだけ」の発音がやけに可愛らしくて本当に「ちょっと」な感じがするのも好きだし。
  • 好き。

*1:でももんのすっごい駆け足になってしまった…それはまた後ほど

*2:「すんすんしに来る」やつ

*3:のが友人だったわけですが…

*4:だいたいそのくらいだったと

*5:あれは頷くしかないよね…