ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「ブラック メリーポピンズ」@世田谷パブリックシアター(7/6昼)

 モンさんイチオシの上山竜司さん御出演、韓国発心理サスペンスミュージカルをお誘い頂きまして観てきました。最初は心理サスペンススリラーでミュージカルしかも韓国ってどんななの??とまず疑問符が頭に浮かびましたが、「舞台は1930年代のドイツ」「心理学者の死と残された養子たち、その養育係」「失われた記憶」と何だか気になるワードがもりもり、しかもメインビジュアルがカッコイイ! 俄然興味が沸きまして是非ご一緒させて下さい!とほくほくとお誘いに乗っからせて頂きました。

1930年代、ドイツの著名な心理学者グラチェン・シュワルツ博士の豪邸で火事が起こり、博士の遺体もろとも、すべてが燃え尽きた。全身に火傷を負いながら、猛火の中から博士の4人の養子達、ハンス、ヘルマン、ヨナス、アンナを救い出した養育係メリー・シュミット。しかし、翌日メリーは失踪。子供たちは誰一人その悲惨な事件を憶えていない。
人々は当時発表された童話の名をつけて "ブラック メリー ポピンズ事件" と呼んだ。
それから 12年。
いつしか事件は忘れ去られ、それぞれ違う家庭で新しい人生を送っている4人に、グランチェン博士の手帳が届く。そこには事件の真相が…。
狂気の歴史の渦の中、傷ついた心が守り抜こうとした愛とは?
 (公式サイトより抜粋)

 何かもうすっごく面白そうじゃないですか。好みの匂いがするじゃないですか。1930年代のドイツといえばナチスが台頭してきた大戦直前じゃないですか。不穏な空気漂いまくりじゃないですか! 何となく、皆川博子作品の世界的なイメージを持ちながら観ていましたが、うん、あながち遠くはなかった。けっこうエグいというか、キツい展開でしたが、とても好みな方向の作品でした。
 とりあえずセットが。美しい。シンプルだけどすごく素敵で、照明の加減で場の空気ががらりと変わる。1幕2時間弱で転換もほとんどない作りの中で、過去と現在を行き来する演出も、演者の表情と共に空気や色の変化がきっちりあるので混乱もなく、作品世界にぐいぐいと引きずり込まれるのが気持ち良かったです。ミュージカルなので歌も多いけど、曲でどんどん進んでいく展開というよりは、要所要所に歌が挟まるストプレに近い雰囲気。歌モノでも皆さん歌詞が聞き取りやすく、歌になると何云ってんのかよくわかんない的な翻訳ミュージカルのもどかしさも感じなかったです。音は生バンドが、打楽器とピアノとギターかな。シンプルだけどとても聞きやすくて、最小限の楽器構成でこんなに広い世界観が表現できるものなんだなぁと。パントマイムやコンテンポラリーっぽい動きもすごく印象的で面白いなーと思っていたら、振付が小野寺修二さん*1なんですね。オープニングの不穏なメロディに合わせて、青い光の中で操り人形の糸が切れるような動きがすごく印象に残っています。あれで一気に入りこんだなー、あっこれ好きだ!ってなった(笑)。
 12年の時を隔てて、以前とは全く変わってしまった4人の子供たちの、変わり様がとても痛々しく、彼らの失われた記憶の中に一体何があるのか、4人と共に霧の深い森の奥を彷徨っているような、暗中模索五里霧中な中を手探りで進んでいくような、そんな2時間でした。見つかったものはとても重くて、おぞましくも哀しい秘密だったけれど、それを失ったまま霧の中をあてどなく迷うよりは、たとえ霧が晴れたその場所がまだ深い森の奥であったとしても、きっと進み出せる。そんな、ハッピーエンドとはまだ云えないかもしれないけれど希望の光が木々の間から少しだけ注ぐような終わり方も、良い塩梅でした。何もかもこれから始まる感じがね。そんなラストの演出がまた、息を呑む美しさで…っていうかリアルに息を呑んだ。こういうの、大好きー。 
 キャストの方々は、上山さんを「冒険者たち」で拝見したくらいで、あと一路真輝さんをぴったんこカンカンか何かでお見かけしたかな。その程度の浅ーい感じで全然存じ上げない不勉強っぷりだったのですが、音月桂さんの宝塚退団後初舞台とのことで。男役さんだったんですね! 聞かなかったらわからないくらいの見事なお嬢さんでした…が中盤のコミカルシーンではなるほど〜な見せ場(?)も(笑)。幼少期の4人の無邪気な愛らしさがほんと、この作品に深い陰影を付ける大きなポイントですね。4人それぞれのキャラクターと、12年前と現在のその変化が丁寧に描かれているから、失われた記憶に隠されたものの大きさが推し図れるし、それを失くしてそれぞれが、どんなふうに12年間を過ごしてきたのかも伝わってくる。特に上山さん演じるヘルマンと、音月さん演じるアンナの関係性が本当にいじらしくて愛しくて…だから余計に辛いのね…。一路さんのメリーはちょっと得体の知れない感じを受けるのだけれどそれが効果的で。搭乗時間はそれほど長くないのだけれど、出てきた瞬間に場を制する感じは流石でした。ハンス役の小西遼生さん、端正なマスクにすらりとした長身で顔小さくて何と云うバランス…! 責任感と正義感にあふれた素敵なお兄さんでした…弟妹たちを守らなきゃという思いは、過去も現在も変わってないのよね。良知真次さんのヨナスはとっても可愛らしくて、可愛らしかった彼がこんな風に…という痛ましさも凄くて。観ているだけで息苦しくなる神経症的動作も辛かったです…。ミュージカルなので歌う場面もたくさんあるのですが、これはもう万全というか。ミュージカルで歌唱的にハラハラすると、そっちに気を取られてお話から意識が逸れてしまうことがままあるのですが、今回はそういうのもなく、ひたすらぎゅーっと神経を作品に向けさせられっぱなしでした。張りつめてるからとても疲れるんだけど、見ごたえはぎっしりどっしり、です。
 とても2時間弱とは思えない密度の濃い作品で、その2時間中ほぼ抜き所がないので、観終わった後は正直口数も減ってしまう感じなのですが、でも2時間弱というコンパクトな中で、シンプルなセットで役者5人で、あそこまで魅せるというのが逆に、作品としての底力というか、完成度の高さというか、揺るがない芯みたいなものを感じさせられました。そう、2時間ないんですよ! それにびっくりするわ! でもあれ4時間あったらキッツいわ!
 内容的に重いので、好き嫌いは多少分かれるかもしれませんが、わたしは観られて本当に良かったです。セットほんと美しかった…衣装も素敵だったなぁアンナのワンピース可愛かったなぁ。当日3階立ち見が2000円〜あるようなので、あのラストの息を呑む美しさを是非体感してみて頂きたいです。時間的にも新感線1幕分くらいだから立ち見でも大丈夫だよ!
 観劇後は三茶のマメヒコでモンさんとお茶…牛乳コーヒーお供にいろんなお話を。長く応援しているといろんなことが起こる界隈(笑)ではありますが、でも上山さんなら大丈夫じゃないかなぁ! 心配で落ち着かない気持ちもすっごく! とおっても! しみっじみ!!わかるのですが、でもお話を聞けば聞くほど、えっそれは大丈夫…じゃないですか?と、門外漢は思ってしまうのですが! でも、それでも心配なのがおたくってものですよね…それもとってもわかります…。


 素敵なお芝居と楽しいひとときと美味しい円パンでした。モンさんありがとうございました!

*1:先日「赤鬼」で拝見しました