ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「南部高速道路」@シアタートラム(6/15夜)

 ラテンアメリカの作家フリオ・コルタサルの短篇小説を原作に、長塚圭史が俳優たちとエチュードを重ねて作り上げた作品。という前知識のみで観に行ってきました。面白かった!
若干の睡眠不足コンディションで行ったので、アンチクロックワイズド的観念世界だとちょっとキビシイかも…*1と心配でしたが、全くもって問題なく、最後までどうなるのコレ、どうなっちゃうのコレ、と気持ち前のめりで楽しみました。また予想外の展開というか…そういう話だって知らなかったから余計に、え!? ええ!? えええ!?!?って…(笑)。
 東西南北の四方にひな壇状に座席を組んで、舞台は正方形の床面でセットはなし。黒い床のみという非常にシンプルでフレキシブルな舞台上に、それぞれの荷物を抱えて傘を携えた演者が、縦横無尽に、やがて整列して並ぶ。そんな始まりでした。この傘の使い方がね! 面白かった! しばらく考えてしまったけど*2、あっそうか!ってなると、なってからがすごく、それぞれのキャラクターも傘に現れて見えるし、何より傘が「そのもの」にちゃんと見えてくるのが不思議で、なるほど〜と。これもエチュードで生まれた演出なのかな、そんな感じがすごくするな。
 ストーリーは、週末の都心に戻る高速道路で渋滞が起き、車が全然進まないまま時間が過ぎていく。水や食糧の不安、いつ解消されるかわからない渋滞、その中で形成される人間関係、…という感じ。原作の短編小説はいわゆる不条理作品とのことですが、それを知らなかったので、展開の意外さにびっくりしつつどんどん引き込まれていく感じが面白くて、どうなっちゃうの!?とワクワクもしてしまった(笑)。確かに、展開としては不条理系なんだけど、でも不条理モノの「わけわからなくて怖い」というイメージとはあまり重ならなくて、もっと何というか…日常系ファンタジーみたいな感覚で観ていました。日常系というか、日常が地続きでファンタジーになっていくような…。状況としてはあり得ないので、力いっぱい不条理なんだけどね。ある意味ぞっとはするけど、どこか優しいというか…不思議な印象です。すごく、優しい不条理。
 黒い床のアスファルトに、子供と梶原善さんが描く絵が凄く美しくて、終演後もずっと残るそれが何だか愛しい気分で目に映りました。ラストはちょっとせつなくてじんわりしてしまった。
 ポストトークでも話題になっていたけれど、誰もそれを思わずにはいられないだろう類似、でもそれそのものを描いたようにはやはり感じられなくて…状況が似てはいるけれど、帰る場所の有無や抱えた思いの重さ、大きさ、そういうものは全然違うよな…と。重ねて観られる部分はある、くらいに受け止めていたので、逆にそのもの、と思う人もいる、というのにびっくりしました。でも、考えずにはいられないよなぁ。そして、やっぱりポストトークでもケラさんが仰ってたけど、「不条理小説」で描かれた情景が、現在の日本では現実として成立してしまっている、それこそが不条理な状況、という…本当に、凄い世界を生きているのな…と改めて、そっちに身体の芯が冷える気持ちになりました。不条理が不条理として成立しなくなっている現実って! 事実は小説より何とか云うけど、そういうレベルじゃないよね…(笑)。
 役者さんはみんな素敵でした。こいつちょっと…って最初思っても、進むにつれて愛すべき人に変わっていくのが流石というか。真木よう子ちゃん可愛かったー顔ちっちゃかったー江口のりこさんもステキだった! 安藤聖さんも最初ちょっと、え?って感じだったのが…途中からすごく素敵になっていって…あと梅沢昌代さんの安定のお母さんっぷりは大好きです。謎めいたバスの運転手の赤堀雅秋さん、どうにも胡散臭かった(笑)んだけど、ラスト泣かされました。クリスマスパーティも良かったなぁ…あのプレゼント交換、やってみたい。すごく素敵。
 ポストトークは、そう、ケラさんがゲストという豪華さで、すごく楽しかったです。不条理の話とか、いかにも*3エチュードで作り上げました!な作品だとか…出演されている方の出自も、「文学座から猫ホテまで」*4 *5さまざまで、でも全員がそれぞれの荷物はそれぞれが持って動くようなところが素敵、とか(笑)、その流れでチラシの番手の話題になったり(笑)。今回の「南部高速道路」はクレジット順が全て五十音順に並んでいて、それってすごいことだよね! 俺もそうしたい!!とケラさん(笑)。ナイロンは番手なんて誰も気にしないし関係ないけど、プロデュースだとそうもいかなくて、でも五十音とかにしたいなーととても仰っていました(笑)。大人の事情でなかなかそうもいかないんですよね…でも、ケラさんが五十音順に出来なかった時は、戦った末でできなかったんだと理解してほしい、とのことでした(笑)。今後のケラ演出舞台のクレ順に注目だ!
 あと印象的だったのは、演者がそれぞれ、自分の役の背景などを書くノートを作っていて、それはカップルや夫婦間では共有してるけど他同士は見せていなくて、だから本人*6しか知らない、役の背景がそれぞれあって、でもお互いは劇中で語られる部分のみしか知らなくて、知らないままずっとやってる、という話。すごく、個が徐々に集合体になっていく過程が興味深く描かれた作品なので、でも集合体はあくまで個の集合であって、また個に帰結していく、という感じが、ドライだけどリアルで、だから余計せつないなぁと思うのだけど、お互い全部は知らない感じ、近くなっても別々な距離感、みたいなのがすごくリアルだったのはそういうこともあるのかな。ドライだけど、でも個それぞれが少しずつ歩み寄って、寄り添っていくのは、すごく優しいと思うのでした。だから優しい物語だった。この「優しい」感じが不条理<ファンタジック、な手触りなのかな。
 原作のフリオ・コルタサルラテンアメリカの人だけど、物語の舞台はフランスと聞いて、ああなるほどー!と思いました。夏のバカンス終わりの、郊外からパリに戻る大渋滞は「ル・グラン・ルトゥール」と名前がつくほどの名物(?)なので…なるほどなるほど。でも渋滞はイヤよねぇ(笑)。

*1:好きなんだけど!

*2:何故か勝手に、高速バスの中?というイメージを持っていたので…座席かな?とか/笑

*3:「良くも悪くも」ってケラさんは云ってたけど

*4:実際猫ホテの役者さんはいらっしゃいませんが

*5:元猫ホテの方は菅原さんが…

*6:長塚さん?