ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「十一ぴきのネコ」@紀伊國屋サザンシアター(1/28昼)

 ゆっきが猫で井上ひさし脚本の絵本原作ミュージカルを長塚圭史演出、ってこれだけでもう何か、どうなってんの〜!?と期待高まりまくりのおっさんにゃんこミュージカル、観てきました。出演者の平均年齢がだいぶ高めなので、公演期間の終わりの方にチケットを取ったのが、ちょっとだけ心配になったりして…いろいろあったから…無事に公演日を迎えられて本当に良かったです。残り少ないですが千秋楽まで完走して下さい!
 事前に小耳に挟んだところ、「楽しいミュージカル」「だけど長塚さん」とのことで、「だけど長塚」の部分で相当身構えて、わかった長塚さんだもんね!という気合いと期待を込めて挑みましたが、結論から先に云うと、うん。長塚だった。身構えてたけど、うん。長塚だ。って静かになってしまった…(笑)。わたしはね、嫌いじゃないです。良かったです。大人はね(笑)。
 少し早めに入った方がいいと聞いたので、だいぶ早めに席についていたら、開演ちょっと前頃に、アヤシイ人影?が通路に差した…と思ったら、そこに猫ですよ(笑)。通路にわりと近い席で、しかも通路際のお客さんがまだ来ていなかったので、ねこ来たねこ!と沸き立った(笑)。階段で躓いたお客さんをエスコートしたり、開いてる客席に座ったり、自由なねこたちです。わたしの近くには、最前列の空いてる席に「ちょっと失礼しますね」とか云いながら粟根にゃん四郎が、後ろ向きに背もたれに向かって膝を揃えて座ったり(なので顔が正対する)、わたしの後ろに男の子がいて、待ち時間にDSでゲームをやっていたらしいんだけど、田鍋にゃん十が身を乗り出すようにして画面を覗き込んでて、男の子はゲームに夢中で全然気づいてなくてお母さんが「ほらねこ! ねこ!」って顔をむりやりそっちに向かせて、わわってびっくりしてたり、にゃん十はDSやるフリしながら「マリオだ」とか云ってたり*1、お友達の隣の席に中村にゃん次さんが座って、「あのー、ちょっと背中を掻いてはもらえませんか」と背中を掻かされたり、「もうちょっと右、もうちょっと右、あっそこそこ!」とかなってたり、子供さんの前に座り込んでじーっと見つめてたり、そのままそこにごろーんと寝そべったり、そしたらそこに寝そべるねこ続出したり、何かもう…ねこでした(笑)。耳付けてるわけでもなく、ヒゲは描いてるけどそんなにあからさまな「ねこ!」な扮装でもないし、最初は「ねこ…なの?」くらいの感覚だったのが、観てるうちにねこ以外にしか見えなくなってくるのは、四季の「キャッツ」思い出したり(笑)。お客さんもリピーターなんでしょうね、わかってて、煮干し差し出してねこ釣ってたりね(笑)。ちゃんと釣れるしね(笑)。
 そして客電が落ち、暗闇に響き渡るねこたちの鳴き声、から始まるミュージカル。音楽はほぼピアノ1台、あとはパーカッション的なものが少し。所謂ミュージカル俳優さんがいるわ

けでもないキャストで、特にゆきやさんの歌なんて「トゥーランドット」オープニングかグレコ/マクダフか…あ、「道元の冒険」でもちょっと歌ったっけ。とにかく、井上ひさし作品ではちょこちょこ歌うけど、所謂「ミュージカル」のイメージはない方ばかりの出演で*2、どんなミュージカルになるのかしらと思ったら、冒頭からとっても、ミュージカルでした。王道子供向け的な…でもお腹が空き過ぎて風に負けてしまう北村にゃん太郎さんは果てしなくキュートでお子様方のハートもがっちり掴んでおられましたよ! あ、休日マチネはさすがに客席に子供さんが多かったです。これ観て、お芝居って面白い!って思ってくれたらおばちゃん嬉しいなぁ。…どうかなぁ(笑)*3
 かなり歌の割合が多くて、本当にミュージカルでした。メロディも歌詞のリズムも軽快で覚えやすくて、にゃん太郎と10ぴきの仲間たちもそれぞれキャラクターが立っていて、最初そんなに覚えらんないわよと思ってたけど、ちゃんと見分けつきました。オッサンねこたちだけど、にゃごにゃご云ってて可愛かった(笑)。
 にゃん太郎と10ぴきののらねこたちが出会い、北の湖に住むという大きな魚を目指して旅に出る1幕、旅を続け、艱難辛苦の果てについに魚を仕留め、そして…の2幕、「長塚さんだし!」と相当覚悟して挑んだわたくしですが、がっつりやられたわ…無口になってしまうわ…。幕間のロビーで、「はらはぺこぺこ、しーっぽぴこぴこ、じゅういっぴきのーねこーがたーびーにーでーたー♪」と歌っていた男の子、どんな感想を持ったのか…トラウマにならなきゃいいけど…老婆心が心配してしまうよ。かなりビターな、でも長塚さんならこうでなくちゃねー、な、終幕でした…。
 貧しくても夢があり、ひもじくても仲間がいて、希望に満ち溢れていた時代と、求めていたものを全て手に入れ、それを当たり前に感じ飽いて、手に入れたものを守る為に仲間を裏切る時代。井上ひさし作品は何と云うか、「現代社会への警鐘」なメッセージが色濃くて、決してそれが嫌味っぽくはないし、作品として自然に受け取れるんだけど、それが正論で真実だからこそちょっとだけ、へそ曲げたくなるんですよね。自分が、それでいいのか?って問われてる側なのでね。わかってるよーわかってるけどさー、ってなってしまうのです…でも説教くさいわけでは決してなくて、尊敬しているおじいちゃんに云われてるみたいな感じで…そうだよねぇ、ともちゃんと思える。それはやっぱり、憂いたり歯がゆく思ったり怒ったり、の根底に、深い愛情があるからだと、そんなことを改めて思うのであります。
 で、今回それを料理した長塚さんは、井上さんとはまた違ったベクトルの愛情をもって対峙しているような印象を受けたのね。それまでの正統ミュージカル調をひっくり返して、容赦ない幕引き、どぎついとか悪趣味とか云われかねないけど、でもあのショッキングさを叩きつけて突き落として、突き落としてなお、哀しみと一緒に愛情が感じられるような。山内にゃん十一の存在も大きかったかと思うけど、どうなんだろう。長塚さんの舞台はどん底結末でも何かしらの仄かな救いの芽が見える、その刷り込み効果かもしれませんが(笑)。「子供とその付添いのためのミュージカル」と銘打ってある作品なので、長塚テイストは「付添い」向きなのだろうなと思っていたけど、案外子供のためでもあったのかも、と急転直下な展開に静まり返って張りつめた客席の空気を感じながら思いました…ほんと、子供が何を感じたか知りたいわ…。でも自分が子供の頃に観たら、トラウマレベルかもしれないわ(笑)。
 北村にゃん太郎さんは小粋なスーツに素敵な靴、腰からネクタイぶら下げて蝶ネクタイをちょうちょにしないで結んで、中折れ帽子の素敵なねこさんでした。個人的にゆきやさんはわんこイメージが強いのだけど(笑)、今回はねこさんだったわ。キュートな笑顔とぐねぐねと汁だくっぷりは相変わらずでした。びっくりしたのはおもちゃのピアノを弾くところ…すげぇ! ピアノ弾けるんだ!って、あの、それこそ猫踏んじゃったしか弾けない身からはとっても、すげえええ!と思ったのですよ。弾ける方から観たらどうだか知りませんが(笑)。脚本中に「自分で腹切って死んだ有名作家」とか「ベトナム戦争」とかいうタームが挟まれているのも、時代背景を物語っていてちょっと面白かった。その時代ですら、こんな警鐘鳴らしてたんだもの、今はどうなのかしらね…?
 後で知ったのだけど、今回使った戯曲は「初演版」で、のちに井上さんは大幅改稿し結末を変更したものを「決定版」としたそうで。その「決定版」は今回の「初演版」とはまったく逆な結末らしいのですが、長塚さんが今回敢えて「初演版」を選んだのも、「決定版」の結末を聞くと、らしいなぁというか、こっちだよねーと納得してしまうのでした…。

*1:その後男の子はにゃん十にロックオンされてカテコでもガン見されていたらしい

*2:わたしが知らないだけという可能性はすごくありますが。だったら失礼致しました!

*3:長塚要素的に