ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「ドラクル」@シアターコクーン

 格安でチケットが手に入ったので、観に行きました。ら、千秋楽だったようです。あらまぁ。
 ふらふらと劇評などを読むに、あまり高い評価が得られていないようですが、個人的には大変楽しめました。…っていうにはちょっと口憚るようなグロ/スプラッタ描写ですが(笑)。でも正直、長塚作品にはどうしてもその辺のショッキングさを求めてしまうので、そういう場面になると、よっしゃーキタキタキタ!と…そう来なくっちゃー!と…ええ、嫌いじゃないのです。血糊たくさん使うのとか。リアルに臓物作り込んでるようなのとか。半分トリュフとか。いや、凄かったですが。新感線の血糊なんて綺麗なモンよね的な。その悪趣味さを、おそらくは悪趣味だと眉をひそめられていることをわかった上で、敢えてやっているであろう感じ、が好きです。視覚的なショッキングさのみを追い云々と云われてそうなのをわかった上でやっている感じ。や、そこはやっておきましょうよ、是非。思う存分。ねぇ。
 かつて、子供を大量に殺しその血を啜った罪により火刑に処され、闇から蘇った怪物レイと、彼に寄り添う病床の妻リリス。森の奥で神に祈り赦しを請いながら静かに暮らす二人の元に、リリスの前夫アダムから使者が来る。故郷では黒死病が蔓延し、このままでは領地が滅びてしまう、それを救うのがリリスであるという司教の言葉に従い、アダムはリリスを無理矢理連れ戻す。リリスを奪われたレイは、怒りのあまりそれまでの禁欲をやぶり、リリスと出会う前までのヴァンパイアの姿へ戻り殺戮をくり返す。リリスを取り戻しに行くレイ、しかしその先で、リリスは自分がかつて犯した罪を告白する。司教の手によって捕獲されたレイは、日の出が迫る中、檻に閉じ込められ天窓の下へ置かれる。レイへ手を差し伸べたのはレイを救うためではなく、自分が罪から救われたかったから、と最後に懺悔するリリス。そんなリリスをレイは「赦す」と云い、手を握ってほしいと請う。そして天窓から朝日が降り注ぐ…的なストーリーでした。大変端折ってますが。聖女のように扱われるけどその実子殺しの罪人でもある女性がリリス、前夫がアダム、アダムの後妻がエヴァ、このネーミングにどんな意味を持たせたかったのか、量り切れませんが。象徴的とか関係性で、と云うには色々、付加イメージが大きすぎるような。何かその辺つつくと面倒くさそうだから触らない方がいいですね(笑)。
 2幕の舞台で、1幕はレイの居城でリリスが掠われてレイがそれまでの自分を捨てヴァンパイアに戻るところまで、2幕はアダムの城に場所を移します。この1幕の、森の中のレイの城セットが…たまらなく美しかったです…何かもう、舞台上にホーンテッドマンションがある、みたいな。ステージ全体をセリ下げたような、舞台際に通路状にのみステージを残して後は数メートル下がった奈落状態の、不思議な舞台。その奈落の中に、リリスの寝室や小さな居間が、浮島のように回りながら現れるのです…言葉で説明できない…。舞台そのものがアトラクションみたいに動くの。巨大な盆の上で回っているのでしょうか。で、ある時はリリスの寝室がセンターに現れ、それが脇にずれて居間がセンターに来たり、全部隠れてただ舞台奥から手前に延びる1本の道が現れたり。半分崩れたような造形の壁とか、黒アイアン的なベッドとか手すりとか、何かもうすんごい可愛くて…それだけでうっとりでした…。とにかく舞台美術が美しかったです。すごい、もっとちゃんと観たかった。
 あと、音楽が、下手側客席脇くらいに弦楽四重奏のピットがあって、生演奏で素晴らしかったです。不吉な、地を這うような無調音階の不協和音が重々しく響いてたまらなかったー。なのに、ラストは美しい音楽を奏でていて…滅することによってレイは救われた、浄化された、のかな?とも思える雰囲気でした。
 お話としては、何つーか、耽美ゴシックホラーファンタジー? 「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」的なB級感というか、エセゴシックというか、そういう雰囲気でした。いやB級って貶しているわけではないんですむしろ好きなんです。擬古典調というか。だから、あんまり宗教とか、キリスト教的な神とか、は考えなくていいんじゃいかなー。ファンタジーですから。一応、舞台は革命前のフランスになっているようですが、史実がどうとか歴史的背景がどうとかこだわらないで、漠然と、アッチの方のファンタジー、でいいと思います。どっかの劇評で、リリスが犠牲として捕らえられる理由が弱い、みたいなのを読んだのですが、いやだってリリスだし、でいいんじゃないかなー。もう名前からしてリリスだもんなぁ。あ、トプステかルクアトで「エヴァンゲリヲンぽい」みたいなこともあったけど、いやそれは出典だけじゃないですかねかぶってるの(笑)。
 主演の海老蔵さんは、懊悩し弱っている1幕は、なーんか身体も*1大きくて健康的というか、典型的な美丈夫で、罪の意識に苛まれつつ血に対する飢えと戦いやつれているらしいレイさんにしては、…いやぁ大きいなぁ、という感じがしてしまいました。個人的な趣味ではもっとこう、不健康丸出しの、青白ーい額に血管浮いてるような、尖った体型の方が…好きなんだけどな。白いフリルブラウスももっと不健康に着こなせると思うんだけどな。しかし、完全に悪い方に吹っ切った2幕のレイさんは格好良かったですよ、美声が艶やかでマント捌きも美しく。悪の華でしたよ。あと10キロくらい落としたらもっと良かったろうに…ってどんだけガリ好きなんだ(笑)。でもヴァンパイアだもんー「インタビュー〜」のトム・クルーズぐらいお耽美で観たかったわ! 海老さまむしろブラピ寄りだった…。
 ヒロイン宮沢りえさんは、もう、細くて、白くて、可憐で、でも気丈で、可愛かった…! 声も少女っぽくて、でもちゃんと聞こえて。2幕のエヴァに対する独白は、鬼気迫るというか痛々しいというか。強く振る舞ってるけど弱くて、でも実はきっと強い女性、可憐な容姿の裡にわりと強かな魂を秘めた、そんなリリスでした。ラストの、レイの消えた檻の傍に佇む白い姿が、絵の様に美しかった…。
 エヴァ役の永作さんは、さすがでした。リリスが聖性の象徴*2なら、エヴァは俗性の象徴でしょう、名前からして。赤いドレスを身に纏い、男を手玉に取り、でも夫の愛は得られず…強気で憎まれ役のエヴァが、弱みを見せるシーンは、本当に…一気にエヴァに心情傾きましたよ…。実は彼女は何も悪くないのにね。
 アダム役の勝村さんは、全方位的に情けなく役に立たない領主様でした…(笑)。司教に操られ、妻には尻に敷かれ、部下にはただ威張るしかなく、領地は黒死病が蔓延して、踏んだり蹴ったりですな。まぁ悲劇の発端を担ってしまったので仕方ないか。そんな情けない領主さんを情けなく好演されてました。
 極悪司教、手塚さん。もうすんげーすんげームカツクわ!! そんだけ素晴らしかったってことなんですが、ムカツク役だし! むかつかせてナンボの役だし!! 声の緩急の付け方とか、すごい面白かったです。いきなりびっくりするような笑い声出したり。こいつが悲劇の元凶だ! しかしここまで徹底して悪役だといっそすがすがしいですな。
 市川しんぺーさんもいらっしゃったのですが、珍しく(…)コミカルな役ではなかったので、しばらく「…あれ…しんぺーさん…かなぁ…?」状態でした。何というか、非常に男性的というか、暴力的というか、でも妙に冷静だったりして、な鞭使いの従者でした。けっこう非道でしかも強いのね。でアダムに対する忠誠心はちゃんとあるのね。不思議な人だった…。レイにもの凄い殺され方をしていました。アレはびっくりした…天井から降ってきた…。
 中山祐一朗さんは、出てきた瞬間に中山さんでした(笑)。今回ほとんど笑いのない舞台でしtが、中山さんはちゃんと笑いを持っていくのねー。しんぺーさんの部下の従者で、色々あった末に一瞬ヴァンパイアになってしまうのでした。そして首が飛んできたのでした…。
 語り部であり、レイを観察する一族の血を継ぐブランシェ役、山崎一さん。とても安心な方でした…。ただ、見続けることしかできないけど、全てをきちんと見届ける人間。レイも、ブランシェに対しては少し特別な想いがあったように見えました。対等に近い位置で渡り合っているというか。夜の荒野でプットとラームを惨殺してから、それを見ていたブランシェにレイが「来いブランシェ、楽園の扉を開けるぞ!」と云うシーンがすごく好きです。呼ばれて着いていくブランシェも。
 出番は1幕しかなかったけど、レイのヴァンパイア時代の仲間であるマリー(明星真由美さん)とジョン・ジョージ(山本享さん)が、実は一番好きでした(笑)。すんごいトリッキーな動きで、突然居間に現れたり、手すりを乗り越えて消えたり、窓から消えたり、窓から現れたり、でセリフは全て皮肉っぽくて、悩みながら神に祈るレイをバカにしたり、昔みたいに遊ぼうと誘ったり、リリスを殺してその血を啜れとそそのかしたり。かつてレイによってヴァンパイアにされたマリーは、実はレイのことが好きだったり、でもリリスの窮地を救ってあげちゃったり、何か…憎めないというか、憎たらしいけどそれ以上に魅力的というか。ゴスな衣装もステキでした。ジョンはもっと悪いというか、無心に悪いというか、余計なものが一切なく無邪気に悪いといういか、でそれがまた魅力的でした〜。たまらないー! 1幕でふたりとも死んじゃうのが勿体ないキャラクターでした。大好き(笑)。この3人がつるんでたヴァンパイア時代の悪行の数々を、別のお話で知りたいと思うほど。それこそインタビュー〜だな!
 ヴァンパイアとか、フランスとか、ジル・ド・レイとかジャンヌ・ダルクとか、宗教的であったり歴史的であったりファンタジックであったり、なものたちを背景にしながら、描かれているのは結局、「赦す」のは神ではなく人、相手、という芝居だったのではないかと。リリスは神に赦しを請いながら結局はレイに懺悔するし、レイに赦されて彼女は赦しを得ることができた。レイは最期の瞬間にリリスに手を差し伸べ、リリスに手を握られて朝日の中に消えたけど、それは彼に対して為し得る唯一の「赦し」の形だったのではないか。で、あんなに一生懸命二人が祈っていた「神」は、司教によって引きずり下ろされ俗にまみれた存在に成り下がっていて。神は誰一人として救っても赦してもくれませんでした。というオチ(って云うか)は、極めて日本人的なのではないかと思ったのでありました。根底にキリスト教的思想がないからね。私ももちろんありませんので、最後の最後に宗教的恍惚に包まれてしまったり、レイが改心しまくったり、しなくて良かった、と思うのです。
 眠くて何云ってるのかわからなくなりました。

*1:お顔も

*2:後に崩れるけど