ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「絢爛とか爛漫とか」モダンガール版@赤坂RED/THEATER

 7畳半の畳敷き和室、板の間が両端にある、部屋の隅にランプの乗った書き物机と座布団。板の間に本棚、蓄音機と丸椅子。部屋の向こう(舞台奥)は廊下と縁側、ガラス戸の外は板塀に遮られた小さな庭。庭には鶏*1が何かをつつき。柔らかく傾いた日差しの中、時折白い花びらがひらひら降る。
 そんな舞台で始まった、そして最後まで舞台はその小さな和室と廊下と鶏のいる庭だけの、小さくてキラキラしてて胸苦しくて愛しい、お芝居でした。
 大正モダンの世、女流作家の卵な4人が過ごしたある春夏秋冬を、小さな離れの部屋とその窓外の景色、窓にかかる簾や風鈴、部屋に置かれた火鉢やラムネの瓶、一輪挿しに生けられた花、そんなものたちで何気なく流れる季節を表したお芝居でした。
 小説家(と評論家)を志し、悩んだり迷ったりもがいたり苦しんだり、ケンカしたり笑ったり泣いたり怒ったり、妬んだり憧れたり拗ねたり落ち込んだり、恋したり振られたり惚れたり別れたり、する4人が、みんな愛しくてたまらない。失敗が怖くて処女作以降ひとつも、1文字も書けない、それでも小説に拘りしがみつく文香。恋に恋するファザコン娘で耽美猟奇ホラー作家のすえ。遊ぶ相手は数知れず、男爵家の跡取り息子で遊び人のモダンボーイが彼氏の、評論家を目指すモガまや子。朝は市場で労働して、その後に書く小説は荒唐無稽で破天荒、だけど才能溢れる薫。文香の部屋に集まる4人がそれぞれに抱える想いや悩み、苦しみ、葛藤を、時にぶつけ合い、時に支え合い、受け止めて投げ返して反発して認め合う、ヒリヒリして切なくて、でもたまらなく眩しくて愛おしい、ささやかで大いなる四季ひと巡りを、蓄音機から流れる軽やかでノスタルジックなジャズに乗せて、見せて下さいました。文筆家になる、という共通の夢で結ばれた少女…というほどの年じゃないけど、でもそのひたむきで純粋で、だからこそ時にナイフみたいに互いを傷
つけてしまう、その様はやっぱり「少女たち」と呼びたい。自分の才能を疑い、自信と不安、友情と羨望の間で揺れながら、隣の少女の才能を羨み、憧れて憎み、それでもやっぱり認めている。そこにあるのは「小説」というひとつの巨大な山に挑み、時にその大きさに怯え、足をすくませながら、それぞれに自分の足で頂を目指す、痛いほどに純粋で、滑稽なほど不様な、つたない一歩一歩。その姿が愛しくて、もどかしくて、どこか羨ましくもあり、笑いながら気づくとじんわり泣けてくる。本当に、愛おしい小品でした。
 云ってしまえば私、男子たちや女子たちが、ひとつの目標の元にキャッキャしたりケンカしたり葛藤したりすれ違ったり仲直りしたり、そういうのが好きなんです。ええ。だからWBもSGもダンドリ!も好きなんです。
 いつも鼻水垂らしたり十円ハゲ作ったりおてもやんだったり超臭かったり、な姿ばかり見ていた中谷さとみちゃん(すえ)が、綺麗な黒髪おかっぱにレトロモダンなイイ色味の振り袖姿で、たまらなく可愛らしかったです。もう…色んなツボを一気に圧された…おかっぱかわゆいなぁ、さとみちゃん似合うなぁ! 頭の形がすごく良くて羨ましいです…あんな後頭部だったら私もやりたいよおかっぱ…。ちょっと内気で、でもエキセントリックな、可愛らしいのに書くのは血と猟奇と耽美の、すえちゃんでした。場面ごとに変わる衣装も全部素敵だった〜。CRBのハーマイで、うわっさとみちゃん可愛い!と思ったのは気のせいじゃなかった…あわあわするくらい可愛かったなぁ。
 以前、同じくRED/THEATERで観た「ファブリカ」にも出演されていた野口かおるさん(薫)は、今回も流石のキャラクターと存在感で素晴らしかった! ピリピリしたシーンでは笑いの種を撒いて、でも見せるところは抜群の存在感と説得力できちんと見せる。有り余る才能に無頓着な薫の、決して嫌みに聞こえないサバサバした物言いが素敵でした。お団子ヘアと秋のワンピース姿が可愛かった〜、あとピンクのドレス!
 4人の中で最もモダンかつ姉御肌のまや子を演じた琵琶弓子さん。かっこいいです。気が強くて面倒見良さそうで、プレイガール、と思いきや実は…のシーンは最高だった(笑)。春のモガなワンピースも、夏のアンティークドールみたいな白いワンピースも、可愛かった〜。ほんとこの芝居、女子的には衣装がいちいち全部可愛くて…そこもたまらないポイントだった(笑)。さとみちゃんの紫の振り袖とか、避暑地でテニス!時の袴姿とか、秋の赤い羽二重とかほんと…眼福。いいな〜あんな着物なら着てみたいな〜。
 実質主人公の文香を演じた沢樹くるみさん。とりあえず美人、美少女! 気位の高さ故に悩み苦しみ、生真面目さが滑稽になってしまう、小説を愛するあまりに立ち竦んでしまう文香を、凛とした美しさで際立たせるから、時折覗かせる弱い部分がたまらなく愛しくなる。美人は怒ると美しさが増すねぇ(笑)。ちょっとお堅い感じも、古風な雰囲気に良く似合ってました。文香の着物はすえとはまた違って、武家のお嬢さんみたいな、柄や色使いはシンプルだけど洗練された、ミニマムな着物でした。すえちゃんのは大正浪漫でレトロモダンだったからね。
 暗転の時間がちょっと長く感じましたが、小道具の配置換えをするスタッフさん方の立ち居振舞いっつかお所作が綺麗で、ちょっと良かったです。障子はきちんと膝を突いて開閉するの、素敵。
 あと姿はちらりと見えるけど出てはこない、セリフもない、文香の世話係の青年「リョウタ」の存在感がすごかった。上手いなぁ! 庭の鶏は逃げたり走ったり鳴いたり羽ばたいたり暴れたりしない良いコケ子でした。
 本当に小さくて、他愛もなくて、ささやかなんだけど、でも色とりどりのきらきらした、可愛くて綺麗なものが詰まった、小さな小さな宝箱。そんなお芝居でした。ああ、観に行けてよかった!*2

*1:生。ほんもの。生きてる

*2:諦めてたから…