ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

オレンジで読み解く「血の婚礼」

 舞台を見に行かない日は妄想で補います。お金かかんなくていいね!
 基本的に妄想ですが、ネタバレを含むかもしれないので、畳みます。




 「婚礼」を観ていて気になった、「オレンジ」の扱い。レオナルドも花嫁も花婿も花婿の母も女中も少女も、みんながみんな「オレンジの花」について何らかの言及をしている。これはオレンジの花に何もないわけがない! レオナルドが婚礼の宴から姿を消す時だって、オレンジの実を放り投げながらだし!
 というわけで調べてみました。というか友達が調べてくれました。私、一生懸命「アンダルシア 結婚式 オレンジ」とかで検索したりしていたのですが、一向に行き当たらず。そしたら友達が、「スペインとかアンダルシアとかに限らず、欧米では結婚式には一般的な花らしい」「ギリシャ時代から富と繁栄の象徴」「花言葉は純潔」と調べをつけてくれました。ほほぅなるほどな。
 実がたくさんなる様子から、繁栄や多産の象徴とされているようです。で、結婚式には欠かせない花なのだとか。加えてスペインはバレンシア地方もある通り、オレンジの主産国。こりゃ結婚式にオレンジの花飾りは当然ですね。
 で。
 劇中に於けるオレンジ*1の扱いや、関わりのありそうな部分を、思い出せるところだけでも思い出してみるわけです。セリフはぼんやりです。

  • 花嫁の身支度を手伝う女中のシーン
    • オレンジの花飾り初登場。
    • 花飾りをじっと見つめて、突然投げ捨てる花嫁。
  • 未明に花嫁を訪ねるレオナルドのシーン
    • 「花婿は本当にオレンジの花を持ってきたか?」と揶揄するように云うレオナルド。
    • 「持ってきたわよ!」と怒る花嫁。
    • 「あなたが突然来てオレンジの花のことなんか云うから!」とも怒ってましたよね。
  • 教会からもどって婚礼のパーティ
    • 根岸さんが歌う歌詞「俺が死んだらオレンジの木の下に眠らせてくれ」(は関係ないかな)
    • 花嫁に「(オレンジの花を)ロウで固めてあるからずっと枯れない」と云う花婿。
    • 花飾りを執拗に欲しがる少女。
    • オレンジ(実)を手に取り、放り投げながら姿を消すレオナルド。
  • 森の中での逃げ出した二人のシーン
    • 「私がもらうはずの、花飾りと髪留めはどうなるの!?」(少女)
    • 「お前のオレンジの花飾りと銀の髪留めが俺の血の色を変えた、どす黒く!」(レオナルド)
    • 「私はオレンジの花飾りを付けたまま、婚礼の最中に逃げ出した女」(花嫁)
  • ラスト
    • 「そんなか弱い女が、婚礼の日に、オレンジの花飾りを投げ捨て、他の女のぬくもりが残るベッドに潜り込んだりするかね!?」(花嫁の母)

 多分このくらいだったと思うんですが。他にあったら教えて下さい。
 実はですね。花嫁純潔じゃないんじゃないの?疑惑というのが仲間内で出まして。オレンジの花を花言葉「純潔」の象徴とすると、花飾りを投げ捨てたり、初夜の話をぶった切ったりしたのは、実は後ろめたいからじゃないか?とか、「花婿は本当にオレンジの花を持ってきたか?」というレオナルドの言葉はすんごい皮肉で、だから花嫁は「持ってきたわよ!」と激高したんじゃないかとか、あの(笑)レオナルドと付き合ってて何もなく済むわけがない!*2とか、ラストの執拗な程の弁明は生き残りをかけた言い逃れじゃないか、とか、その辺りで疑惑発生したわけなのです。
 が、その疑惑は私個人的には晴れました、前回観劇時に。あっさりと覆された(笑)。森で逃げてる時に、「純潔のまま死んでいく女にぴったりよね」って云うもの花嫁。レオナルド相手にそれを云うならそりゃ純潔なんでしょうよ。ごめんね変な疑いかけて!!
 そして、オレンジの花を「富と繁栄」「幸福」「多産」「結婚」のシンボルとして見てみるワケです。
 まず、花飾りを投げ捨てる花嫁。その前に、花嫁は自分の母親の話をします。「緑のたくさんある場所で生まれた」「ここにお嫁に来て枯れてしまった」。そこに、黒い男が花婿の母に語った、彼女の母についての情報を足します。「死んだ」「きれいな女だった」「夫を愛しちゃいなかった」。
 これらの手がかりから、まず「花嫁の母」像を組み立てます。緑多い地で育った綺麗な母は、愛していない夫と結婚し、枯れて死んだ。つまり、生まれた土地に愛している男がいながら、遠くの夫と望まない結婚をした、と読んで良いのではないかと。花嫁は、そんな両親を見て育ったんですよね。だから、結婚が必ずしも幸福な生活ではない、と、確信は持てないまでも、感じ取っていた。そして「お嫁に来て枯れてしまった」と表した。
 私は当初、花嫁は本当に花婿を愛していた、それは間違いなくて、でもレオナルドという激流が彼女を巻き込んでしまった、と思っていたのです。でも、彼女の母のことを考えると、もしかしたら、彼女はやっぱり本心からレオナルドを愛していたんじゃないかと思うに至ったのです。花飾りを陰鬱な表情で眺め、投げ捨てた花嫁の脳裏にあったのは、愛していない男との結婚によって枯れ、死んでいった母の姿。おそらく、それまでは花嫁も、自分はきちんと花婿を愛している、と思っていたはず。でも、いざ結婚が現実のものとなると、そこに不安や揺らぎが生まれ、さらに追い打ちをかけるようにストークしてるレオナルドの話やら蹄の音やらを聞いてしまったら。そりゃもう…何が花嫁だ、何が幸福だ、という気に一瞬、なったんじゃないかしら、と。母親と自分の境遇を重ねた時、おそらく花嫁自身も自覚していなかっただろうけど、その瞬間に彼女の婚礼は「愛していない男との結婚」へ完全に姿を変えてしまったのではないかと思うわけです。
 でも、まだ自覚はしていない(多分)。そこに揺さぶりを掛けるようにレオナルド登場、しかも彼女がさっき投げ捨てたのを知っているかのようなタイミングで、オレンジの花飾りの話なんかします。
 ここでレオナルドが口にした「オレンジ」には、富や幸福、といった意味が含まれていそうです。何たってレオナルドは牛2頭とおんぼろ小屋の男。富なんてありません。「あの男は本当にオレンジの花を持ってきたか?」という言葉には、自分では与えられなかった「富」へのいびつな思いと、「そいつと結婚して本当にお前は幸福になれるのか?」という問いかけが含まれている、ように。思えます。妄想ですから。
 そんなこと云われたら、そりゃ花嫁だってキレますがな。ただでさえ不安になっちゃって、自覚はしていない(だろう)けど今カレより元カレの方がやっぱり好き愛してる!と思い至っているであろうところに、当のご本人さまが「アイツがお前を幸せにできると思ってんの?」とか云われるんです。お前に云われたくねーよ!!というのが本心でしょう。「ああなってやらぁ!」ですよね。売り言葉に買い言葉。でも、この一連の衝突がなかったら、多分レオナルドも花嫁も、逃げ出したりはしなかったんじゃないかと思うのです。このケンカみたいなやりとりの所為で、二人とも火が点いたんだと思う。腹の底で燻っていた小さな火種が、燃え上がったんだと思う。
 婚礼パーティシーン。根岸さんの歌う歌詞までどうにかこじつけるのもどうかと思わなくもないですが、「俺が死んだらオレンジの下に眠らせてくれ」を無理矢理読んでみようとすると、末永く繁栄する子孫を永遠に見守る、的に取れる。かもしれない。妄想。
 ロウで固めたずーっと枯れないオレンジの花、は、変わらぬ富と幸福、枯れることのない繁栄、と素直に読んでいいですよね。
 そして、それを執拗な程に欲しがる少女。花嫁が「結婚したいの?」と問うと、少女は恥ずかしそうに「だって…」と身を引きます。ここ、最初はただ単に照れてるだけ、と思ってたんですが、だんだん…足の不自由な少女と、ことある毎に見せる彼女の怯えようから、もしかすると彼女は村の中で、何というか…不当な扱いを受けているというか…すぐ、ぶたれるのを怖がるように身を竦めるから…そういうのがいつもなのかな、と。で、そんな自分が、結婚なんかできるわけがない、と、うっすら少女はわかっているんじゃないか、と。だから、そんな願望を抱く自分を恥じて、足を引きずり去っていくのではないか、と。それでも、儚い、幼い望みを捨てられず、いつか訪れるかもしれない幸福な日を夢見て、花飾りを欲しがる。花嫁の幸福を欲しがる。
 結局彼女が花飾りを得ることはできない、というのが、また何というか…ね。妄想なんだけど、ね。
 オレンジの実を手に取り、放り投げながら姿を消すレオナルド。もう、完全に何というか…「結婚? 幸福? ケッ!」という…風にしか見えない(笑)。軽んじてる、莫迦にしてる、やってられっか!って思ってる〜。
 森の中で花飾りを探す少女。…ええ、あの子アレですよね花嫁とか探してませんよね。花飾りしか見えてないもんね。夜の森は人の心の奥底に沈んで普段は隠されている欲望を、浮かび上がらせるのかも知れない。幸福な花嫁になりたくて、きっとなれない少女は、夜の森で月となり、求めるものを手に入れる。この芝居の中で、欲しているものを手に入れたのは、死と月だけなんですね。人は何も得られてない、失うだけ。
 そして逃げ惑う二人。「オレンジの花飾りと銀の髪留めが俺の血の色を変えた、どす黒く!」と云うレオナルド、オレンジの花飾りも銀の髪留めも、自分が彼女に与えることの出来なかったものたち、であり、彼女が他の男のものになる証、なんでしょうね。婚礼の朝に言葉を交わしたりしなければ、妻と一緒に来て普通に参列していれば、きっと逃げ出したりはしなかったはず。花嫁だって、あの時レオナルドが来さえしなければ、一瞬吹き出た激情はやり過ごして、幸せな花嫁になれたはず。でも、二人は会ってしまい、花嫁はオレンジの花飾りを付けたまま婚礼を逃げ出した。約束された富や幸福、子供を産んで家庭を守る女としての生、本当に愛しているのではない男との結婚から、逃げた。彼女の母のように、枯れて死ぬ運命から、必死で逃げ出した。
 ラスト、花嫁の弁明とも取れる「私の身体はきれいなまんま」という言葉。殺して下さいと云いながら、そんなことを花婿の母に云っても、全然支離滅裂じゃないか?ととても首を傾げたのですが。
 ここで、遡って色々思い出してみるのです。「子供をたくさん作っておくれ」と云う花婿の母。「この土地にはタダで使える人手がたくさん必要だ」という花嫁の父。結婚し、たくさんの子を為し、家庭を守る、それが女の仕事、役目。つまり、子供を産まない女は役目を果たさない女、価値のない女。そんな意味が、一面に散りばめられているこの物語の中で、花嫁はおそらく、もう誰かと結婚することもなく、正しく「純潔のまま死んでいく」だろう。この土地で、「私の身体はきれいなまんま」という花嫁の言葉は、良い意味を持たないんじゃないだろうかと思ったわけです。レオナルドの妻には子供が二人いる。彼女は夫に裏切られ夫を失ったけど、女としての役目は果たしている。オレンジは多産のシンボル、繁栄の象徴。それを捨てて逃げた花嫁には、子供を産むことも、子孫を繁栄させることも、最早許されず、それはこの土地に生きるものにとって、もしかしたら最も無価値で過酷な生き方なのかもしれない、そうやって私は生きる、と花嫁は云っているのではないか、と…思ってみたりしたわけです。と同時に、母親から受け継いだ*3「愛していない男と結ばれる」血筋は、自分で終わりにする、断ち切る、そいう思いも…あったのかもしれないな、と。
 自分の血を残せない。紡がれる赤い糸から外れる。それは、この地で生きる人間にとって、本能的な恐怖の対象になるのではないか、と思うのです。
 そして、花婿の母に向かい「一緒に泣かせて下さい」と云う花嫁。この言葉も不可解というか、はっきり云って「ハァ?」て感じに聞こえるのですが、…息子を殺され血を残すことを断たれた母親と、子を産むことなく生きていく(であろう)花嫁は、結果的に同じ苦しみを背負うことに…なるのではないかと。だからこその「一緒に泣かせて下さい」なのではないか、と。もちろん、花婿の母は「勝手にしな。ただし、外で泣いとくれ」と突っぱねます。そりゃ当然です、花嫁の思惑なんか知ったこっちゃない。でも、彼女を殺して復讐するわけでもない。だからといって許すわけでも、ない。
 共同体への帰属を乞う花嫁に対し母親は、外で泣いとくれ、と云い放ちますが、「女は外へ出ない」らしいこの地で、これは事実上の追放ではないかと思うのです。おそらくは村八分確定。それでも花嫁は、そこへ戻るしかなかった。それが、自分の犯した罪を償う唯一の方法、そんな風に見ると、「この身体はきれいなまんま」は何一つ自己弁護にならない言葉なのではないか、そんなつもりの言葉ではないのではないか、と…見えなくもない、かもしれない。と思うのでした。
 まぁ、すべて妄想ですが。

*1:もしくは花飾り

*2:あ、オレンジ関係ない

*3:のかどうかは知らないが、でも「血筋だねぇ」の世界だし