ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

エコール

 昨日のブランチで紹介されていたのを見かけたお友達から、「ダメだコレは行かねば!」と誘われて、ちらりと話を聞いただけで「行く。」と即答して翌日行ってきた、映画です。美しかった…。
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 とりあえずこの、チラシやポスターになってるコレ↑でノックアウト。わかったこれは好きに決まってるさ。教えてくれてありがとう、見逃して終わってて後で知ったらすんごい後悔しただろうな〜。
 外界から隔絶された、高い塀に囲まれた森の中の寄宿学校で生活する少女たちの、入学から卒業までの一巡りを描いた映画です。お話としてはファンタジーなんだけど、たまに妙にリアル。おとぎ話のような、美しいけどどこか奇妙、どこか不気味、そんな空気に満ちた120分でした。どこか奇妙で何かが不気味で、どうしても不安になるけど、目を離すことができない。おとぎ話ってそういうところが魅力じゃないですか。
 とにかく、こだわり抜いた画面がひたすらに美しい。どのシーンのどのコマをひとつ切り抜いても、絵画的に美しいんじゃないかと思います。そのくらい完璧な映像美。風景、建物、調度、制服にリボンに靴、それを纏う少女たち、全てが完璧。
 そんな完璧な、閉ざされた世界で、5歳から12歳の少女たちが暮らしているわけです。学年ごとに色の違う7色のリボンを髪に結んで、純白の制服スカートの裾をひらめかせながら、走ったり縄跳びしたり水浴びしたりしているのです。少女達と二人の女性教師、召使いの老婆、それしか存在しない世界。男性の完全に排除された世界。新入生は何故か棺に入れられて、秘密の通路から学校内に運び込まれてきます。棺の中には少女がひとり。
 年少の生徒の面倒は、最上級生が見ます。「外」に帰りたいと泣く新入生に、外には出られないと諭す上級生。ボートに乗ってはいけない、壁を越えてはいけない、夜に出歩いてはいけない、「C'est interdit(規則違反よ)」という台詞がとても印象的。というか少女達がさえずるように口にするフランス語全てが、音として印象的。脱走を図る少女、「内」の世界に順応していく少女、一刻も早く外へ出たいと願う少女、やがて訪れる卒業の時を待つ少女、それぞれの視点で紡がれる時間の描写は、どれも「物語」と呼ぶほどには物語性を持たず、それもひとつの時の流れとしか描かれない。何が起こるというわけでもなく季節は巡り、上級生は学校を出、また新たな棺が運び込まれる…永遠に終わらない楽園の時間、そのほんの一時をのぞき見させてもらうような映画でした。
 上級生たちは、初潮をむかえる頃に卒業していきます。学校は完全に、女性性を獲得する前の、「少女」という性別でいる期間にのみ存在を許された楽園です。そこを後にして、外に広がる社会に出て行く卒業生たちはすでに「少女」ではなく、紛れもない「女」へと姿を変えている。さなぎが蝶に変態するように、学校での時が止まったような数年間は、少女が女に変わる為の準備期間なのかも知れない。「女」になった彼女たちの姿を見て、かつて無意識の裡にでも確かに「楽園」に存在し、そしてそこを永久に追放されたわたくしは、どうしても一抹の寂しさや悲しさ、失ってしまった楽園での時間の美しさを勿体なく思わずにはいられなかったのですが、その同じシーンを「抑圧からの解放」であったり、「束縛から自由を得るまでの過程」と取ったり、する読み方もあるんだなぁというのをパンフを読んで知って、何だかちょっとした衝撃を受けました。ああ、この人たちとは仲良くなれないんじゃないかな…と。まぁあの、コメントされていたのは行定監督と奥田瑛二さんだったんですが(笑)。このお二方のコメントが、完全に男目線というか、ああ一般的な感覚を持った男の人がこの映画を見たらそういう感想を持つのかな、と思うと、この*1感覚は女性もしくは少女性の本質的な魅力を見抜いている一部の男性、にしかわからないのかも知れないと感じました。いや女性でもわからないひとはいるかもしれないし、うちの親なんかそもそも「気持ち悪い。不健康」で片付けそうだけど(笑)。「楽園」から完全に排除された存在である「男性」の目から見たら、またずいぶんと違った話に読めるんだろうなぁ。
 学校の少女達を、最初は「展翅された標本箱の蝶」というイメージで見ていたのですが、実はガラス箱の中で羽化を待つ蝶だった、のが面白かったです。もう外界には出られない話なのかと思ってたら違ってた…。あと、友達がブランチを見た時点で「棺から少女が生まれる」という印象を語っていて、実際見たら別に生まれた訳じゃなかったね〜とか笑っていたのですが、でも、棺が卵で、地下道が産道の隠喩とか思ったら、学校で棺の中から目を覚ます少女はやっぱりそこで「生まれた」んじゃないかなぁと思ったり。もしくは、一度死んで(棺)、新たな生と性を獲得して、女に変態してもう一度産道(地下鉄)を通って、また生まれる。とか。わかんないけど。いや、そういう解釈を必要としていない映画なんだけど! そういう理屈をひねっちゃいけない作品なんだけど!(in/out左脳派としてはどうしてもついつい/笑)
 とにかく美しい。そしてビアンカ*2が可愛い。ものすごい美少女です…あとオレンジリボンの子も可愛かった…アリスも可愛かったよ…。しかしどうしても、日本人的ななのか非フランス人的ななのかわからないけど、何らかの道徳的観念というやつかもしくは何らかの下心含む背徳感なのか、見ていて何とも申し訳ない気持ちになる映画でもありました。何だかね…見ちゃいけないものを見ている気分がね…拭えないのよね…。でも見るんだけどね…。フランス人はそうは思わないのかな。とりあえずアメリカじゃ公開できないんじゃないかしら。
 新入生のみベトナム黄色人種で、他の生徒が全員白人、というのがまた何というか…そういうもんなんですかね。いっそ全員白人の方がいらんこと考えなかったような気もしてしまう…。

*1:楽園追放を惜しむ

*2:最上級生