ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

劇団 短距離男道ミサイル30発目「父さん、晩年っていうのかい、これは。〜涙なみだの最終ツアー♨♨♨これで見納め太宰三部作完結編〜」プレビュー公演@下北沢 「劇」小劇場(3/7夜)

 春の雨に濡れそぼる下北沢*1で、短距離男道ミサイルの公演を観てきました。去年の秋に仙台は卸町アートマルシェで出会った、めちゃくちゃパワフルでとても裸で何だかよくわからないけどすごく面白く最後にものすごい多幸感に包まれ涙ぐむ、という不思議な自己肯定感を味わった「おまえとおれ生誕祭」が鮮烈だった、東北をメインに活動している劇団です。なかなか東京で観られる機会がなかったので、待望の東京公演なのです。太宰三部作の完結編とのことで、前2作を知らないのが残念なのだけど仕方ない。出会いのタイミングが違ったのだ…。

 初着弾はひたすらにその圧倒的な異様さと勢いと劇的祝祭感にわー!!となっていましたが、今回の公演は流れてくる口コミを見るに、どうも様子が違うらしいぞ…?と少し心構えをしておいて、あと原作というかベースになっている太宰治「晩年」を青空文庫のお世話になってざっくり目を通しておいて*2、挑みました。「劇」小劇場はもしかしたら初めてかな? 屋根裏スペースみたいな2階席があるのが面白い。完全な囲み舞台で、正方形のアクティングエリアの四辺に客席が組まれ、その中央では着衣の(笑)出演者の姿が。おろシェぶりの本田さんは相変わらず鋭利なかっこよさでした。服は着ていた。

 とりあえず前説が大変で、ジャングルクルーズで一週間もジャングルをさ迷ったかと思えばカイジっぽいような夜神月っぽいような人が藤原竜也っぽく泣き崩れ、姿を消したと思ったらフレディが登場して短いマイクスタンドで歌い踊るという…とても楽しいものでした。本田さん大活躍。でもその楽しい前説も、「本編はしんみりする場面も多いのでせめて前説で楽しく!」的な…ことを云われ…ああそうなんですね…ってなった。けど前説はとても楽しみました。あと相変わらずの全編撮影可、アップロード・加工可のフリー素材宣言、「暗転中のフラッシュ撮影は、普段観られない姿が観られるというなかなか通な楽しみ方でございます」そこも禁止しないのか(笑)。二次加工もアップロードも何でもオッケーですが我々が三次加工をする場合がございます、とか、全編動画撮影しておうちで楽しむのも良し、とか、全編ツイキャスで生配信されたこともあるとか、もうね。すごいね。でもそう云われてもなかなか本編撮影できないんだよね…前回はお祭りだったのでわーい!って少し撮れたけど今回は…難しかった…。前説だけちょっと撮った…。

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 そして、正方形の四隅に配された学校机みたいなデスクに本田・小濱・澤野・武者の4人がそれぞれ着き、太宰治「晩年」より「葉」の冒頭を順に読み上げ、またデスクの足元に設置されたブラウン管テレビの画面にも太宰の一節が表示され、デスクの上で木魚を叩いたりプラレールを走らせたりホットプレートで卵を焼いたり…そんな幕開けでした。

 太宰治の小説とも私小説ともエッセイとも取れる短編集をベースに、短編ごとにシーンを連続させていく短編連作演劇、みたいな雰囲気で、原作に目を通しておいたのでああこれはあの話だ、というのがわかったのは良かったです。「魚服記」とか「猿ヶ島」とか寓話っぽいのは良くわかったしやっぱり被り物のクオリティが謎の高さで面白い。シリアスな場面も多めで、太宰の小説から受ける過剰な自意識と自己愛と劣等感の間からにじみ出るもの、みたいな印象が、じんわり重なっていくのだけど、まさか着地点がそこになるとは…思わなかったわけじゃないけどそんなにガチだとは…いや…予想はしていたけど…。

 小説家という場に於いて、芸術と生活をある意味秤にかける太宰の苦悩と、演劇という場に於いて、芸術と生活を秤にかけざるを得なくなる演劇人の苦悩。「まだ大丈夫」が「もうだめだ」になる瞬間、それを悟り受け入れる苦渋、勇気。演劇を娯楽として消費する身*3としては、どうすることもできないけれどただただ哀しく、無力感に襲われるばかりで。太宰のテキストを通奏低音のように一番底に流し続けながら、その上に短距離男道ミサイルのこれまでを重ね、そしてその先を、分かれていく道を、別の道を行く選択を、その決意を、静かに提示していく白タキシードの男、その傍らに添えられた白百合を、何とも云えない気持ちで見つめていました…。

 これは「或る演劇人の死」であり、「演劇人」の生の軌跡であり、遺言であり葬儀であり弔辞であり、卒業式であり送辞であり答辞で、あった。蛍の光か、レクイエムが相応しいセレモニーだった。しめやかなのか晴れやかなのかわからない、でも、だからこそ、その門出をせめて、祝いたい。旅立つ者の、新たな一歩を踏み出す者の。ばかやろうたちの。短距離男道ミサイルと、短距離男道ミサイルだった者の。まだ2回しか観たことがない、バックボーンもぼんやりとしか知らない劇団だけど、そう思わされる何かを観たし、受け取った。そう思いたくなる劇団なんです。

 …って、しんどい感じになりがちだけどめちゃくちゃ笑ったんですよ笑うところは!!! 下ネタとか!!!(下ネタかよ)(列車の歌は笑って泣いた)面接とかすごろくとか、ああーっ!!ってなりながらも笑うしかないよね…そんなことになっているの…。あとパンツの中どうなってるんだろう四次元ポケットなのかな?? たまにしまったものが異次元空間で迷子になるポケットなのかな??? いろんなものが出てくるパンツでした。あっそうです早々にパンツになります。朝まで生何とかみたいなコーナーで、「おまえとおれ生誕感謝祭」主演の福士永大くんがゲスト参加したのも嬉しかった~! 永大くんささっとパン1になっていて「さすが出演経験があると話が早い」とか褒められて?いました。あと武者匠くん、「おまえと俺生誕祭」の鬼軍曹をひそかに気に入っていたので今回たっぷり観られて嬉しい。好き。主に顔面が。重課金シスコン鬼軍曹とか課金暮らしの○○○ッティとかいろいろ云われていたけれど。本田さんはもう、お世話になりました感と問答無用で好きーーってなる。小濱さんはやわらかい雰囲気と響きの良い声が素敵でした。澤野さんは鮒がとても良くお似合いで……うう。幸あれ。いつかきっとまた演劇で会えますように。

 前半の圧迫面接シーンでの預貯金額ネタ*4や、すごろくでの「ほぼ実話」な演劇借金ネタ*5で散々笑わされた分、後半の澤野さんの「答辞」での悲痛な吐露がひんやりと、実を伴って響いてくるという、とてもしんどいけれど巧い構造なのも…大笑いした分しんどさがつらくて。妻と子供と3人で囲む食卓の、電気やガスが止められることに耐えられない、と呟くように、絞り出すように紡がれる言葉がとても重くて、その答えを選択する、選択を決定するまでの葛藤や逡巡や、苦悩や痛みを考えると、息が止まる、胸がつぶれる思いがする。けれど、人生における優先順位を考え、守るべきものは何か、守りたいものはどれか、それを守るために何を手放すのか、その選択の結果がこれなのだから、観る者はそれを受け止めるしかないし、受け止めるのであればそれには恨み言ではなく、祝福を述べたい。と思う。どうかあなたのまもりたい、まもるべきものを、たいせつに。しあわせに。

 と思う反面、文化庁主催若手演出家コンクール2013優秀賞受賞、CoRich舞台芸術まつり!2017春グランプリ受賞、と錚々たる受賞歴のある演出家であり劇団であっても、生活が成り立たたずその道を断つ決断をせざるを得ない小劇場界隈の現実に、何ともやりきれない思いを抱えるのでした…わたし普段観てるのがわりと商業演劇寄りだし、好きなミュージシャンとかバンドもメジャーばっかだし、そっか………あんまり直面したことがなかったんだなぁそういうの…。

srmissile.wixsite.com

natalie.mu

*1:最近下北沢来るとほとんど雨だよ

*2:わたし太宰治ほとんど読んだことないんだなー興味なかったんだな…晩年面白かったです。突然メタ化する地の文とか

*3:そんな言い方したくないけど

*4:マイナス10万まで大丈夫!とか。だいじょうぶじゃない……

*5:動員数過去最多のツアー終わったら250万借金できた