7月7日0時から7月9日22時までの70時間、ぶっ通しで行われた山川冬樹さんのライブパフォーマンスの、70分の3時間くらいだけを覗いてきました。
会期中は一度入ると入退場自由なパスをもらえて、何度でも何時でも入れるというシステム、ほんと近ければ、そして今じゃなければ、もっといっぱい覗きに行ったのに…行きたかったなぁ…。
旧第一銀行横浜支店の白い石造りの、高い天井のホールに大きな列柱が並ぶ美しい建物の中に、まるで引っ越しのような荷物や家具や機材が並べられ、そこで70時間を生きる山川さんのすべてが観覧自由で、ひとりの人間の70時間の生命活動そのものがインスタレーション作品、という…そして起きている間は大体ライブをやっている、という……どういうことなの…。
わたしがお邪魔したのは金曜日の夕方から夜にかけての3時間ほど、で、その間はずっとライブ演奏中でした。ブラシで鳴らすシンバルの、金属音だけどやわらかい音が、石の高い天井に反響して空間中を満たしていて、まだ明るい外の光が大きな窓から薄く差し込み、ホールをぐるりと囲むように配置されたスツールや、カーペットスペースで思い思いに眺めるひとはまだ少なくて、途切れることなく響くシンバルの音の合間に時たま挟まる山川さんの低い声が、ざらりと鼓膜を撫でていく、そんな時間が30分くらい続いたかな。ライブを聴く、見る、というよりは、その場に居るとか、身を浸す、そんな感覚になったので、やっぱりライブというよりはインスタレーション、体験型の方に近い感覚でした。ちょうど19時半だったかな、シンバルの音がだんだんディクレッシェンドして、微かな音が残響に溶けるように消えていくタイミングで、日が落ちてだいぶ暗くなった会場内に、オレンジの照明がふわりと灯ったの…ドラマティックな瞬間だった…。
会場内は、入り口側にグランドピアノ、長辺の片側には古いオルガン？やギターが何本か立っていたり、反対側にはデスクとPCやプロジェクターなどの機材やチェロがあって、真ん中にはベッド。二等辺三角形みたいな形の、底辺部分には大きなスクリーンが下げられていて、その下にもPCやプロジェクターやらの機材が乗ったテーブル、あとお皿やフォークなんかもあったので、ご飯もそこで食べるんじゃないかな。その前にはアンティークっぽい可愛いバスタブ、たぶん仮設のトイレ、コートや服が掛かったラックなんかも。バスタブの周りにはシャンプーやソープのボトルがあったのでやっぱりあそこで入るんだな…*1。センターにはマイクとか楽器とか蹴る用シンバルとか、いつもの山川さんのライブで見るセッティングが…心臓用の電球はなかったな…*2。
シンバルの後はエレキギターとピアノのサンプリング？とボーカルのライブとか、あとピックアップを鼻に着けて骨伝導…かと思いきや、頭を叩いた振動をスネアドラムに伝えてそっちを鳴らす、みたいなものも。頭叩くとスネアの音がするんだよすごい不思議(笑)。ピアノの音がずっとD-E-A-DとD-F-A-Dを鳴らしていて、deadの音階、なのはわかったんだけど、dfad…？と思ったらFじゃなくてE#だった！ なるほど！ スクリーンに文字が出てあっそうかってなりました…耳で聞くとファとしか思わないんだ…。ホーメイももちろん聞けて、あの響きの空間で倍音みよんみよんするとほんと、最高だ…って上向いて目つぶってしまう。極上の空間で、あまりに居心地がよくて、腰を上げるタイミングを逃しまくってずるずる…もっと居たかった…きっと深い時間になってからの方がいろいろ盛り上がったんだろうな…。徒歩圏内の人が羨まし過ぎる3日間だったなぁ。
わたしが居られたのはほんの3時間ほどで、ほんとに「お邪魔」する感じで、ライブパフォーマンスは堪能したけれど、でもきっとこの作品は、できたら70時間を全部、はまぁ無理だけど、少なくともその70時間の経過を感じられるくらいには、体感しないともったいないというか、本来の作品の意図には触れられないのではないかな、と感じます。だからこその会期中出入り自由なパスだよなぁ。せめて、せめて完遂の瞬間を見たかった…70時間のすべてを共有することは不可能だけど、点点くらいでは居たかった…。でも、ほんのちょこっとだけでも生で触れられたのは良かったです。
そして建物めっちゃ良かったのでまた行きたい。
