ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

演劇企画集団THE・ガジラ年間WS公演「ドグラ・マグラ」@SPACE雑遊(6/8夜)

 日にちが合わなかったりでちょっとご無沙汰になってしまったガジラ、今回は逃さず観てきました。夢野久作の小説「ドグラ・マグラ」を鐘下辰男がガジラに落とし込む、なんて観たいに決まってる、し、想像がつかないことこの上ない、し(笑)。ガジラの醍醐味は、極限状態に追い込まれた人間のギリギリの攻防戦を激しいセリフの応酬と容赦ないアクション、叩きつけるような転換時の音楽、等々と思っているのですが、その辺の要素と「ドグラ・マグラ」の茫洋とした、のらりくらりとして掴みどころのないストーリーや雰囲気と結びつかず、えっ一体どうなるの…?と…これは見て確かめるしかない…。

THE・ガジラ | stage event project group – THE GAZIRA

 開場して地下の劇場*1へ下りると、もうその時点で壁際には白い拘束衣姿の女が額から血を流してもたれ込んでいるし、壁の振り子時計はカチコチ鳴っているし、明かりがもれる地下からはか細く赤子の泣き声まで聞こえてくるし、最前列は物が飛んできたりや水がかかる場合がございますって注意アナウンスされるし、力いっぱいガジラじゃないかこれ。何の心配もなくいつものガジラの空気感で、よっしゃこれこれ!と無駄にテンション上がる。やがて入口の鉄の扉*2が閉められ、照明が絞られ、ぼんやりと小さい明かりに照らし出される血を流した女の顔、時計のカチコチという規則的な機械音が、徐々に大きく響いてくるような気がする静寂、その時間に耐えきれず客が咳払いや身じろぎを始めるギリギリの辺りで、梯子のような鉄の階段を下りてくる白衣の女性…何も始まっていないうちから緊張感ビッキビキに張り詰めきった空気で…最高でした。これでこそガジラ。

 「ドグラ・マグラ」はあらすじを説明しようにも何とも云えなくてwikipediaでさえもあらすじの説明を放棄しているというとても面倒くさい小説ですが*3青空文庫に全文収録されているのでご興味ある方はどうぞ(夢野久作 ドグラ・マグラ)。そしてガジラ版ドグラ・マグラは、蓋を開けてみたら力いっぱいガジラで、まごう方なきドグラ・マグラだったのでした。鐘下演出のドグラ・マグラはこうなるのか…という驚きと、ガジラらしさで埋め尽くされた、でも納得のドグラ・マグラで…本質はそのまんま舞台化されていてびっくりした…ものすごい重量感と充足感でした。

 今回の公演も、過去のワークショップ公演で拝見した女優さんが何人か出てらして、ガジラのWS公演での女優陣の何というかパワフルというか底の見えない感じというかは流石だし、大好きです。今回は配役を男女逆転させて、主要な男性役を女性キャストが、女性役を男性キャストが演じていたけれど、個人的にはとてもしっくりだった。ガジラの女優さんたちのパワフルさは、モヨ子や千世子、八代子には似合わない気がする。彼女たちが演じる「私」や正木、若林、あと住職は尼僧のようだったけど、どれも苛烈でかっこよくて美しくて哀れで素敵だった。男性陣は女性陣の存在感が凄くて、どうしても薄味に感じてしまうのだけど、看守は流石の存在感だったしアンポンタン・ポカン氏は大健闘だと思う…モヨ子さんもなんか凄かったな…。薄味さが逆に、千世子や八代子には似合っていたようにさえ思えてしまう。あとオフィーリアちゃん(は女性が演じた女の子)が可愛かったです。彼女誰だろうと思ってたらそうかあの子か……。

 小説があまりに幻惑的で、量的にも多くて、読了してもさて筋…とは一体…??となってしまうポンコツ脳髄の持ち主ですが、今回2時間半にぎゅぎゅっと濃縮されたまさに「ドグラ・マグラのエッセンス」を見せてもらえて、小説を読んでいる時には感じたことのなかった相似や、見えたことのなかった入れ子構造が浮き彫りになっていったのも面白かった。「最初から誰もいなかった」の衝撃やああーやっぱりーの感じとか、演劇的カタストロフを感じられてぞくぞくしました。大好き…。小説のメタ的構造も、上手いこと劇場に展開した感じで、その先の落としどころも何というか、欲しかったものがぴたりとはまる快感というか…そうそうそれだ!!ってラストで、活字で感じていたものを五感で体感させてもらえて、完全暗転に響く絶叫を聞きながら満面の笑みになってしまった(笑)。大好きだ!!

 人を殺し、その肉体が朽ちていく様子を絵に描き続ける狂気と、人を狂わせ、その人格が朽ちていく様子を記録し続ける狂気、呉一郎のそれと正木や若林のそれはどちらも同じ狂気で、結局この話にマトモはひとりもいないんだ、という…そして「私」は永遠に、その日を繰り返し夢に見てはまた目覚めるのだろう、と…メビウスの輪のような、互いの尾を食い合う2匹の蛇のような、そんな終わらない悪夢が、これからも繰り返されていく予感に満ちた終わりで、とても…原作通りだしある意味原作以上に素敵だった…。呉一郎ってクレイジーから付けたのかな…。

 嘔吐はなかったけど口に含んだ水を顔にぶっかける、なんかはあったし、コップはガンガン飛ぶし水が入ってても飛ぶし水飛沫は飛ぶし、女優さんはさくっと脱ぐし、ガジラらしさも堪能致しました。やっぱりガジラは観なきゃいけない…ちょっと無理してでも行くべきだ…。

*1:といってもワンフロアの壁沿いに椅子+雛段設置

*2:これがまたねー!良いねー!

*3:わたしは3回くらい読了はしているけど説明できないし覚えてない