ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

イキウメ「天の敵」@東京芸術劇場シアターEAST(6/1夜)

 前回公演の「太陽」再演がとてもとても良かったので、是非また行こうと決めていたイキウメの春公演に行ってきました。なむはむぶりの芸劇地下はちょっと懐かしく、今回はEASTなので行き慣れたWESTとは会場内の配置が逆になっていてちょっと面白かったです。お手洗いから出た時にあれっ?ってなってしまった(笑)。あっそういえば、鳥ドクロの沙霧役の清水葉月さんは「太陽」に出てらしたんでした。しばーーらく結びつかなくて、気づいた時にびっくりした…。メイクとか全然印象違うんだもの…。

www.ikiume.jp

 ベジタリアンの料理研究家のキッチンアトリエで、ジャーナリストが彼の経歴を取材インタビューする、という「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」形式で、ひとり語りがシームレスというか、そのままの場に過去の話がレイヤーを重ねるようにオーバーラップしていくのが見事。一緒に長い時を旅するような感覚に陥って、しかもその長い時がかなり…激動の時代を猛スピードで駆け抜ける感じなので、ボリューム感がすごい。上演時間も2時間半くらいの休憩なし、とけっこうがっつりで、重厚感ありました。ストーリーもすごくずっしりしているんだけど、でも笑いとか軽妙さもちゃんとあって、その辺のさじ加減がすごくバランス良く感じた。とにかく面白い! SFというかエンターテインメントとしてすごく面白いし、いろいろなことをすごく考えてしまうし、「太陽」と繋がるような繋がらないような、繋げられそうな、でも繋がらない方が良いような、根底にあるものは同じなような、そんな引っ掛かりも面白い。人は食べたもので出来ている、当たり前なんだけど改めて…そうだなぁ…わたしすごく偏ったもので出来てるなぁ…。

 キッチンアトリエのセットがまず素敵です。壁一面に設えられた棚に、ぎっしり並んだ硝子瓶の中のハーブやスパイス、その棚が青く輝いたりするの…すごく綺麗だった。キッチンアトリエはちゃんと水もIHコンロも使えて、とても…美味しそうでした…あれ時間なくて何も食べられずに観劇する羽目になったら地獄だな。ごま油の良い匂いが漂ってくる客席でしたよ…ほんときんぴらごぼうもお豆腐混ぜご飯も美味しそうだったなぁ。

 浜田信也さん、端正な佇まいが最初は違和感あるのだけど、話が進むうちに違和感に納得というか、違和感が消えていくというか。素敵だった…今回も素敵だった…。本当にそうなの?って思えてしまいそう(笑)。安井順平さんは観客の視点を背負っている役だけど、とても乗っかりやすい感じで。話を聞く彼の状況と、自分の状況はまただいぶ違うのだけど、もし彼のような状況だったら…どういう選択をするだろう、とか、知ってしまったら彼はこの先どうするだろう、とか、考えると胸が詰まる。ちょくちょくオモシロもあってホッとする存在感でした。大窪人衛さん、は、今回もまた…可愛らしい…可愛らしくて悲しい…。大好きです。盛隆二さんの人間らしさ、人間らしいある種の下衆さ、たまらない。彼の選択も、そうなるよなぁ仕方ないよなぁって思えるし、そっちを選ばなかった彼の祖父の芯も、相対的に浮き上がってくる。そして森下創さん、「太陽」で印象最悪(笑)になってしまったけど、今回はとても面白い存在で…すごいね、出てくると「この人何かある」感がすごいよね。彼もまた、料理家の男とは違う形で、より一段高位(?)な場所に到達してしまうのだけど、結局何を求めたんだろう、何を得たかったのだろう、そして何を得たのだろう、と考え込んでしまう…結果を求めたわけではなく、辿った道の行きつく先があれだった、のだろうけど…。

 太田緑ロランスさん美しくて、哀しくて、健気な奥さんでした。もし彼女がそれを知ってしまったら、どうするのか、止めるのか、背中を押すのか、彼女自身はどうするのか…これもいろいろ考えてしまう。小野ゆり子さんは何度か舞台で拝見しているけど、キリッとした佇まいが清冽で好きです。妻と、妻にそっくりな少女の2役、妻の末路がある種の現実を突き付けられる形で…そうだよなぁそうなるよなぁ。ブレーキ役になるなぁ。ベジレシピブロガーの彼女はとても…良いです。彼女はどうしていくんだろうね…先生とずっと一緒にいられたとしても…なぁ…。村岡希美さん、出てくると空気にピリッとスパイスが効く感じ。あの夫婦もどうなったのかな…とても人間的なふたりが、人間的だからこそそっちを選んでしまう、のも、ああーわかるーってなってしまうんだ…。あと、冒頭のお料理番組のタレントさんも好きです(笑)。本番終わった後の感じがとっても、いかにもタレントさんで。

 けっこう大変なテーマだし、醜悪なことをしているとも思うのだけど、登場人物がみんなチャーミングで、それぞれに心を寄せられてしまうので、結果嫌いな人がいないという…「太陽」とえらく違うな(笑)。完全単一食、なんて言葉についつい魅力を感じてしまうものぐさな人間ですが、それでも美味しいものを美味しく頂くことは失くしたくない…からわたしはきっと選ばない、と思うのだけど、状況が変わればきっと簡単に変えられてしまう選択なんだとも思います。

 イキウメの次回公演は秋に「散歩する侵略者」ニューバージョンとのことで! 映画観てから是非行きたいな。