ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「怒り」観てきちゃったよ(ネタバレなし)

 というわけで、歯切れの悪い物云いしかできない感じですが、先日試写会で一足お先に拝見してきましたよ。14日のジャパンプレミアに行けないからね…!!*1

 とても、とても重厚感のある作品でした。観ながらどんどん、両肩に重石が乗せられていくような。つらくて、切なくて、息苦しくて、やりきれなくて、暗い夜の森の中を出口を探して彷徨い続けるような。でも出口は見つからなくて、朝が来て、何となく辺りは明るくなっているけど、でも森からは出られないまま、のような。観てからずっと、彼のことを考えてしまう、何とかして彼の行動や思考や感情を自分の中の具合良いところに落とし込みたくて、納得したくて、理解したくて考えるのだけど、全然わからなくて、わからないのが重たくて、どこが本当で何が嘘なのか、全部嘘なのか、少しは真実が混ざっていたと信じたいのに、信じ込むこともできなくて、映画の中の登場人物たちと同じような疑念がずっと胸の奥にもやもやし続ける…そんな状態です。映画を観終わって、すごく自分に都合良く、自分が納得できる落とし所を無理やり見つけて、きっとそうだよそうに違いない!と思って、それを確かめたくて買ってから置いておいた原作小説を読み始めたけど、小説にもわたしの思い込みを補強する要素は何もなかった…。少なくともあの場面のアレだけは真実、真意だと信じたい…信じたいんだけど…信じさせてくれないかな…やっぱりアレすらも違うのかな……って、ほら、作品中で疑惑の3人に関わった人たちと同じ迷路に迷い込んでる。

 ストーリーに触れない範囲での感想は、ええと、3つの場所で進む別々の物語が、意外なほどにスムーズに、シームレスに移動していくのが面白かったです。もっと、オムニバスっぽくなるのかな?と思っていたら、とても繋ぎが美しかった。暗転なしの上手い場面転換みたいな。で、東京編の清潔な、どこか乾いた感じのするマンションや夜景がもたらす洗練された、でも空虚さのある雰囲気、千葉編の潮の匂いが感じられそうな漁村の、温かみと同居する閉塞感、沖縄編の眩しいほどに青い空と海とそれを斬り裂く米軍の軍用機という、正に現在の沖縄が抱える素晴らしさと苦悩の縮図、特に説明なく場面が切り替わっても一瞬でそれがどこかわかる空気の色の違いが、すごく鮮やかでした。ほんと沖縄の海も空も砂浜も美しかった…美しいのに…はぁ…。
 キャストに関しては、それぞれ文句なしに良くて、映画の後に小説を読んでもやっぱりシームレスに俳優さんの顔と声で映像が浮かんで見えるくらいぴったり合っていました。ほんと違和感なかったなー誰も。未來さんに関してはあまり冷静に観られないのでちょっと置いといて(笑)、宮﨑あおいちゃん演じる愛子ちゃんが…わたしは一番、何というか、気に入ったというか、愛しかったです。哀しい、けどどうか幸せになってもらいたいよ…おとうちゃん、って舌っ足らずに呼ぶのすごく可愛かったし切なかったなぁ。妻夫木くんと綾野剛くんのゲイカップルが話題になりがちだけど、もちろん千葉も沖縄も素晴らしかったです。し、東京もとても良かったです。沖縄編のすずちゃんはほんと大変だったろうけど何と云うか、よくやった、よくやりきった、という感じで、あれ以来すずちゃんをCMとかで見かけてもちょっと涙ぐんでしまうような謎の親目線みたいになってる(笑)し、同じく沖縄編の佐久本宝くんが、とても…朴訥で、純朴で、すごくふっつーーーの男の子なんだけど、だからこその迫力とか、揺れる心情がとても鮮やかで、彼にも泣かされてしまった。とてもとても良かったです。

 未來さんは、ほんと怪しい謎の男なんだけど、するりと人の懐に入り込んでくるような笑顔とか、言葉とか、ずるいなぁ。あんな兄ちゃんにあんな笑顔で「どうした?」とか云われたら高校生じゃなくてもコロッとなりますって。そりゃ男の子も懐きますって。人たらしの才能全開でした。あと身体能力も発揮しまくりでした…ね…いろんなところでね…。

 ストーリーの核は、観る前はもっとミステリ要素というか、犯人は誰でどういう動機で、っていう方が描かれるのかと思っていたのですが、そういう作品じゃなかった。なのでそこに期待して観に行くと、ちょっと肩すかしをくらうかも。そこではなくて、事件があって、疑わしい人物が現れて、その人をめぐる周囲の、彼と関係性を築いてしまった人たちの、それぞれの人生、ひとりの謎の男と関わったことによって彼らがどうなるのか、何を思い何を行うのか、そこが丁寧に紡がれる作品でした。人が人を「信じる」ということは何なのか、どういうことなのか、どうして人は誰かを信じるのか、信じてしまうのか、信じられるのか、何を「信じ」ているのか、裏切るとは、何故裏切るのか、怒りとは、諦念とは、whyとwhatが渦を巻く後味の重さでした。終わり方も意外というか、放り出される系なんだけど、わたしはこれは好きです。これしかないエンディング。小説の方がもうちょっと、物語の収束感があるんだけど、映画はあれでいいです。完璧。

 一度観た後は、あまりの重量感に、ちょっとしばらく考えたい…ってなったけど、2日はさんで原作も読了した今は早くもう一度観たくなっているので、公開が楽しみです。楽しみってウキウキした感じでは決してないのだけど~。あともう一度観たところで検証とか出来るアレでもないのだけど~。

*1:新感線取っちゃったんだ…