ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「ツインズ/TWINS」@パルコ劇場(12/16夜)

 長塚圭史作演出で古田新太主演でパルコプロデュースで、なら必見でしょうと観てきました。ちょうど中日の辺りなのかな、WOWOWの撮影が入っていたので放送されることを期待します。もう一回観たい…。
 あらすじはこの辺(【鑑賞眼】パルコ「ツインズ」 いびつな家族と、終末的な光景(1/2ページ) - 産経ニュース)で。ネタバレ注意です。1幕ほぼ2時間ジャストの休憩なし、多部未華子ちゃんが身体全体で奏でる静謐で美しいピアノの旋律に、徐々に不協和音が混ざっていくのが、これから始まる物語を予告するように不穏に響く。大きな窓の向こうの海、波の音、大きなキッチンに洒落た家具、それぞれは素敵なもののはずなのに、それらが集まる舞台上の「家」に立ち込める空気は重く、そこに住まう人々の明るい振る舞いがちぐはぐに感じられる。
 「どこ」とも「いつ」とも「なに」とも、明確に語られる事象はないけれど、交わされる言葉、その言葉に含まれるものと含まれないもの、言葉に対する各人の反応、そんなもので「ああ…」と察せてしまう。冒頭、平和な家に投げ込まれた異物のような粗暴さの古田さんが明らかに異質に見えるけど、穏やかで楽しげな家族の方が実は異常なのではないかと徐々に感じさせていく、その恐怖感が流石、長塚演出だなー。でも本当に怖いのは、そんな異物だった古田さんが変化を見せていく中盤以降で。誰が正常で何が異常なのか、全員狂っているのか、誰かに騙されているのか、それとも吉田鋼太郎さんが云うように、全てが老人の見る夢に「喰われて」いるのか。リアルとファンタジーの境目を、ふわふわと漂うような不思議な感覚が、怖くて居心地悪いのだけどどこか心地良いのも確か。でも、この物語を「ファンタジー」にカテゴライズしたくない、するもんか、という気概みたいなものは僅かながらに自分にも残っていたり。いっそファンタジーにしてしまえれば良いのに、楽なのに。笑えるところで声出して笑いながら、作品全体に通奏低音かもしくは波の音のように、常に低く恐怖が潜んでいる、その、ほんの少しどこかをめくったら黒いシミがにじみ出てきそうな感じが、とても怖く、とても「今」みたいだなぁと思いました…。劇中に出てくる食べ物が、どれも美味しそうな匂い*1を振り撒いて、美味しそうだよーって思っている本能と、美味しそうにそれを平らげる彼らに眉をひそめる理性が、同時に在ってせめぎ合う感覚もすごく…キツかった。でもあの匂いには抗いがたいよ…長塚さんほんと策士にしてどエス…。
 多部ちゃんはとても可愛らしく、凶暴さを内包した聖性、みたいなものを感じました。あの面子の中で一歩も引かずむしろがんがん攻めていけてるの、すごい。古田さんは安定安心信頼って感じ。鋼太郎さんもああいう浮世離れした感じはとてもお似合いだし素敵だしダメだ。中山祐一朗さんすごく人の良さそうでいて実はトリッキーなポジションですよね…全て分かった上でああしてるっぽい感じが。葉山奨之さん、古田さんと対極から始まって交点を経てまた対極へ、みたいな位置で面白かった。気持ちはわかる、から彼を切り捨てられない、けどダメだー(笑)。石橋けいさん、ここに至るまでにタクトくんとどんな風に過ごしてきたのか、とても気になるし背景を匂わせる役者さんでした。疲弊しきってしまうのもわかるんだ…。そしてりょうさん、ある意味キーパーソン。聖性と俗性、綺麗と汚い、白と黒、生と死、何かそういう対照をすべてぐるぐるかき混ぜた上澄み、みたいな透明感。美しい姿と声が、この世ならざるものっぽさを引き立ててとても素敵でした。穏やかな笑みが綺麗で、恐ろしかった。
 核心が語られないまま、その周囲を大量の言葉の断片が舞い踊り取り囲み、それでも核心は見えないまま、な感じがとても長塚さんらしい気がした。核心というか、種明かしというか。その、見えそうで何も見えていない、わかるようで何もわからない、でも見えてわかってる顔して観てる感じ、これまずいよね、まずいんだけどね、って思いながら苦笑いしてるだけ、の感じが、とても「今」っぽいな…と思いました。悪い意味で。拒絶し続けるのも怖いし、迎合するのも怖いし、恐がり続けるのも怖いし、でもないことにするのも怖い。どうしたらいいのかすっかりわからなくなっている。なっていて、面倒くさくなって、見ないことにしてる今。その状況がとても怖い。
 ラストがまた…怖くて。怖くて!!! でも嫌いじゃない!! むしろ好き、わかんないけど好きです。わーーー!!ってなってしまった。放り出される終わり方は、これにポカーンとなるほど演劇ウブではないのでした…(笑)。かつての阿佐スパを彷彿とさせるバイオレンスとブラックユーモアが、今の長塚さんの文脈にさらりと組み込まれて、また新しい世界が立ち上がったように感じました…良いバランスの厭な芝居だった…。
 美味しそうで楽しそうな晩餐の図が、ふと気づいた瞬間に鳥肌が立つほどおぞましく見えて、パエリアパーティは本当に…タクトくん…。同調圧力、とか、正常化バイアス、とかいう言葉が思い浮かぶのは、夏に観た流山児☆事務所の「新・殺人狂時代」に似ているというか、表現の発露の方向性が真逆なんだけど、同じ線上の逆ベクトルにある、芯にあるものは近いのではないかと。それにしてもいい匂いが胃袋直撃するので空腹で観ると地獄を味わえる舞台です…。

*1:舞台上で作ってる!