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ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

こまつ座「戯作者銘々伝」@紀伊國屋サザンシアター(5/30夜)

 久々のゆっきー舞台、久々のこまつ座、観てきました。今回は柿喰う客の玉置玲央さんも出てるので一粒で何度も美味しい感じ。しかも井上ひさしの短編小説集をベースにした新作書きおろしとのことで、井上ひさし没後初のこまつ座新作上演という意味でも、注目度が高いのではないかと。よくわからないけど(笑)。
 そんなこんなはあまり気にもせず、こまつ座のゆっきだワーイくらいの軽さで観てきましたが、何と云うか、軽快な音楽に乗せて、リズム良くテンポ良く楽しい言葉合わせが連なって、本当に楽しいのだけど、その楽しい薄皮一枚下に、ずん、と重くて大切なテーマが隠されているのは、これまでの井上作品と何ら変わりなく。そのメッセージが、哀しいかなちょうど今この時の諸々ととても色濃く重なって、多分、数年前に観るよりもずっと、「今」だからこそ、重く感じてしまうんだろうな。それがとても残念だし、怒りを感じた。そんな時代になってしまっていることが。
 話は2部構成になっていて、前半は三途の川の渡り船で、江戸の人気黄表紙作家たちがそれぞれ、自分の生きざまや作品、最期を語っていくエピソード集みたいな感じ。幕府や政治をネタにした風刺漫画のような黄表紙はお上に目をつけられ、作家は手鎖何日、なんて刑を受けたり、切腹沙汰になるほどの弾圧を受ける。そんな中で、云わばプロデューサー的な存在である版元のやり手っぷりや、弾圧にどう向き合ったのか、戦った者、筆を折った者、それぞれの生き方死に様が、軽妙洒脱な歌と語り口でつづられる連作集みたいな1部でした。
 後半はまたがらりと変わって、人気黄表紙作家の三東京伝*1が筆を折った後、たばこ屋として成功した頃の、両国花火大会を舞台に、かつての自分のような、気概にあふれた若き花火師と、彼が追い求める四尺玉の大花火、その打ち上げへの顛末が描かれます。玲央くんのキラキラした、才能あふれる花火師と、彼にかつての自分の夢や想いを託すような、有起哉さん演じる京伝さんの暖かいけどどこかさびしげな視線が、切なくて美しいラストにぎゅっと凝縮されて花開く。「大江戸ロケット」を思い出したりもしつつ、ちょっとじんわりさせられてしまうラストシーンでした…。
 軽快な音楽に花を添える新妻さんの歌声や、西岡さんの食えない鷹揚さ、相島さんの軽やかさも楽しかった。客席の年齢層が高いのもこまつ座らしい雰囲気で、でも老若男女楽しめて、笑顔の中にとても大事な芯を抱えながら劇場を後にする、こまつ座ならではの観後感*2でした。井上さん亡き後も、ずっと守り続け、新しいものを作り続け、メッセージを伝え続けてほしい、なんてことをうすらぼんやりと思いつつ。
 で、お芝居とは直接関係ない話なのですが、この日の2幕開始早々に、マグニチュード8を超える地震が発生したという。ちょうど、2幕始まって5分くらいかな、屋形船がゆらゆら揺れているシーンの最中でした。観劇中の大きな地震は初体験だったので覚書程度に。
 最初に、恐らく紀伊國屋全体の館内放送だと思いますが、例の緊急地震速報の音がピョロンピョロンと流れ、すぐに後方の音響?照明?ブースに明かりが点きました。と同時くらいに最初の揺れが。客席は少し騒然としたけど、舞台上は動いている所為もあってか気づいていない様子。舞台監督さんらしき男性が客席内に現れ、舞台に向かって×印を出し芝居を止めて、一旦幕が下ろされました。その間も館内放送は流れ続けて、係の人が客席ドアを開けたり、そのまま座ってお待ち下さい的な案内があったり。客席は概ね落ち着いていました。その後に一度、横滑りするような揺れが来て一瞬キャッとなったけど、そのまま様子見な感じ。館内放送では「この建物は安全です」みたいなことが流れていたかな。あとエレベーター停止中とか。結局、それで落ち着いてくれたので、こまつ座の方から「このまま10分休憩を入れて、舞台の安全確認後に2幕から再開します」とアナウンスが。びっくりしましたねぇなんてお隣の見知らぬ方と少しほっとして喋りながら再開を待ちました。ほんとびっくりした…。終演時間が延びてしまうので、時間の関係で最後まで観られない方は、受付に伝えておけば何らかの対応をしますので、とのお知らせもありました。どういう対応になるかは今すぐはわからないけど、何らかどうにかします、って仰ってて、誠意だなぁとちょっと感動したり。
 再開の2幕は相島さんの口上?から始まるのですが、開口一番「みなさ〜ん!…びっくりしましたねぇ〜!」で何かもうほっとして面白くなっちゃって拍手喝さいでした。その後もちょこちょこ地震を小ネタに挟む余裕もあって、幸いなことにそれからは無事、最後まで何事もなく進みました。カテコ時にも、西岡さんと有起哉さんからちょこっとご挨拶がありまして、「最後までこんなにたくさんのお客様が残って下さってありがとうございます」とか、「電車止まってるかもしれないけどお帰りお気をつけて」みたいなことを云うゆっきーに「もう動いてるって!」と突っ込む徳馬さん、とか(笑)。実際のところは、動いてる線もあれば、遅くまで再開しなかった線もあったみたいで。わたしはラッキーなことに、わりとスムーズに帰って来られて一安心でした。そうなんだよねー芝居が中断!とか、身の安全を!とかももちろんなんだけど、その後の帰りがねー大変になっちゃうんだよねー。久々に、帰宅難民の危機を覚えました。最近いろいろ、ほんとにいろいろ増えて来ているから、ちょっと心身引きしめ直さなくてはいけないですね。4年経ってだーいぶ緩んでたからなぁ。
 こまつ座及び紀伊國屋の対応はとてもスマートで、揺れ自体もそこまで大きく感じなかったし、わたしは不安感はあまり…ほとんど感じませんでした。ご年配のお客さんも多い分、客席で気分が悪いひとがいないかとか、気遣いもこまやかで、余裕ある落ち着いた対応だったと思います。中断なんて初めてでびっくりしたけど、緊急時の対応がしっかりシミュレートされてるんだなぁと安心しました。でももう来ないで欲しい…。

*1:何となく、さん・とうきょうでんと読んでしまうのだけど、さんとう/きょうでんさん、というお名前なんですよね

*2:読後感、的な