ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「借りぐらしのアリエッティ」

 わたしにしては素早く観て来ました。某シネコンでサンクスデー1000円だったので、しかもwebで席予約したら空いてたので。ええ、空いてましたよ。さすが田舎のシネコンは違うな!
 観る前は、ただ漠然とファンタジックで可愛らしいものを期待していたわけですが、実際ファンタジックで非常に可愛らしくもあったのですが、何故かそれ以上にビターな印象でした…ファンタジックなんだけどリアルなんだよ、ファンタジーな嘘をついて夢を見させてはくれないんだよ…さすがジブリ…。何のツボを押されたのやら、ひとりでぼろ泣きしてしまいました。だって何かつらいんだもの! 人間ってどうしてこう醜怪で愚鈍で傲慢で無神経なのかしら! 観終わってとても哀しい気持ちになりました…とても良かったんだけど、ビターだ…。
 ネタバレ含みそうなので畳みます。
 
 
 主人公がアリエッティなので必然的に、観ている方はアリエッティの視点から世界を認識することになる*1んだけど、アリエッティの視点で見る世界がとても美しくて、特にアリエッティたち家族の住まいが本当に素敵で、物質的ではない部分でとても豊かな暮らしで、そうやってアリエッティの目から見る世界を美しいと感じれば感じるだけ、彼女の目を通して見る人間の粗暴さや醜怪さがより際立って、めぐりめぐって人間である自分に自己嫌悪、という…。もちろん人間だって、ただデカくて醜悪な存在には全然、描かれていないのですが、ちゃんと交流が為されるのですが、それでも、物質的に満たされ過ぎて足ることを忘れた人間の暮らしは、そんなに魅力的には写らないのね。それを手放せない自分を含め哀しくなるのね。っていう哀しいのがまずひとつ。
 あとは、これは完全にわたしの思い込みが悪かったんですが、もう少しファンタジー要素の強いストーリーなのかなぁと勝手に思ってしまっていたわけで。種族(?)が違ってもボーイ・ミーツ・ガールがあったら、その先の展開を期待してしまうではないですか。人魚姫は足を手に入れ王子のもとへ現れるじゃないですか。異類婚姻譚とまでは行かずとも、こう何らかのファンタジックなカタストロフィがあるんじゃないかと…いや、あったらあったで大変なことになるのはわかるんですが…一瞬でもその、豚が少女のキスで一瞬人間に戻る的なそういうマジックを、期待してしまったのが悪かった。そこはファンタジックにはしてくれなかった。そこはあくまでリアルだったの…それがちょっと哀しかったの…や、アリエッティが人間サイズになっても困るし、少年がアリエッティサイズになるのも無い話だし、なられてもびっくりだし、あのサイズ差のまま何がどうにかなるかっていうのもあり得ないので、当たり前なんですが。また、種の境界線を飛び越えることなく、あくまでストイックにそこを守り通す、共存共栄の道さえも絶つ潔さ、それこそがアリエッティたちの生きる術である、こともよっく理解できる。できるのですが!!!
 …あのドールハウスで暮らして欲しかったよ…と思ってしまうのは大きい人間のエゴですか…。家政婦をクビにして、少年と伯母はアリエッティたちのことを見ないふりして、たまに角砂糖とかビスケットとかをしまい忘れて出しっぱなしにして、そんでアリエッティたちは床下に住み続ける、じゃだめですか…。たまの夜にはドールハウスに灯り点して、少年は別の部屋で寝るとか、ダメですか…。
 可愛い振りして、甘い夢を見させてくれないシビアな映画、というか、可愛い振りしてるからこそ甘い夢も見させてくれないシビアさに必要以上の衝撃を受ける映画、でした…。でも良かったよ、甘い夢を切り捨てた潔さは美しいよ!
 引っ越したアリエッティと少年は二度と会うことはないんだろうなぁと思うと、やっぱり泣けてくるわ…。せめて、引越し先での暮らしが幸福で平和であることを祈るばかりです…。
 すごく面白かったのは、水の表現と、あと音です。水がね、アリエッティサイズになるとああなるのね! 雫の一粒の表面張力がポットや髪のサイズに勝ってるのね! 無重力状態の水みたいに、雫にストローさしてそのまま飲めるんじゃないかと思ってしまった(笑)。お部屋の大きな一輪挿しが鉛筆キャップなのとか、壁に飾ってあるボタンとか、も可愛かったなぁ。音は、人間の立てる物音や振動の大きさが、映画館のドルビーサラウンドで聞くことによって、あたかも自分がアリエッティサイズになっているような錯覚を覚える、そんな音でした。何気ない少年の衣擦れの音、寝返りを打つ、椅子を動かす、そんな音たちが、物凄い轟音になって響くの。話しかける声も轟音なの。そりゃそうだよなぁ大きさが違うもんなぁ。だったらアリエッティの声なんて聞こえない*2んじゃないかとも思いましたがそこはまぁね(笑)。あのサイズの声帯から出る声なんておそらく人間の可聴域じゃないよな(笑)。しかし布団のがさがさがあんな轟音じゃあ、トイレとかお風呂とかの音は大地を揺るがす勢いだろうなぁ。大丈夫だったのかなぁアリエッティ
 明日は「ぼくのエリ」を見てきます。

*1:ことが多い

*2:音量的にも周波数的にも