ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

F/T09秋「4.48 サイコシス」@あうるすぽっと

 飴屋法水演出作品は観に行こう、行った方がいい。そう決めてからの3つ目に行ってきました。池袋から歩くとあうるすぽっと、けっこう遠いねぇ。
 ロビーに入ると、すでにインスタレーションで作品が始まっているような雰囲気で。ロビー空間の真ん中に大きな…何だろう。プールのように四角く区切られた、真っ赤な水面に、バイクが1台正面から突っ込んで屹立している。傍らにはスネアドラムが半分だけ露出してある。血色のプールに浮かんでいるような、突き刺さっているような感じで…ロビーには単調な太鼓?の音が、トントントン…トントントン…と繰り返し流れていて、客入れの声やざわめきに紛れてだんだん意識できなくなるような、でもふとした拍子にすごく鮮明に響いてくるような。


 整理番号順に自由席と案内され、客入れ中からじわり…と開演してから2時間10分、こんなに息苦しく濃密で生々しく冷たく、不快で、目が離せない…そんな時間でした。全身バッキバキ、やたら呼吸が上がる…。力を抜ける瞬間が全くない、容赦ない。キツかった、でも、凄いものを観たのは確か。内臓の裏側を直接、素手で触られているような不快感が、ずーっとざわざわ続いていました。胃の裏側が落ち着かない感じ。まだ続いてる。
 ひとりの人間が、自分を終わらせるまでの、壮絶な闘い。分断され、断片化され、反復され継ぎ接ぎされた言葉は、対話にはならず、役者ごとに割り振られるけれど、そのほとんどがひとりの人間の内側の声で、叫びで。むき出しの負の感情を叩き付けられるのは、それが舞台の向こう側であれ、想像以上にキツかった…。こんなにも壮絶な戦争が、ひとりの人間の内側で巻き起こるのか。しかも闘う相手は自分以外の全てであり、自分自身であり。自分以外の全てに対する怒りがそのまま、自分自身への怒りになって、吐き出す言葉が全て、自分に突き刺さる…そんな戦争。そんな闘い。
 ネタバレにはならない、というかできないというか、ですが、演出とかセットとかに触れるので畳みます。やぁセットというか何というか、は、流石だった! 状況に関係なくはわっとなった!
 
 
 
 自由席に案内されると、席は舞台上に組まれた雛壇のパイプ椅子でした。最前列は座布団体育座り。客席側がステージとして使われます。座席は全てビニールで養生され、通路や客席の間にはバイクや自転車のハンドルが点々と置いてある。それと、体育器具がいくつも、バスケのゴールとかサンドバッグ、卓球台、平均台みたいなの、筋トレマシンも。客席の隙間を縫い、座席に座り、手すりを歩き、役者は言葉を発する。身体の動きと言葉の間に、関連性はないように感じました。肉体と精神の解離、なんて云ったら安っぽいけど。
 本来の舞台上、最前列の客席のすぐ前には、血色の水を湛えたプールが左右いっぱいに設置されていました。これが…すごいんだ。ただ血の色の水で満たされたプール、てだけでかなりの存在感というか圧迫感なのに、それが…まさかの。アレがああなった時には、ちょうど位置的に目の前だったのもあって、文字通り目ん玉ひん剥きましたよ。その後のは、…ああ…そうだよねぇ…と思いましたが。そうでなきゃ!とも。そういう部分で個人的に、はわわっとなれたのが、せめてもの救いというか…アレは素敵だった…。
 内容を説明することはできないし、する意味がないので、雑感を。いや、わたしの感想文はいつも残念な雑感なんだけど!
 冒頭、まだ何もわけがわからない*1うちに、何か…すごいことが。上手のプール内*2に男性がひとり。座席側にフェンシングの面を付けた男女が点在。中心の、真上に、天井に逆さに立つ男性が、ひとり…。す、ごかっ、た…!
 心音みたいな低い音が響き、座席の合間に置かれたバイクのヘッドライトがそれに同調するようにゆっくり明滅し、次第に暗くなる照明と共に、声明みたいな…読経のようにも聞こえる、不思議な音が、暗闇を満たして。調光室?らしき場所の左右にドラムセットが2つ組まれていて、打楽器の力一杯な音ががんがん響いて。明滅する強いライトの光と、腹の底にびりびり来る重低音の、視覚的圧力と音圧に涙が出た。何も起こってないのに、何だろう、原初的な恐怖感とでも云うんだろか。とにかく怖かった。けど…かっこよかった…。
 その、天井に逆さまに立ったひとは、何かもうとにかく…タダモノじゃない感満ち満ちで…目が勝手に追ってしまうのです。お尻の下まである長い髪に黒い細身のパンツだけで、行者のようにもデスメタルの人(笑)のようにも見える。ポジションがまた、何だかトリッキーな位置で…自分の中に居る/在る悪魔的な存在、みたいな…彼だけ何か、違う次元にいた。で、彼の声がまた…低くてすんごい良い声で! ていうか好みの声で! また内容関係なく、ずっと聞いていたくなりました…低音で繰り返される「Why did you cut your arm?」…美しかった内容関係なく…内容と目の前の光景は物凄かった…見ちゃいけないひとは見ちゃいけないと思う…辛すぎる…。悪い方に共鳴しかねないよ…。
 で、ある場面でその彼が、身を振り絞るように声を発するんですが。すごいの。ホーミーなの! 生で聴くの初めてで瞳孔が開いたわ! 倍音きれーいに、高いのも低いのもびんびん聞こえて…凄い。あのひと凄い。…と思ったら、やはり凄い方だったらしく。山川冬樹さんと仰る方で、世界的に有名なホーミー(ホーメイ?)演奏家とのことでした…うわぁいいもの観た…。しかも心音、やっぱり彼のだったんだ…!
 あと、出演者の中にいくつか見覚えのあるお顔が。宮本聡さん、小駒剛さん、ハリー・ナップさん、このお三方は偶然にも、「3人いる!」で前にも拝見していたのでした。小駒さんとハリーさんは同じ組で、宮本さんはくればやし嬢と同じ組で、それぞれ3人だったの…偶然だけどちょっと嬉しかった…って云っていいのかな。…いいか。宮本さん凄かったです、静謐な雰囲気のままアレで…ぞくぞくした…。
 趣旨やらテーマ的なことやらとはかけ離れたダメな雑感ですが、内容には触れられないので…。とりあえず、すごいものを観てしまった感でアドレナリン出まくり、だけどめっちゃ俯いて無口、な感じです。ひとりで行って良かった、誰かと一緒だったら何も喋らないまま「じゃあ…」って駅で別れる羽目になる(笑)。かといって感想とか話したい気分には…ならないんだ…拍手もしづらいような、そんな圧倒的な、a very long silence だったんだ…。
 ラストの逆転も、流石でした。また観たい、とは思わないけれど*3、観て良かったと、あとやっぱり次の飴屋作品も観ようと、は確信しました。

*1:わたしが、ね

*2:深さは足首くらいだった。…そこは! その時は!

*3:身体的にキツすぎる