ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

フェスティバル/トーキョー「転校生」@東京芸術劇場中ホール(3/27夜)

 芸術劇場のエントランスに来ると、どうしても「アルビリーニのアダージオ」*1を思い出してしまいます。アルビリーニって…(笑)*2
 平田オリザ脚本、飴屋法水演出、静岡県内の現役女子高生が出演、という並びも充分にアトラクティブですが、個人的にはやはり、飴屋法水さんの演劇界復帰1作目の再演、というのがやはり何とも。飴屋さんやグランギニョルM.M.M.や、についてはこの前だらだらねちねちしたので割愛しますが。静岡県内からオーディションで選ばれた女子高生18名出演、というのもちょっと楽しみでした。
 中ホールのロビーに入ると、壁際に配置された長テーブルの上に、名前の書いてあるピンクのカゴが並んでいるのが目に入りまして。カゴの中はリュックとかカバンとか、女子高生の私物的なものが…思い思いのというか、それぞれというか、色や形やそういうのから、それぞれの個性が見えてくるような、わからないような(笑)。そんなじっくり見なかったですけどね、私物かと思ったし。私物じゃなくて小道具だったんですが。
 ホールに入ると、小さく時報の音がずっと鳴っています。リアルタイムの時報です。舞台の上には剥き出しのひな壇、照明バトンが降りていて、降りてるの初めて観たので何か…何がどうなってるのかわからなかった(笑)。後ろにはスクリーンが下げられていました。
 サイトの注意事項に、「定刻になりますと自動的に開演となり、以後は演出効果の都合上、すぐに場内の指定のお席にご案内できない場合がございます。」という記述があったので、何かこう…開場の時点から何か始まっていて、そのまま切れ目なく開演するとか、そういう感じの演出なのかなー?なんて想像していました。なので、早めに席についていたのですが、私の前の列がPA卓の機材列になっていましてね…センターに小さな卓がしつらえてありまして、そこに緑色のジャージを着た男性が…そのジャージ見覚えありまくりますよ飴屋さん…(笑)。
 何かね、不思議な気分でした。だって私の中で「飴屋法水」という人は、ほぼ何というか…伝説というか、実在してないんじゃないかみたいな、何かそういう存在だったのですよ。イメージだってグランギニョル当時で止まってしまってるし…あ、テン博士は見たけどさ(笑)。伝説で神話でほぼ想像上の人物みたいなことになってしまっている方が、目の前に普通にいるの。わーほんとにいたんだー、みたいな(笑)。そちらもちらちら気になってしまうお席でしたよ。けちってA席にしたら意外なラッキーがついてきましたよ。
 やがて開演時刻を迎え*3、時報の音が大きくなり、そこに低いノイズが重なり、その音は次第に胎内音や鼓動の音になり、照明バトンがゆっくり上がっていき、胎児のCT映像が映し出され、ひな壇の上では女子高生たちが思い思いにウォームアップ…なのかな。縄跳びしてる子、バレエのポーズみたいに足を高く上げる子、シャボン玉を飛ばす子、走り回る子、トランペットを吹く子…。背後の胎児映像に、「転校生」というタイトル文字がゆっくりと重なって、校の文字が消え「転 生」になり、転も消えて「生」になる…という、何とも象徴的な映像が流れ、重低音が響き渡り暗転、そして明るくなると*4、ひな壇の上には教室用の椅子が整然と並べられており、朝の学校風景へと変わっているのであります。そんな開幕でした。いやーバトンの昇降なんて初めて観た。
 ネタバレとかには気を遣わない方向なので、一応畳んでおきます。
 
 

 明るくなって、何だかざわざわと若干ざわついている客席、遅れて係の人に案内される客、の間を通り抜けるようにして、後ろの扉から、制服姿にリュックサック背負った女子高校生が通路を歩き、そのまま舞台上へ上がると、席に座ります。朝の教室に一番乗りの生徒という感じ。ひとり、またひとりと教室(舞台)に生徒が入ってきて、そのたびに「おはよー」だの「昨日のアレどうだった?」だの「おかし食べる?」だの、とっても…ありそうな朝の教室風景が繰り広げられ、人数が増えると共に彼女たちの会話は何重奏にもなっていき、それぞれの言葉を聞き取ることはできなくなります。まとめて「女子高生」という存在、みたいな。ほんとにね、この時点では全然、誰とか何ちゃんとか、まったくもって個性もキャラクターも見分け付かなくて、電車の中で女子高生の団体に遭遇した時みたいに、集合体をまとめて「女子高生」として認識するような、それしか認識しようがないみたいな、そういう状態でした。何しゃべって何がおかしくて笑ってるのかもうサッパリ(笑)。ひとりずつ*5通路を通り抜けて、舞台の上に上がってくるので、後ろから聞こえる足音が、キャストのものなのかそれとも遅れて来たお客さんのものなのか、わからない。スポットライトで追い掛けて、とかではなく、客席も明るいままなので、何かすごく…新鮮な感じでした…。面白い。
 担任の先生がお休みで、学級委員長が仕切ってホームルームを行う…のですが、そこへ転校生がひとり入ってきます。がこの転校生が…初老の女性なのです。何だかわからないけど、朝起きたらここの生徒になっていた、と云う転校生はおかもとたかこ、と名乗り、異質な転校生に少女達は戸惑いますが、面白いのね。すぐに柔軟に受け入れるのね。その柔軟性というか、自由自在な感じがすごく、あり得ないんだけどリアルに見られるというか…女子高生ならこうなるかもね、て思わされてしまう。実際そんなことが起きたら、まぁきちんとした説明が為されない限り、いくら女子高生でも…ねぇ(笑)。でも舞台上の教室では、それが自然に受け入れられる。授業の課題図書になっているらしい、カフカの「変身」を根底のモチーフに据えて、日常の中に投げ入れられた不条理/非日常の一石を、彼女たちがどう受け止め、何を感じ、吸収していくか…「女子高生」という、ある種特別な時間を過ごしている最中だからこその不安感や不安定さ、その辺りも絡めてすごく瑞々しい、キラキラしたお芝居になっていました。
 授業ごと、教室移動ごとに場面転換…というか、理科の授業で実験室に移動、みたいなのがある度に、生徒たちが通路を通って教室(=ホール)を出て行くのですが、面白いのね。教室に残された椅子に、彼女たちのカバンや上着やマフラーや、がかけられていて、その椅子自体がもう、彼女たちそのものの存在感をそれぞれ表しているというか、空っぽの教室に残る椅子が、彼女たちの危ういアイデンティティの小さな港みたい、というか。「席」って面白いものだな、と見てて思いました…ちょっと懐かしくもなったりね。空の教室で、もうすぐ転校するかも知れない生徒が、転校生に、席をひとつずつ「これは誰だれ」「ここは誰」と紹介していくシーンがあって、何だか胸がいっぱいになった…。あと、誰もいない教室で、それぞれの椅子にはそれぞれの色鮮やかな個性が置き忘れられたみたいに残されているのに、転校生の席だけは何もなく、空っぽのまま、というのが…転校生の存在を象徴しているようで、ああ、そういう「転校生」なんだな、と思いました…切なかったな…。「風の又三郎」もセリフの中に出てきて、連想ゲームみたいに会話の中で言葉が連なって、イメージが広がって、その一見脈絡のなさそうな、勝手気ままな女子高生の会話が、実はきちんと本筋に沿った内容であったり、重要なキーワードを含んでいたり、という…ああ、これが平田オリザの現代口語劇の妙技か…と実感しました(笑)。や、確かに、現役女子高生の普通の会話はね、もっと…もっとスゴイというか、わかんないというか、彼女たちの中での共通言語で交わされているというか、だと思うので、セリフはやっぱりセリフであり、「女子高生のリアル」とは違うんだろうけど。でも、その辺の、等身大「っぽさ」が大事なんじゃないかなーと、本当に等身大、じゃ理解不能な部分も、「っぽさ」で薄めてもう少し普遍化…というか一般化というか、女子高生以外にも平易に伝わる言語になっている、そこがミソかしら…なんて思います。
 大きなストーリーの流れがあるわけではなく、延々と会話で紡がれていく群像劇ですが、…好きなんですこういうの。女子高生たち、とか、男子高校生たち*6、とか、同年代群像ものが…さらに学校ものになると余計に…刹那的で永遠で…何かわたしが云うと変態っぽく聞こえますが(笑)。囀りみたいな会話を聞いているうちに、だんだん、「女子高生」という集団の中から、それぞれの個性や性格が見えてきて、そうなると余計に愛しくなってくる。しっかり者の委員長にトンガり気味のインテリ美少女、勉強できるけど他がヌケてる眼鏡ちゃん、お調子者でムードメーカーな飛び道具キャラ、ギャルにおでこちゃんにダンスっ子にスポーツっ子に、強キャラに見えて実は乙女な子。ほんとにみんな可愛いのです…席が通路脇の後方だったんだけど、横を通る彼女たちのキャッキャした笑顔とか追いかけっことかもう、ヤニが下がるというか(笑)。デレッデレですよ見てて。どこまでセリフなのか、すべてきちんとセリフなのかも知れないけど、後ろの扉から出ていくまでずっとキャッキャしてるの…。
 そんな、授業と授業の合間の、教室でのおしゃべりの中で、ぽろりぽろりとこぼれるように語られるのは「何の為に生まれてくるのか」「生きること、死ぬこと、殺すこと」「他人を理解できない、ということはつまり自分も他人からは理解されない」、死生観と存在意義への不安、揺らぎ、他者との関係性、そんなものたちで。難しい言葉で語ろうとすればいくらでも語れるようなことを、あくまで彼女たちのサイズで、教室という小宇宙の中で、語ることによって、とても身近な悩みとして体感させていく*7。学食のメニューとレゾンデートルと終わっていない課題を、同じ地平で、それらの間を自在に行き来しながら語っていけるのは、「女子高生」という瞬間の、瞬間でしか在り得ない存在の、特権なのではないかと思ってしまうのです。
 ていうか要するに女子高生可愛いなぁってことなんですが(笑)。
 印象的だったシーンを思いつくままに。眠るときの体勢で、誰かのことを考えてみる実験をする少女たち、「消灯」と明かりを消した教室に、そっと入ってきた一人の生徒が、起きた彼女たちに云うセリフ「みんなは自分の寝顔を知らない、私はそれを知っている」…すんごい可愛いシーンで、このセリフを口にするクレバヤシという子がまためちゃくちゃ何と云うか可愛いので、ニヤンニヤンにヤニ下げて見ていたのですが、これがラストの「おかもとさんの死に顔を見るのは私しかいないと思った」(的な)とつながった瞬間にぞびっと来た…。
 昼休み、教室でお弁当を広げている生徒たちが、屋上に富士山を見にいく、というシーンがありまして。みんな、「行こ行こ!」って通路通って出ていってしまって、教室には一人だけ少女が残り、2階席のバルコニーが屋上ということになっていて、屋上に上がった少女たちが何故か「ハッピーバースデイ」の歌を歌う中、教室に残った少女は携帯で時報の音を聞き、そしてそのまま奈落(窓外?)へ飛び降りる…という一連が。何とも…その、少女のダイブが、そのまま「=自殺」とは受け取れなくて*8、でも携帯電話と手にしていた学食のトレイを放り出して明らかに飛んで、おそらく落ちた音であろう「どんっ!」という重い音も響いて…屋上で少女たちが歌うハッピーバースデイ*9の歌と相まって、わからない…!と思った…のですが、ラストまで見たら何となく…うすらぼんやりとだけど、何となくね。
 ラスト、一列に並んで手をつないだ女子高生全員が、せーの!の声とともにジャンプしてどん!と着地する、のが繰り返されて、後ろのスクリーンに出演者*10の名前と生年月日がひとりずつ映し出され、ひとり分映るとともに「せーの!」どんっ!と少女たちが飛んで着地し、…これを見ながら、ああ、生まれるってことは生まれ落ちるってことだ、と。彼女たちの細い足が踏みしめる狭い面積、生まれ落ちる重さ、産み落とされる場所、そういうものを…ぼんやりと、ひとりずつの名前と誕生日を見ながら、ひとりずつ、でもたくさん、生まれてる、と…すごく漠然とした印象ですが、そんなことを感じましたよ。彼女たちの屈託ない笑顔と明るい「せーの!」の声が、逆に切ないような、愛しいような、不思議な気分で泣けてきたんだ…。で、さっきのダイブの子が思い出されて、時報と、誰に向けられたのかわからないハッピーバースデイの歌と、重なって…ああ、彼女は何か、新しい生を受けたのかなぁ、とか…「転校生」が「転生」になって「生」になるタイトルもかぶさって、何となく。別にその、具体的な現象として彼女が転生したとか生まれ変わったとかそういうのではなくて、ね。彼女が携帯で聞いていた時報は、本当にリアルタイムの時報だった*11のですが、開演前から始まっていた時報の音が、ここまできちんと一続きになっているのは、非可逆性というか…生まれ変わるからといって戻るわけではない、みたいな…そういう時間軸とは違う次元での転生、新たに産み落とされる、何か…わからない(笑)。とにかく、何か、良かったんです。
 金曜夜の回は、終了後にポストパフォーマンストークがありまして。飴屋さん、平田さん、あと演出家の宮城聰さんの鼎談があったのですが、これは…ほとんど宮城さんがしゃべってた(笑)。飴屋さんは何かもう、テン博士!!って感じで…逆に往年の美少年イメージが全く重ねられなくて面白かったです。平田さんはあったまいーんだろーなー!て感じのおちゃめなおじさまでした。で、トーク内容を思い出そうかと思ったのですが、「しのぶの演劇レビュー」さんに大変正鵠を射たダイジェストがあったので、リンク貼ってしまいます(笑)。あ、最初の胎児映像は、飴屋さんのお子様の実際の映像だそうです。あと「消灯」で電気を消す演出は、静岡初演の初日にはなくて、2日目から行われたそうです。
 えーと、キャスト。現役女子高生と、初演時に現役だった元女子高生と、いるみたいですねー。とりあえず個人的に目が離せなかったのはクレバヤシです…ぎゃんわゆーい!! 飛び道具キャラで、正直開演直後はしばらくウゼーとか思っていたんですが、何かだんだん可愛くなってきちゃって…途中から釘付けになってしまった(笑)。お昼のお弁当がピンクと黄色のバナナケースに入れたバナナ2本とか! 昼休み後にもバナナ食べてたりとか! アニメキャラみたいな声と、ぎゅるぎゅる動くめまぐるしい仕草、ブランケットにくるまったり引っ被ったり、ぎゃーん思い出すだに可愛いー(笑)。近くで見たら、瞼にカーディガン? セーター?と同じ水色のシャドウ塗ってて、何かもう可愛いったらなかったですよ。ハイソックスに入ってる2本ラインも可愛いんだ。スガイとか、委員長とか、うどん(笑)*12とか、みんなかわいかったなぁ。教室で着席してる時、みんな膝くっつけないんですよね(笑)、がっと座って、なのにパンツは見えないという女子高生マジック(笑)。オモシロイなぁ。あと、同じ学校で同じ教室で、という話なのに、制服はおそらく彼女たちが普段着ているもの…なのかな。けっこうバラバラで、プリーツスカートにシャツだったり、ジャンスカタイプだったり、上からセーター着てたり、ブレザーだったり、いろいろで、着こなし方にもまた個性が見えて可愛かったですよ。
 また見たい作品、になりました。できたら同じキャストで(笑)…は大変だろうから、映像でもいいです。記録用と称したカメラ入ってたし…ダメかなぁ。くればやしが見たいよぅ(笑)。
しのぶの演劇レビュー: SPAC『転校生』03/26-29東京芸術劇場 中ホール
 PA卓で音を出す飴屋さんが、音出しのタイミングをこう、身体を前に動かしながら計ってらして、音響さんとかのお仕事現場を見たことがないので何とも云えませんが、何か…飴屋さんのライブを見ているような気にもなれてしまいました。演奏しているかのように音を出すの。で、客席も明るいことだし、ついついそちらも見てしまっていたのですが、トークの時に宮城さんが飴屋さんについて、「芝居を音楽、曲のように捉えてらっしゃるから」みたいなことを云っていて、わーまちがってなかったー、とちょっと思いました。

*1:@アネキの榮倉さん

*2:おそらく「アルビノーニ」のカンペのカタカナが、ビの濁点が大きくて隣のノとくっついてリに見えてしまったのではないかと推測

*3:何たって時報が鳴りっぱなしだから正格です

*4:客席まで容赦なく明るくなります

*5:たまに二人も

*6:WB的な!

*7:いやわりと誰でも身近に悩むことだろうけどさ

*8:その後他の少女たちが教室に戻ってきてもそのことにはほぼ触れられずに進む

*9:ディア誰だれ、のところはクスクス笑いで歌われない

*10:ここで役名が本人のものだというのがわかるの

*11:確か午後8時3分くらいだったと

*12:彼女結局あの1日は「うどん」て呼ばれてたねぇ