ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

演劇企画集団THE・ガジラ「PW」@本多劇場(3/8)

 北村有起哉さん出演で観に行った「新・雨月物語」でアヒャーとなり、「ゆらゆら」でこりゃ鉄板だと確信したガジラ、3回目に行って参りました。
 …うん、やっぱ鉄板だ。「好き!」とか「かっこいい!」とか「タマラン!!」とか、口にするのに多少の憚りを感じつつ、でも要約するとカッコ良くてたまらなくて大好き、になるんだ…。憚るほどの重さと、人間の闇を暴いて引きずり出し曝け出すグロテスクさ、に加えて、直接的表現のダイレクトな暴力に流血に嘔吐*1。でも、表象的な行為や行動よりも、その裏に秘匿されている事実や思いや記憶の方が、よっぽど醜悪で卑しくて悲しい。舞台上に現わされる場面がショッキングさを増すほどに、内面の醜さと悲哀がより一層浮き彫りになるのが、何とも云えない気持ちになります。変化球もカーブも一切使わず、直球一本勝負、だけどとんでもなく重い球を投げられるような。相変わらずカーテンコールのない終幕も、イヤーな気分(笑)のまま客電ついて放り出されたみたいな感覚も、若干無口になるのも、「これぞガジラ」とニヤニヤしてしまうのは、…ほらやっぱり好きなんじゃん、という(笑)。ええ、好きです。同じ鐘下演出でも、「ビロクシー・ブルース」は色んな意味で薄味*2で、求めるものが違うとは思いつつ物足りないというかもどかしい気分になったので、やっと取り返せました。鐘下満喫。悪趣味だ不健康だと云うがいいさ私は好きなんだ(笑)。
http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/pw/top.html
 以下、ストーリーのネタバレはありませんが、セットの説明なんかはしちゃってるので、これから見る方がもしいらっしゃったらお気をつけ下さい。
 
 終戦1年後、1946年8月の東京と、終戦間近の1945年夏のフィリピン・レイテ島を行きつ戻りつ、時に混ざり合いながら描かれる、息苦しいほど濃密な群像劇です。1946年8月、港に上がったひとりの女の死体、その死を巡り、捜査する刑事と容疑者として捕えられた復員兵、女の周囲に浮かび上がる男たちの影。殺人容疑の取り調べを軸にしながら、復員兵が捕虜として囚われていたレイテ島の収容所での情景が重なり、執拗に復員兵を尋問する刑事自身の背景が暴かれ、そして事件当日の真実が明らかになる…、という、筋だけ見るとミステリっぽくも思えるのですが、その全てに先の大戦と、「戦後」「敗戦」という重い影が暗く落ちかかり、全くミステリ的見方はできませんというか、それどころじゃありませんというか。玉音放送が流れて、戦争が終わって、空襲の脅威は去り生き残った兵士たちは戻ってきたけれど、だからといって8月16日から全ての杞憂が晴れるわけではなく、一切の苦しみから解放されるわけでもなく…当たり前のことなのだけど、終戦にも戦後にも掠りもせず、戦後民主主義の確立された上に生まれてきたわたくしには、その当たり前を想像することが難しかった、そのことにすごく衝撃を覚えた。戦争が終わった、生き延びた、良かった、それはもちろんそうだと思うけど、「その先」に思いを巡らすことができなかった、そりゃ突然の民主化やら教科書墨塗りやら、学校で教わる程度の知識としてはあったけど、何と云うか…リアルなレベルにまでそれを引き降ろして考えたことがなかった、ことに驚いてしまった。1946年に無事に生き伸びた人たちは、1年前には戦火をくぐり、戦場で死地をくぐっていた人たち。戦前も戦中も戦後も、ただ1日の連なりの中にあり、8月14日も15日も16日も、昨日の続きの今日であり、今日に続く明日でしかない。そういう、教科書の年表見てたら絶対に感じることのないリアルな感覚を、疑似だけど体感させてもらえた気がする。そんな舞台でした。
 開場して中に入ると、すでに舞台の幕は上がっており、蝉の声が響く中、舞台上には薬缶がひとつ、その隣に男がひとり、寝転がっている。3月なのに寒い外から、いきなり暑い熱い夏に放り込まれた感じでした。この、開演前と開演の境が漠然と溶け合った感じもガジラっぽくてにやりとしてしまう。まだ3作目だけど(笑)。あと、その3作がどれも夏の話なのも…夏好きなのかなーと思ってしまった(笑)。でも、ガジラの閉塞感と高温多湿な息苦しさは、すごく「夏」にぴったりじゃないか知らん。夏じゃないガジラも見てみたい気もしつつ。蝉の声が収まりつつ完全暗転、から始まります。セットは上手側にロープの垂れた1本の柱、首吊りみたいに見えるけど吊るのは首ではなくて手でした…。ここに吊られた復員兵の男が、ある時は警察の尋問を受け、そのままそこが収容所になり先輩兵のリンチを受け、また尋問に戻り、という…同じ情景をそのまま使ってふたつの時間を行き来する手法が見事。あと、セットの格好良さもガジラの個人的に楽しみな見どころですが、今回も…かっこよかった…! 始まってすぐは、上手の吊り柱以外特に何もない、狭い舞台だったのだけど*3、最初の一場が終わる時に背後の黒い紗幕に「PW」の大きなロゴが映し出され、グレゴリア聖歌のような音楽が流れ…舞台転換時のSEの格好良さもガジラの楽しみのひとつでありまして、芝居途中でストップモーションみたいに固まった役者の後ろに「PW」でグレゴリアンチャント、きたきたきた…!って(笑)。鳥肌でした。が、それ以降一度も暗転がなくて…暗転なし・セット換えなしで複数の時間軸を自在に見せる手腕はすごいと思いつつ、暗転時のSEもちょっと聞きたかったなぁとも思ってしまったりして。
 で、紗幕が役者によって剥ぎ落とされ、た向こうに空間が広がり、テーブルと椅子数脚、上手奥に鉄の階段、テーブルの上ではゆるく回転し続ける扇風機*4、舞台奥は格子状の木の壁、この空間が、時には警察署内、時には収容所、時には殺された女の店、と次々に変わり、また混ざり合い、重なり合い、照明によって区切られたり切り取られたりして、…すごく効果的かつ合理的。ややこしい時もあったけどそこはがんばって見るのだ。「向こう」と「こっち」の境界というか、通り道というか、「新・雨月物語」の時の穴みたいなものが、今回もありまして…これがまた最後の最後にクライマックスでめたくたかっこよく…水もよく使うガジラだけど今回はあんまりないなぁ、さすがに本多じゃそんなにできないのかなーなんて思っていたら、こちらもクライマックスでがっつり魅せて下さり…うわああああ。がっごえええええ。今回は、ちょっと「朧の森に棲む鬼」のあの森の門を思い出しました。オボロちゃんはいなかったけどね。
 タイトルの「PW」というのはPrisoner of Warの略、「生きて虜囚の辱を受けず、死して罪科の汚名を残すこと勿れ」と叩きこまれ、俘虜となって生き恥を晒すくらいなら自決を美徳とした戦時中に於いて、米軍に白旗を上げて投降し死を免れた捕虜のこと。なのだけれど、ラスト、格子状の奥の壁の向こう側から強いライトが当てられて、舞台上全体を覆うように格子の影が映るのを見ていたら、戦後を生きている日本人全てが、戦争/敗戦という重い枷を繋がれ、檻の中に閉じ込められた囚人なのだと、そこから抜け出すにはただ一つ、生を断ち切るしかないのだと、敗戦後を生きるとはそういうことなのだと、何か…そんなことを思ってしまいましたよ…。生き残ることができて良かったと、それはもちろん喜ぶべきだけれど、それだけで生きてはいけないのだと、綺麗事では生きられないのだと、生き残るということはその後を生き続けること、生き続けるとは死ぬより汚辱にまみれるのだと、でないと生きられないのだと、…そういうものを眼前に突きつけられた気がしました。解説に書かれた「敗戦は日本人に何を捨てさせたのか?そしてそれがどのような結果をもたらしたのか?」は正直、わからないままだけど、そうやって汚泥を這うようにして生き延びた人たちの上に、現在の日本があり、そこで自分は生きているのだということを、頭の隅っこにでも置いておこうとは思うのでした。
 役者さんたち。寺十吾さんは…すごい大変ですよね…冒頭ほぼ殴られっぱなし、転げ回りっぱなし、中盤は吊られっぱなし…1日2ステとかほんと大変そうで…あと悲鳴がすごく…良い悲鳴(?)でした。本当にお疲れ様としか…。あ、何か、あの箱サイズで格闘シーンを見ると、「なるほどー受身ってそうやって取るのかー!」というのがよくわかりました。投げ飛ばされても基本的に、足の裏から着地するのね。凄いなぁ技だなぁでもそれでも痛いよなぁ。うじきつよしさん、高潔でやり手な刑事さんなのかと思いきや、後半の堕ちっぷりが見事。松永玲子さんは妖艶でした。ナイロンのお芝居でちょっと見たことあるのと、あと演モバの「今夜もネットショッピング」の印象しかなかったのだけど…凄い女優さんなんだな! 町田マリーさんがまさかのモンペ姿で…しかも何かその清楚なモンペ姿なのにすごく淫靡な感じでね…流石です。スタジオ・ライフの小野健太郎さんが、若くて神経細そうな青年を好演してらして…ベテラン陣の中の唯一の若手という感じでした。宮島健さん、何か初めて見た気がしないんだけどどこかで拝見してたのかなぁ。やったら動きのキレがいいおじ(い)さん、という。すごいインパクトだった、キャラも役も。今回、若松武史さんがいなくてちょっと残念だったんですが、宮島さんで補えた(笑)。
 やっぱり、ガジラは鉄板だなぁというところで落ち着きました。終演後にカフェでお茶しながら、次いつだろうねー楽しみだねーと気の早いことを云い出すほど。ええ、次も絶対観に行きます。
 …で、こんな重くてずっしりなガジラさんなのに、オフィシャルブログは何だか可愛らしい雰囲気なのが…なごむ(笑)。PWのりまきとか! ちょ、食べづらそう!!(笑)
 舞台写真もあるので雰囲気だけでもどうぞ〜。→演劇企画集団THE・ガジラ オフィシャルブログ THE・ガジラ党

*1:ガジラと云えば嘔吐、嘔吐と云えばガジラ!的な勢いで

*2:いやーガジラ全開じゃ無理ですよね色々

*3:本多って狭いな!と思った…そんなわけないっつの

*4:この回りっぱなしの扇風機もガジラっぽいアイテム