ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

ベジャール・バレエ・ローザンヌ「80分間世界一周(Le Tour du Monde en 80 Minutes)」

 期間限定レイトショーを水曜日、観てきました。今年の2月4日にDVDで発売されている映像を、映画館で特別上映する企画、のようです。ゲキ×シネみたいなものね!
 この「80分間世界一周」は、2007年11月に逝去したモーリス・ベジャールの遺作となった作品…というか完成を待たずに逝ってしまったので、彼の遺志を継いでジル・ロマンが完成させた作品で。BBLの来日公演はなぜかここ数回、いつも「バレエ・フォー・ライフ*1」で…新作見たいのにやってくれなくてじりじりしていた*2身には、たとえ映像でも観られるだけでありがたい!のです。うひ。
 ジュール・ヴェルヌの「80日間世界一周」にひっかけて、80という数字にベジャール自身の当時の年齢をかけ、上演時間もほぼ80分。こういう言葉遊びというか、かけ言葉でどんどんイメージを重ねていくのはベジャールさんお得意というかお好きですよね。Mとか。一周する「世界」は、彼自身のルーツを辿り、彼が訪れて影響を受けた各国を巡っていく…この各国が、民族音楽ととってもベジャールな振り、そして独特な色彩感覚*3で次々と舞台上に現れていくのです。面白いの、ベジャールイッツ・ア・スモールワールド的な(笑)。
 「旅人」である、おそらくベジャール本人の代弁者でもある青年*4 *5が、黒衣の男*6に導かれ、各国を巡り、その国のダンスに取り込まれ、彼が加わることによってその国のダンスに広がりが生まれ、また次の国へ、時代へ…という作りになっていたのが、何か、見たことあるというか…知ってるというか…彼がWLのアリスに見えてきて、そんで黒衣のジルが中川先生に…わはは。すみません(笑)。でも構造としてはとても似ていたので、何だかとても楽しかったです。一般的なBBLファンよりきっと楽しんだよ(笑)*7
 長くなっちったので畳んでおきます。

 旅はアフリカのセネガルから始まります。漠然と、アフリカだなーとは思って見てたけど、セネガルだってのはさっき知りました(笑)。ベジャールの曾祖母がセネガル出身とのことで。冒頭のナレーションで、ベジャールにアフリカの血が流れていなかったら彼の踊りは生まれなかっただろう、みたいなことが云われてて、その後だったのでわかり易かったです。…公演だったらパンフあるからちゃんと観られるんだけど…もったいないというか悔しいというか。先入観皆無で観ることはできる、んだけど…それだけで受け止めるにはいろいろ乏しいんですよ知識とかイマジネーションとかがね…。でも、何となく、ルーツの根っこ部分で、アフリカで、女性ダンサーのソロで、何と云うか…ベジャールのルーツでもあるんだけど、人間のルーツ*8でもあるよね、なんて…これはセネガルだと知らない時に勝手に思っただけですが(笑)。とてもおおざっぱにアフリカ大陸!としか思ってなかった…残念な…。
 よく、人生は長い旅のようなもの、みたいな比喩的表現を見かけますが(笑)*9ベジャールにとってそれは決して、喩えではなかったんだなぁと。ジルは人生の*10水先案内人、みたいなポジションに見えたんだけど、流れる「時間」の象徴的な存在、でもあるのかなーと思いました。旅人がその地を去りがたくても、出立の時を告げる存在。次に行かなくちゃと旅人の背中を押し、手を引く、いつまでもその場所に留まることはできない…みたいな。旅人がその国と楽しそうに踊っている間に、舞台を無表情に横切り、振り向いて旅人を見つめる黒衣の男、が、人智を超えた存在の持つ非情さのようなものを纏っているみたいにも見えたりして。…いやもうとにかくジルがかっこいいんですけど(笑)。アフリカの辺りは、舞台上にパーカッション奏者が2人ほどいて、打楽器の生演奏がプリミティブな躍動感を一層引き立てていましたよ。生で見たらもっとすごいんだろうなぁ!
 凄かったのは、エジプトのソロを踊ったジュリアン・ファヴローが…すっかりベテランというか、王者の風格を纏ってらして…わぁ(笑)。明るい緑色の長いローブを羽織って、ゆったりとした動きで…圧倒的だった…。ジュリアンはほんと、「バレエ・フォー・ライフ」日本初演の時の印象が強くて…真白い肌にふわふわ金髪ベビーフェイス、なのに首から下は完璧な肉体美のかわゆい王子様…てイメージがずっとそのままで…「バレエ・フォー〜」2回目を見た時に、おお大人になってる!!って思ったのは覚えてるんだけど、…そうだよねもうベテランプリンシパルだよね…。今回、金髪を暗い色に染めて、肌も浅黒く焼いてて、非常にマスキュランなかっこよさでした。また隣にいる旅人エティエンヌ君がちっちゃくて可愛いからよけいにさ!! 前はキミがぴちぴちポジションだったのにね!!*11 ただジュリアンはもともとお肌真白なので、両腕を上げると脇の辺りに焼きムラがあって、脇だけ白いよジュリアン…と思いましたよ。すいません。
 ざっくりと覚えてる範囲で、各国の印象的なのを。どこの国だか忘れたというかわからないというか、雰囲気的には…アルゼンチンとかポルトガルとかな感じだったんだけど…あれもギリシャなのかな…パ・ド・ドゥで、女性が途中でトゥシューズを片方脱いで、片足だけポアントで踊ってたのが何だかカッコ良かったです。脱いだ片方のトゥシューズに添えられる一輪の赤い薔薇、ていうのも綺麗だった。ギリシャと云えば、白いドレスの女性のソロ前に、旅人が「お母さん!」と呼びかけて倒れ伏す、みたいなのがあった…と思うのだけど*12、やはりベジャールの中で、母(la mère)と海(la mer)は切り離れることはないんだな、と。ベジャールさんのお母様はギリシャの血が入ってるんですかね?? あ、ベジャールバレエはセリフがあります。いわゆる「バレエ」のイメージより、シアトリカルなのも好きな部分です。ヴェネツィアはカーニバルの道化みたいな二人が可愛かったなぁ。衣装が白くて帽子が長かったから、仮面がなかったらコックさんみたいにも見えたけど(笑)。やたら筋肉自慢?な明るい…軍人さん?は、ベニス〜イタリア、なんだけど、イメージ的にはマルセイユな感じもしました。何となくね。「美しく青きドナウ」でウィンナワルツを踊るペアとは別にパ・ド・ドゥを踊る…のが、そのままウィーンなのか、それともハンガリーとかなのか…一瞬考えちゃった。ドナウ川ってどうしても、ブダペストとか東欧の印象で…でもドイツが河口でウィーンも流域なんだね。長いもんね川…。というわけでウィーンでした。ドメニコ・ルヴレも観られて嬉しかった〜! 大好き!*13あとジル・ロマンが、これまで黒衣の男で導くけど踊らなかったジルが、ここでちょっとだけだけど踊って! 暗い舞台上で黒い服から閃く手のひら、とかが悉く格好良くて! もうね、ジルが動くとね、風が吹くんだよ。少し香辛料のぴりりとした匂いが混ざった、南国の花みたいな香りの風が吹くんだよ。甘いんだけどスパイシーなんだよ。やっぱ存在感が圧倒的だ…。背後にスクリーンが下りて、正面から強い照明でダンサーふたりの影を映し出す、映画的な*14演出のパ・ド・ドゥもかっこよかった。あれついつい影の方を見ちゃうのが面白いんだ…照明からの距離を使って、影の大小で遠近を表したり、面白かった。シルエットで見ると、逆にダンサーの体の動きやラインがより強烈に見えたり…装飾を一切そぎ落とした黒一色の影だからこそ、みたいなね。で、そのウィーンから、一気にアジアに飛ぶんだけど…こういう劇的な場面転換がカッコイイのもベジャールバレエだなぁ!と。暗から明へ一気に切り替えるのとか、スクリーンが上がるとその奥にずらりと控えている群舞の男性ダンサーとか…ほんとドラマティックで鳥肌が立つ。こういう演出もシアトリカルというか、総合的な舞台芸術だなぁと思います。…個人的に、奥行きを使った演出が好きなのもあるんですが(笑)。奥に別の世界がある感じ、が好きなんです…。わくわくするんです…。インド? インドネシア? なんか東南アジア系の…男性の群舞がまたカッコイイんだ…カッコイイしか云ってない気がするんだけど…チベット僧みたいな印象の黄色い衣装もかっこよかった、ストイック。で、チャイニィな音楽で中国に来て…ここでエリザベット・ロスですよ。赤い衣装で踊るんですよ。ロスの全身筋肉みたいな身体がすごく好きだー。久し振りに観たけど、動き出した途端に「わぁエリザベット・ロスだ!!」ってすごく思って…動きの個性がね、何となくだけど…覚えてるというか。思い出せたというか。面白いもんだな〜と自分で思いました、うすらぼんやりと(笑)。一緒に踊ったのがジュリアンで、ここではカッコ良く…でもエジプトの緑の時のタダモノでない感は抑えめでした(笑)。ほんと緑のジュリアンはすげぇタダモノじゃなかったもん。あとは…ああ! ペンギン! まさかのペンギンが!! 北極なんですが、ペンギンがたくさん出てきました。びっくりしました。ペンギン…なんだけど動きはダンサーなの*15…でもかわゆいの…。まさかBBL観て着ぐるみに遭遇するとは思ってなかったです。でもベジャールっぽいといえばぽいのかも、茶目っけとか! 巨大な風船の地球が出てきて、ペンギンたちがそれを囲むんだけど、地球はだんだんしぼんでっちゃって…温暖化とか、環境破壊とか、そういうメッセージなんだろうな…と。しぼんだ地球に悲しそうなペンギンが、旅人に順番に慰めてもらうのとか、可哀想だけど可愛かった…ちゃんと一人こけたらみなこけた、ってやってたし(笑)。あとあと、アメリカ!な感じの…サンフランシスコらしいんだけどブロードウェイ?みたいな感じもして、そこでエティエンヌくんがタップシューズ履いてタップ踏むんですよ。わーベジャールダンサーってタップも踏めるの!?*16何でもできるんだなぁすごいなぁ。で、エティエンヌくんが髑髏を持って踊ると、黒人のダンサーが一緒になるところがあったんですが…どうにもベジャールで髑髏出てくると、ジルが踊った*17ハムレット」が…直結で出てきてしまう単純な頭…。アレもめためたかっこよかったんだ…って結局ジルになってしまう(笑)。えーと、続いて舞台上に再び打楽器生演奏が表れて、何やらフォルクローレケーナの音など響き出して、アンデス地方な雰囲気になり*18、そのまま…サンバ?だと思うんですが、ホイッスル鳴ってたし、たぶんブラジルのカーニバルなんだと思う。色鮮やかな衣装で、楽しそうなお祭り騒ぎになって、旅人も一緒に踊る…のですが、カーニバルの途中に雷鳴が轟き、お祭りは一旦中断というか…不穏な空気に。でも、お祭りは再開して、熱狂の渦に巻き込まれながら幕が下りる、というラストでした。何かね…この、カーニバルの中断〜再開、というのが、創作の途中でベジャールを失ってしまったこの作品そのもの、みたいに思えてしまって。ベジャールの死は、雷鳴なんてものではなく激震が世界に走る衝撃だったし、そもそもこの作品がどの程度まで出来上がっていたのかもわからないので、何とも想像というか妄想でしかないんですが…でも、中断しても再開して、お祭りは続いていくんだよ、ていうこの作品を、すごく前向きな意味に、そういうメッセージに、捉えたくなるのでした。ジルがちゃんと、彼の世界を引き継いで、続けてくれる、ていうね。
 で、だらだらと、まるで観てきたかのように書いてますが、でもこれ全部映像だから(笑)。ゲキシネだから! もちろん、ゲキシネと同じように…生で見るのとは違った利点と難点がありまして。やっぱりダンサーの表情とか、細かい部分を寄りで見られるのは映像ならではだし、真上からのアングルもふつうは見られなくて面白かったし、前の人の頭とかそういうストレスがないのはありがたいです(笑)。カーテンコールで幕が上がる前の舞台の様子とかも見られたの、面白かった〜。最後がブラジルのサンバで、すごく激しい踊りを続けてそのまま幕が下りた、その中身が…座り込んでバテてるダンサーさんとかもいて、わぁバテたりするんだ!と思ったり、…そりゃあれだけ踊りゃバテもするよな…と思ったり、面白かったです。が、ゲキシネでもたまにあるけど、「ああっココは正面から引きで見たかったのに!」ていう場面で寄ってたりとか、あと斜めからのアングルが多かったり*19とか、その人じゃなくてあっちの人が見たいのに…とか、そういうのは…やっぱりね(笑)。今回一番、あああ!て思ったのは、えーとウィーンの場面で、後ろにずっと、スクリーンで青空の写真?が映し出されていたんだけど、それが上がった時に、その向こう側で群舞のダンサーさんたちが、狭いスペースにぎゅぎゅっと詰まったまま、手前のエティエンヌくんと同じ振りを踊っていて…スクリーンが上がってその向こうに群舞がいる、のを正面から見たらきっと鳥肌モンのカッコよさだったろうなぁ…と…ええ、寄られてしまいました群舞に…。あれは引きの絵を正面から見たかった…!
 まとめて一言で感想を云うと、「…生で観たいなぁ!」になってしまうのですが(笑)。そりゃそうだよね仕方ない。観られただけでもありがたいんだもの…でもいつか日本に来てくれないかなぁ。
 上映終わってロビーに出たら、物販でベジャールの「くるみ割り人形」のVHS(笑)が半額になっていて、手が伸びかけたのを反対の手で止める、くらいの我慢をしました…ほ、ほしかっ…だって十市が猫やってるんだもん…十市さんの猫は可愛かったんだよ、傍らに座って、投げ出した片足ぷらぷらさせるとそれが尻尾に見えてね…。
 あと、オマケというか私信的に。わたくしが一目惚れしたニーベルングの赤髪ジルと、若かりし日のジュリアンを貼っておきます。赤髪ジルは本屋でこの表紙見て、なにこれ!?て思って買って、ここから私のBBL傾倒が始まったという記念すべき1枚です。ジュリアンは、この輝かんばかりのピチピチさと、昨今の王者の風格のギャップをご理解頂けたら幸いですよ(笑)。1998年の来日公演パンフより、フレディ・マーキュリーを踊ったぴちぴちジュリアンさん。隣にサインが入ってるんですよ(笑)。

*1:フレディ・マーキュリーの生涯をテーマにした、クイーンとモーツァルトの楽曲を多用した人気作品

*2:けどDVDは買わない貧乏な

*3:衣装はもちろんだけど…舞台上の色彩が独特なんだよね

*4:ていうか少年みたいに見えるんだ…!

*5:エティエンヌ・ベシャール1987年生。はたちそこそこ…! そりゃピチピチだわ!

*6:ジル・ロマン。がぁっごよがっだあああ!!

*7:方向性はともかくとしてね!

*8:人類最初の一歩はアフリカ大陸に刻まれた、的な

*9:文学的だ!すくいようがない!!

*10:=旅の

*11:何年前の話だっていう…

*12:朧げな記憶…

*13:何か…大好き!てなるダンサーさんがことごとく超ベテランのプリンシパルで…時の流れが…

*14:「Cinema!」って云ってたし

*15:中身はルードラの学生さんたちらしいです

*16:いや彼が、ですよね…?

*17:のしか私は知らないんです

*18:あんまり覚えてないや

*19:斬新で面白いんだけど、視界としては微妙…