ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「新・雨月物語」@世田谷パブリックシアター

 で、クリームパンを咀嚼しながら電車を待って、三軒茶屋に移動して、本日のメインは北村さん舞台です。世田谷パブリックは可愛くて大好きなホールなんだけど、ギリギリめに入ったのでロビーの椅子とか堪能できずちょっと残念。席がセンター3列目と非常に良席*1で、段差もしっかりついててすごく見やすかった。でも2階の手すりとかも黒アイアンで可愛いんだよ。
 やたら分厚いチラシの束を受け取って席に着くと、幕の降りていない舞台が見えていました。北村さんがブログでも書いてたけど、円形の舞台の回りにぐるりと、濠みたいな溝(幅1m、深さ2mくらいとか?)があって、雨でも降るのかね?という印象。蝉の鳴き声が低く流れていました。
 お芝居は休憩なしの約2時間。雨月物語はなんとなーーーく、うっすら知ってるけど、くらいの、前知識ほぼゼロで観ましたが、終演後隣の友達と顔を見合わせて発した第一声は「…すっごい…!」「かっこいいいい!!!」でした。すごい、大絶賛。もう一回観たかったー。冒頭の、これから何が始まるのか、予測もつかないけど何かが起こる感モリモリな、まるでお能のような幕開けから、全身の毛穴がぶわっと開くような怒濤の展開で文字通り、一気に向こうの世界に引きずり込まれました…。え? 何? どこ? 誰? いつ?と次々に頭の中に生やされる疑問符が、話が進むにつれてひとつずつ、ああ! それ! そこ! あなた!! で今か!!と感嘆符に置き換えられていく快感、パズルのピースがひとつひとつ正しい場所に嵌められていく過程にゾクゾクし、そして出来上がった1枚の絵の全体図に、アドレナリン大放出。たまらない、すごい、かっこいいい!! お濠状の周囲を使った演出がまた格好良くて、セットも凝ったライティングもほとんどない、非常にシンプルな舞台構成なんだけど、何もないままに幽玄や夢幻、彼岸と此岸を見事に立ち昇らせていました。暗転と火の光とコロスみたいな群衆を使った場面転換がまた鳥肌モンで! 他の劇中場面では、ほとんど音楽は使われず、無音もしくは蝉の声、という感じなんだけど、場面転換の暗転だけはゴリゴリのロック系音楽がかなりの音量で流れて、それがまたとんでもなくワタクシのツボをぐりぐりと押して下さいました…ほんっとかっこよかったんだ…。
 ストーリーは、映画の「雨月物語*2をベースに、*3さらにそれを一段とブラッシュアップして、シンプルかつより悲劇的に、陰惨に、トーンダウンした感じ。カーテンコールもなく*4、ハッピーエンドにもならない重苦しーい空気を一切払われることなく劇場を出る、この鬱屈とした感じがたまらない! 重苦しいんだけど、満面の笑みで観てしまいました…だって展開が格好良すぎる…。
 もちろん北村さん目当て(…)で観劇を決めていたので、北村さんはガン見しましたが、何かね、役者の誰がどうであの役の誰が…っていうんじゃないんですよ。全部をひっくるめて総じてカッコイイんですよ。いやユッキーは色々全開で、汁も吸気も裸も出しまくりで大変宜しかったのですが、ていうかちょっと出し過ぎでしたが(笑)。葛城役の月影瞳さんとか、めちゃくちゃ素敵カッコヨかったですが。若松武史さんの艶のある声とある種異様な佇まいも目が離せない感じだったし。でも、正直一番鳥肌立ったのは、場面転換の集団シーンでした…あれホントかっこいいわ。
 以下、ネタバレありそうなので畳みます。明日でおしまいですが一応。

 
 
★★この先ネタバレあり★★
 

  • とりあえず、最初の武士…あれは森山栄治さんですか違いますか?の出の、緊張感というか、張り詰めた空気とゆるりとした動き、低く流れる蝉の声、そこからもうタマラナイ雰囲気がびっしびしでした。えっこの緊張感の中で2時間いくの!?とちょっと不安にもなりました(笑)。山本さんが出てきて、何とか普通に会話が始まってほっとした…。
  • がしかし、それから間もなく、最初の毛穴ぶわっとシーンなんだな! …と、その前に、曼珠沙華の根の毒を食べて泡を吹くのが、それまで普通にしゃべってたのに、突然泡噴いて倒れたので、え、いつ!? どのタイミングで泡!? ととても気になりました。何か含んでたのかなぁ…何の泡かなぁ。
  • 暗い浮島状の舞台を囲むように、下からライトで照らされた顔だけがぐるりと浮かび上がるのもすごくかっこよかった…あれは山神さまの使いというか、神の力の具現というか、でしょうね。かっこいいんだすっごく。
  • で、男の死体を穴に放り込む使役たち…うをおおおお! 穴!!と毛穴開く開く。しかも頭から行ったしね! もうタダモノではないぞこの舞台、この世界、というのを否応なく見せつけられて期待しまくり。
  • しかも畳み掛けるように暗転そしてカッコイイ音楽に舞台上を歩き回る蝋燭の火を手にした群衆。タマランったらない。
  • あの穴に入るのは、この世のものではないもの、ということなんだろうな。死者が捨てられ、化生のものたちが消えていく穴。葛城と籐兵衛が交わったのもあの穴の中なら、もう彼が今生のものでないことがわかる。…ていうかあの一場全部が、源十郎が見せられた「地獄」なんだと思うけど。
  • その穴に空蝉を投げ入れて燃やす、というのも、その窯で器を焼く、というのも、何だか象徴的というか、なるほどなぁというか。
  • 空蝉と器、というのも。音の類似と、「から」なイメージが何だか気になる、引っかかる。
  • 穴に消える化生たちが、みんなこう、挑戦的な顔を源十郎に向けて消えていくのが良かった。何だかとっても良かった。
  • ていうかラストの、目の前に現れるものが悉く、穴に消えていく、というのが…タマラナイんですよ。阿濱と宮木に始まり、襲ってきた雑兵共も、助けてくれた武将たちも、みんなみんなこの世ならざるもので、ただひとり取り残される源十郎…というのが、もう。ええ、女二人が穴に消える辺りから、もうワックワクでニッカニカして見てましたもの私。
  • あとキタキタキタ!!とニカニカしたのは、源十郎が片足を傷めるところ…これで冒頭のシーンのピースが嵌ってよっしゃー!となりました(笑)。
  • 2度目に源十郎が目覚めた所もよっしゃー!でした。今までの全ては悪夢、な展開が。まぁ醒めても地獄は続いてたのですが。こういう、世にも奇妙な的怪談展開はたまらなく好きです、わくわくします。
  • 武将の口から、馴染みの女郎の源氏名は確か…葛城、と出たときもニンマリでした。そうこなくっちゃー!!
  • 月雲と土蜘蛛、山の民と火の一族の因果関係が明かされる辺りもゾクゾクでした。葛城はカッコイイ可愛い切な悲しいし。

 …と、芝居・ストーリーの重さとはまったく無関係にやたらハイテンションに手に汗握りつつニッコニコと堪能してしまいました。だって! 面白かったんだもん!! 色々整理しながら、あ、さっきのもう一回、とかしながら、見たいなぁ。映像にはならないのかなぁ。
 ユッキー目当てのお芝居だったけど、思いがけず作品惚れ・演出惚れするものに出会えて、非常に嬉しかったです。ううーん世の中にはまだまだ、知らないツボ作品があるんですねー。出会えなかったものの中にきっと、これくらい「好き!」系なものがあるんだろなー、と思うと、もったいないというか、悔しいというか。

*1:Fさんありがとうございます!

*2:は「蛇性の婬」と「浅茅ヶ宿」がミックスされているそうです

*3:映画のあらすじを読む限り

*4:どうやらガジラ恒例のようです