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ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

「CLEANSKINS/きれいな肌」@新国立劇場

北村有起哉 舞台

 観てきました。うっかり千秋楽でした。
 初めての新国立でしたが、こぢんまりとしていて綺麗な劇場でした。後方端っこ席だったけど見やすかったし。ただ椅子がクッションとか何にもない、会議室椅子に毛が生えたくらいの簡素な椅子でちょっと座り心地がイマイチだったのと、床が木でちょっとでも足を動かすとヒールがぶつかる音が出てしまうので身じろぎできない感じ、なのが、休憩なしの濃密芝居にはつらかった、です(笑)。スニーカーで行けばよかった!(笑)
 前情報は公式サイトのあらすじと、稽古場レポと、先に観た友達の鼻息荒い感想と、あとアフタートークにあったらしい「有起哉さんが本物にこだわっているその日は特に大きかった何か」がある、そのくらいで挑んだ千秋楽。でも出演のお三方は、有起哉さんは言わずもがなですが、中嶋朋子さんは「オレステス」、あと銀粉蝶さんは去年のシティボーイズミックスで偶然にも拝見していて、どれも素晴らしかったのでとても期待大でした。特に銀粉蝶さんがね〜おばちゃんから少女めいた役まで幅広くキュートに演じてらしてね〜。素敵だなぁと思ったので楽しみでした。サドルバーとか素晴らしかったもんな!
 登場人物3名という、私がこれまでに観たお芝居(映像も含めて)の中で2番目くらいに人の少ない作品*1でしたが、3人が作り上げる小さくて濃密な世界にぐんぐんと取り込まれ引きずり込まれました。凄かった。軸となるストーリーも、突き付けられるテーマも、舞台上から発されるエネルギーも、どれもずっしりと重くて濃厚、だけど随所に笑いの種も蒔かれていて。奇妙な熱とパワーを孕んだ作品でした。
 イギリスの田舎で暮らす母ドッティと、イスラム排斥運動に参加する民族主義な息子サニーの元へ、家を出ていた娘ヘザーが突然現れる。が、ヘザーはサニーが忌み嫌うイスラム教へ改宗していた。静かに暮らしていた母子の日常に突然投げ込まれた「異教徒」という石、その石が立てる波は、妻子を捨てたドッティの夫の存在にまで及び、そして明かされる衝撃の事実、父親の真相…と非常にざっくりと云うとそんな話ですが、スクラッチくじ好きなドッティ、反イスラムを叫びながらもその根拠や理論は非常に薄っぺらなサニー、元ジャンキーで「最低」だったけどイスラム教徒になって今は「クリーンな身体」へと変わったヘザー、3人それぞれが強烈な個性を持ち、そのどれもに思い入れたくなる魅力を持っていて、それぞれの言葉や理論や身体をぶつけ合う、とてもパワフルな舞台でした。
 正直、途中までは、外国を舞台にしたストーリーでテーマが人種差別や宗教問題、という垣根に、感情移入のしようが見つけにくく、傍観者的な視線で、俯瞰に観ていました。日本に暮らす日本人の日常生活の中で、人種の違い、肌の色の違い、有色人種に対する差別、宗教の違い、そういうことを身近な問題として感じることって、すっごく少ないというか、ほぼ皆無だと思うので、そういったテーマを自分に近い問題として捉える、考えることが、とても…し難いな、と。どうしても他人事、遠い世界の話、としか思えなくて。でも、一度日本を出て、特にヨーロッパやアメリカ方面に行くと、突然それらが自分の身に降りかかってくるんですよね。日本にいる限り意識はされないけど、一歩外に出たら、自分が黄色人種のアジア人で非キリスト教徒である、ということを、まざまざと思い知らされる。ふとそれを思い出したと同時に、日本で例えば電車に乗った時、自分の隣に、白人種以外の外国人が座ったら、その時自分は何を思うか、そんなことをゆるゆると、頭の片隅で考え続けていました。差別とか、蔑視とか、嫌悪とか、そこまでの明確な感情はないにしろ、それでも何らかの違和感や緊張感、不安、そういった類の、根拠のない負の印象が、ないと云えるだろうか。それが果たして人種の違いや、肌の色の違い、そういった部分に由来するものなのか、それとも日本人特有の、非日本人に対する島国本能的な恐怖心なのか、言語コミュニケーションの通じない相手に対する恐れなのか、それとも全然別の理由なのか、その辺はわからないけれど、何らかの…「構え」が生じることは、ない、とは少なくとも私には云えない。学生の頃、エジプト人の男性と付き合っていた友人が、ヘザーほどではないけれどスカーフで頭を覆って現れた時、実際にイスラム教徒になった時、覚えた衝撃を、「衝撃を覚えた」という事実を、思い出してから、この作品は「遠いどこか外国の話」から、一気に私の隣の話へと変貌したのでした。
 愛している、その気持ちは絶対なのに、それでも話せば話すだけ考え方の食い違いは浮き彫りになり、言葉はすれ違い、理解し合えない言葉は凶器になり驚異になる。言葉や態度はどうであれ、母と娘、母と息子、姉と弟、それぞれの関係性は紛れもなく愛情で繋がっている、繋がりたいと願っている、のに。帰ってきたヘザーとサニーが、食卓でちょっとぎこちなく、目を合わせず、でもサッカーのラジオの話をしている場面が、久しぶりに顔を合わせた姉弟の、懐かしいけどどこかぎくしゃくした、照れくさくて緊張感を孕んで、でもお互いに気心は知れている、そんな微妙な距離感を表しているようで、弟持ちの姉としては非常に…愛しい場面でした。特にヘザーの、ちょっと気を使って話しかけてる感じとか。つっけんどんな無愛想な口調だけどちゃんと答えてるサニーとか。何か…悲しくて愛おしくて、よくわからないけどちょっと…じんわりしてきた(笑)。すごく好きなシーンでした。
 後半からラストの怒濤の流れは、かなり唐突な幕切れで突然放り出されるように終わるのですが、あの後あの3人はどうなるんだろう…と考えると…どうなるんですかね。サニーは母を、姉を、父を、自分を、受け入れられるのか。ヘザーはロンドンに帰るのか。ドッティは元夫に会いに行ったりするんだろうか。折り重なって倒れ伏す母と息子、その背を抱きながらヘザーの呟く「何もかもうまく行くはず、インシャ・アラー(神の思し召しの儘に)」が、果たして二人の胸に届いていたのかどうか。「愛してる」と抱きしめた母を、殴り飛ばす程のサニーの絶望は、どの「神」の思し召しで救われるのか。イスラム排斥の根拠の薄さと同じくらいに薄そうな、サニーのクリスチャンとしての信仰を考えたら、彼を救うのは神ではないのかも知れない。
 …とぐねぐね色々思ったり思わなかったりしたのですが、こんな日本人には取っつきにくいテーマだけれど、でも3人がそれぞれとっても魅力的かつチャーミングに演じられているので、それはもう楽しめました。いやぁ銀粉蝶さん流石! キュート! 素っ頓狂な可愛らしさと、お腹の底がひんやりするような恐怖、その絶妙な入り交じり具合がたまらなかった。中嶋さんの凛とした表情が、激しくうねる芝居の中核を支えていたように思える程でした。まとめ髪の美しさ、祈る姿の清浄さ、受け入れられない悲しみと苛立ちを黒いスカーフで覆い隠して遠慮がちに浮かべる微笑みの、寂しさと強さも素晴らしかった。そして北村さん。これまで、そのキュートさを際立たせる為にあったチャームのひとつである珍獣的動作が、奇矯な物言いが、全て「人を小馬鹿にする」為の強力な道具として使われるとは、使えるとは。汚い言葉で罵るしか非難のできない薄っぺらな国粋主義、何もかも「スティービー」の受け売り、そんなサニーがスティーブに拒絶された時の、絶望でカチコチになってしまう長身が…哀れでならなかったです…。本当、見たことのない北村さんがたくさんいました。浅はかだけど憎めない、愛しいけど何一つわかっちゃいない、困った子供の酔っぱらい。盛大なげっぷとか、スタンド点けたり消したりとか、テーブルの上にどろーんと伸びた先でドッティに写真突き付けたりとか、何かもう…やってることは酷いのに、同時に可愛くて、可笑しくて、そして非常にむかつく(笑)。
 全力疾走、濃密、重厚、そんな舞台でした。ぶった切られるようなエンディングの後、手を繋いだり抱き合ったりもつれ合ったりしながら、笑顔全開でカーテンコールに応える3人が、「いつかこんな風に笑い合えればいいのに」と思うドッティ・ヘザー・サニーの姿に重なって、何だかその辺でもじんわり来てしまいました…いやそこはそういうところじゃないだろうに(笑)。
 凄いものを見た、凄いものを見せてもらった、そんな満足感と重さでいっぱいです。…これ、BSとかでやればいいのになぁ。
 終演後は新宿ルミネ地下にできた*2HERBSというケーキ屋さんで30分くらいの行列に並んでお茶とケーキを食べました。ケーキ大きいの! モンブランが山のようなの(笑)。紅茶もカップやポットが大きくて、満足感たっぷりでした。おまけにお店の内装が可愛い! 白くて可愛い!! わかりやすく狙いすぎだけどやっぱり可愛い!!(笑)

*1:トップは大竹しのぶ一人芝居「売り言葉」

*2:結構前だけど