ミライ派野郎

森山未來とその周辺を果てしなく気持ち悪い感じに追いかける桐の日々散々。

土曜日:阿佐ヶ谷スパイダース「イヌの日」観てきたよ@本多劇場

 「LAST SHOW」の何とも云えない、いーいイヤさというか、イヤ〜な良さというか、が忘れられず、是非観てみたかった長塚圭史作品。ううん、期待通りのいーいイヤな、イヤーないい、気分で帰ってこられました。ものっすごい頭痛に襲われたけど。
 広瀬*1が先輩の中津*2に破格のバイト料で頼まれた仕事は、地下の防空壕跡で暮らす男女4人の世話。外界からの接触を完全に断たれ、広大な暗い穴の中で暮らす人々に、中津は「外は地獄だ」「こうしてここでぬくぬくと暮らせるのは幸せなことだ」とくり返しながら食料を運ぶ。この人たちはどうしてここに閉じこめられているのか、何故中津は彼らを監禁しているのか。穴の中と外を、舞台を上下に2分割してそれぞれに展開させていく、パラレルワールド的な世界が、中と外が混ざり合う時に破綻していく。
 「LAST SHOW」でもそうだったのですが、善悪って何?とか、どうしてそれはいけないことなのか、とか、何が「良い」で何が「悪い」なのか、とか、そういう価値基準を、法的であったり倫理的であったりな部分とは違うところで、根底から揺さぶられる。この揺さぶられ感が、気持ち悪くて気持ちいいのです。これを、この観劇後の足下がぐらぐら揺れる感じを、味わいたくて観に行くのです。中と外ではどっちが幸せなのか。その答えは与えられないまま、客電が着いて劇場から放り出されると、下北沢の喧噪。この放り出され感がまたたまらない。
 ある意味、中は完全な、完成された楽園だったのだと。それは閉じこめられた4人にとってでもあるし、閉じこめた中津にとってでもあったのだと。できるなら、中津もそこに、中の世界にいたかったのではないかと。でもいられないから、だから彼は彼なりに全力でそこを守ってきたんだろうと、ぐらぐらぶつぶつと考えたのでした。普通に考えたらいいわけがない、犯罪なんだけど、その「普通」とは違うレベルで「どうしていけないの」「善悪って何なの」「誰がどこで決めるの」と揺さぶりを掛けられる。答えは多分、見つからない。
 脚本と一緒に、是非観たい!と思った中山祐一郎さん。ギリギリな感じがすごく良くて、ギリギリな感じが切なくて息苦しかった。いっぱい笑わせてもらえるんだけど、総括すると切ない。…のは、地下組にはみんな云えるかな。剱持たまきさん。遠目でも美女オーラ出まくり! 声がまた可愛らしく、清楚なんだけど…同時に滴るような毒も感じさせるのは、役の所為もあるのでしょうか。無垢で清楚な毒の塊でした。ステキだった! 松浦和香子さん。彼女と中山さんは初演と同じキャストだそうで…地下の世界観を体現するような方でした。彼女演ずる「柴」と中山さんの「孝之」のシーンは何か…愛おしくて切ない。内田滋さん。髪伸びた!(笑)奇妙な状況に陥れられ振り回される、観客に近い立場の役ですが、うまく乗っかって観られました。伊達暁さん。悲しかった。色々悲しくて切なかった。怖いけどやっぱり切なかった。暴力的だけどすごく悲しい。最後に何を見たんだろうか。美保純さん。色っぽくてダメで悲しい母親でした。ダメだった…本当にダメだった…。ダメながらも精一杯息子を愛そうとして、息子に愛されたくて、取った手段はやっぱりダメだった…。八嶋智人さん。出てることを軽く忘れてた…。何というか、ジョーカー的存在でした。すごかった、さすがの存在感だった! 特に後半〜ラスト、短い登場時間でこんだけ背後に色々背負ってる感を漂わせるのは、脚本や設定もだろうけど、芝居の力というか役者の力というか、凄かったです。
 広瀬が選んだ最後の選択、そしてその後。ラスト、一体何を見たのか、幻覚かそれとも…、色々崩されて考えさせられる芝居でした。頭痛くなりました。でも見に行って良かった!
 ロビーのチラシ置き場に婚礼チラシがごそっと置いてあったので、サルクロちゃんを頂いて帰りました。んー、黒いサルだよ。